旅のまにまに
その拾八・厠所大厦
旅先で食べる、寝る、移動する、に加えて『モノ出す』ことは人間生活の上に
おいてとても重要な問題である。
近年、わが日本では脱臭装置付ウオッシュレットに抗菌便器などというちと
やりすぎ感の強いのがお好きなようであるが、アジアをバックパック担いでふらふ
ら旅する者にとってはそんな贅沢など言ってられない、けどこれがまたその土地の
風情を味わえるので結構面白いものである、例えば前回の『タイのミニシャワー』
の一件もそうでしたし(笑)。
そしてインドでも結構その『モノ出す文化』の違いにはたいへん驚かされた。
都市部以外の庶民の方々はトイレが家に無いからなのか、単に開放感の中でいた
したいのかどうかわからないが、外で用を足される方がかなり多い、海岸や川岸に
行けば水入れの空缶をぶら下げた人達が無数にしゃがんでいたしている光景には本
当に驚いてしまうが、あぁ、なんとも気持ちよさそうだわい、ともちょっとは感じ
たけども、その開放感がここまできたらかなり気分が悪い。
それは目的地に着くまで一晩中揺られつづけていた列車の中、やっと朝を迎えて
朝日が遥か地平線の彼方よりいでたるを神に感謝するかのごとく敬虔な気持ちで眺
めていると、ふと線路に沿ってポツポツと人がワシの乗っている列車を見つめなが
らしゃがんでいる。 それが一人二人ならともかく延々と線路沿いに無数に座り込
んで列車を眺めているのだ、ほぅ、朝日に列車という最高の風景を見
るためにわざわざやってくるなんてインドの人って意外と芸術肌なんだぁ、と感動
していたのも束の間、その流れてゆく光景の中にふと水の入った空缶が目に付いた。
しかもそれはしゃがんでいる人の前に必ず置いてある、おいおい、これって。
そう、別にこの人達は朝日と列車を見にきた訳ではなく、ただ単に朝一番の
『排出』をするために線路沿いで用を足していただけなのだ。
なんで旅をしている乗客に向かって、と怒りたくなるんだけど、手にしている切
符には『Happy Journey』の文字。。。あぅ、ワシって、めっちゃエエ旅し
てるっちゅうねん!
他にも、インド列車内のトイレもなかなか。
みんな勝手者のインド人にかかれば、どんなに美しいトイレもぐちゃぐちゃ、当然
に長年勝手し放題された列車のトイレはもう想像を絶する惨さであるが、ふと見上
げるとなぜか天井に蛇口が、実はこれシャワー。
なんとも日本よりも早くユニットバスの原理が使われているとはさすがインド、
実際に時折用を足すのに混じってシャワーでさっぱりして者もいるくらいで、やは
り何日も熱く砂埃まみれの中、揺られ続けるのでサッパリしたいという気持ちもわ
かるけどねぇ。
けどワシはそのシャワーだけは興味はあったが使う気にはなれなかった、だって
汚すぎるのはもちろんのこと、タンクはそれほど水を溜めている訳ではないの
で急に水切れになって悲惨を味わうのが怖かったからである。
今思うとちょっと勿体なかったな、って気もするけどね。
『トイレにシャワー』で思い出すのが、タイ・バンコク中央駅構内にある公衆ト
イレ、広いトイレの室内には大小便器の他にシャワー区画も備え付けられており、
用を足しているその横でシャワーを浴びているという妙な光景を見ることが出来た、
なんともイヤ〜な気分になれること間違い無しである。
ただし、シャワー利用する時はトイレ入口にいる係員に利用料を支払わなければ
ならないのだ、単にトイレを利用する場合は無料である、しかし、数年前に中央駅
も全面的に改装されたと聞いているので、この公衆トイレが今も健在なのかはちょ
っとわからない。
また久々に確認がてらにバンコクヘ行って来ようかな、と密かに計画中である。
(最近はトイレだけでも有料だったよ、との情報もあり)
そうだ、偉大なるトイレ大国『中国』を忘れていた……単に深く掘られた溝に
みんな一列に並んで仲良く排出、とか大草原の真ん中のぽっかりと空いた小さい穴
に向かって、などなど多くの旅人達の凄まじい武勇伝が物語るように、さすが中国
四千年! と唸りたくなるようなトイレが無数にある。
といっても中国を代表する『こだわりの食文化』とは対照的に『排出する』こと
に対する徹底した無関心ぶりにどこまですればこうなるねん? という奇妙さの方
に感動をおぼえるのであるのだが。
そして、その中国のトイレの主な特徴として、『トイレは無料ではない』という
ことを覚えていて欲しい。
今にも漏れそう! という時に日本と同じ感覚でトイレに飛び込もうとするもの
なら、入口の係員にいきなり「金払え!」と鬼の形相で怒鳴られ、逆に縮こまって
しまうので危機回避、ってことにもなりかねないのでお気をつけを。
けれども、最近は自由主義的近代化の波が中国にも押し寄せてきて、
『公衆トイレも文明的に!』
のスローガンの下、いろいろとがんばりを見せてきている、先日の新聞にも「中国
はトイレにもホテルと同じように『五つ星』のシステムを導入」という記事を
見たときには、やはり中国だなぁ、って妙に感心してしまったほどだ。
まだワシは星級を掲げたトイレとは遭遇してはいないが、広州駅の東にある草暖
公園の中にあるトイレ(ここは入園料を取られるので利用料は無料)の入口に、
『尿槽禁止大便』
とデカデカと掲げられているのを見て、なんと文明的だなぁと大感激したが、そ
の直後、さらにワシを感激の嵐に放り込んでくれた強烈に素晴らしいトイレを発見
した。
それは広州駅前広場の西端にあり、一見鉄筋コンクリートの建物だが、それはな
んとビル全体がトイレ。
一階が女性専用、二階が男性専用、そして三階が休憩室というなんとも中国
的スケールの大きなトイレ専用ビル、中国風だと『厠所大厦』と言うのであ
ろうか?
もうこれを発見した瞬間、すぐさま料金(2角)を支払って飛び込もうとするも、
払ったのが1元(=10角・約13円)札なのにお釣りを渡さず、さっとポケットティ
ッシュを投げ返してきやがった。
「これがお釣り、金は返さないよ。」
と言わんばかりの態度に文明的な人民の姿を垣間見れて更に嬉しさも倍増し、
中へと入れば広いフロアの中に無数の個室、しかもその個室の中にはステンレス製の
水洗便器が一つ一つ。。。さすが文明的国家、中国!
めちゃ感激したのは言うまでもない。
これで星が付いていないのだから、『五つ星トイレ』って、一体どんなもの
なのだ? すっごく気になる今日このごろである。

★これが『トイレビル』、すごい威圧感でしょ。
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私がカンボジアで遭遇した奇妙なトイレについての記事が収められてますので、もし本屋で見かけ
られましたら、またご覧下さい。
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