パトリック・シェリル、ジョセフ・ハリスに続く3件目の郵便局員による狼藉である。追随者はいずれもシェリルの影響を受けており、その意味でトリロジーと呼んでもよいだろう。
ミシガン州ロイヤルオーク郵便局で配達人として勤務する元海兵隊員、トーマス・マクルヴェイン(31)は実に厄介な男だった。柔道の黒帯有段者で、キックボクサーでもある彼はとにかく暴力的なのだ。職場での揉め事や配達先でのトラブルが絶えなかった。度重なる停職を経て、1990年に遂に解雇された。しかし、納得出来ない彼は労働組合を通じて解雇無効を訴えていた。
その訴えが検討されている間、マクルヴェインは上司や同僚を脅し続けていた。自宅や職場に脅迫電話をかけたり、職場付近で面と向かって脅迫した。
「エドモンドの事件を憶えているか?」
パトリック・シェリルが起した「going postal」の事件である。
「俺がその気になれば、あの事件がディズニーランドやピクニックに見えてくるぜ」
つまり、それだけの大殺戮をやってのけると豪語したのだ。
また、ある女性職員などは、このように怒鳴りつけられたという。
「俺に背中を向けない方がいいぜ! でなきゃお前はあの世行きだ! 必ず始末してやるからな!」
(You had better not turn your head because you'll be dead. I'm going to get you.)
そんなわけだから、彼の訴えが却下されたとの知らせを受けた職員たちは震え上がった。奴が復讐に来るのではないか。上司は慌てて警察に警備を要請したが、まさかそんなことはありませんよと一笑に付された。マクルヴェインが「going postal」に打って出たのは、その翌日のことだった。
1991年11月14日午前8時45分、怒り狂ったマクルヴェインが案の定、ロイヤルオーク郵便局に現れた。その手にはルガーのカービン銃が握られている。これを滅多矢鱈を撃ち始めたのだから局内はパニックに見舞われた。2階の窓から飛び降りる者もいたという。結果、4人が死亡、5人が負傷。14人も殺害したパトリック・シェリルに遠く及ばなかったのは、職員たちがマクルヴェインの狼藉を予期していたからだろうか。
なお、ひとしきり撃ち終えたマクルヴェインはシェリルに肖って、頭を撃ち抜いて自殺を試みている。しかし、即死ではなかった。翌日まで生き延びていた。
ところで、トリロジーの3人組は極めてよく似ている。いずれも元海兵隊員で、その趣味は暴力的だ(シェリルは射撃、残りはマーシャルアーツ)。職場での態度が悪く、停職処分を繰り返している。してみれば、元海兵隊員の郵便局員で、停職処分の常習者は最も「going postal」しやすい人物ということになる。注意すべし。
(2009年3月27日/岸田裁月) |