ロバート・サーティン |
1989年4月30日、イングランドの北東部に位置するタイン・アンド・ウィア州モンクシートンでの出来事である。
その日は日曜日だった。閑静な住宅街ではのどかな時間が流れていた。ところが、正午になろうとした頃、一帯に銃声と悲鳴が響き渡った。22歳の社会保険事務員、ロバート・サーティンが父親から無断で拝借したショットガンで隣人たちに目掛けて発砲し始めたのである。或る者は庭で、或る者は自動車の中で、また或る者は自転車で通りかかったところを撃たれた。被害者の1人、ロバート・ウィルソンは後にこのように語っている。
「彼は上から下まで黒ずくめで、銃弾ベルトをたすき掛けにしていました。それ以上のことは判りません。とにかく、出会いがしらに撃たれたんです」
騒ぎを聞きつけた或る主婦は「いったい何かしら?」と窓から顔を出した。
「僕だよ」
(It`s me.)
サーティンは彼女に事態を知らせた。
「今、人を殺しているんだ。あんたも殺しに行くよ」
(I am killing people. I am going to kill you.)
しかし、幸いにも彼女が標的になることはなかった。
最終的に14人が重傷を負い、1人が死亡した。サーティンはケネス・マッキントッシュを射殺する際、命乞いする彼に向かってこのように吐き捨てたという。
「駄目だ。今日はあんたの命日なんだ」
(No, it is your day to die.)
ひとしきり撃ち終えたサーティンは、自家用車で近くのウィットリー・ベイまで飛ばし、海を眺めていたところを逮捕された。自殺を企てる様子はなかったという。
法廷において弁護人は精神異常を理由に無罪を主張した。曰く、
「被告の心は自分以外の何かに支配されていました」
子供の頃から悪魔的なものに引かれていた彼は、イアン・ブレイディーやマイケル・ライアンに憧れ、その「聖地」を巡礼したりしていた。そして、彼が何よりも魅了されたのは映画『ハロウィン』に登場する殺人鬼、マイケル・マイヤーズだった。ビデオを繰り返し鑑賞し、マイケルの絵を描き、マイケルのようになりたいと願う日々を送るうちに、マイケルの声が聞こえるようになったというのだ。つまり、マイケル・マイヤーズに心を乗っ取られた挙げ句の犯行だったのである。ははあ、だから黒ずくめだったのか。
かくして精神異常と認定されたマイケル、いや、ロバート・サーティンは無罪となり、精神医療施設に収容された。ここで一句。
「スプラッター 観るのはいいが ほどほどに」
でないと、こいつのようになってしまう。
(2011年1月17日/岸田裁月) |