グレアム・ヤング |
グレアム・ヤング、お気に入りのポートレート 少年時代のグレアム・ヤング |
グレアム・ヤングは人を愛さなかった。愛したのは毒薬のみである。その魅力に取り憑かれた彼にとって、人はモルモットに過ぎなかったのだ。そんな彼にも尊敬する人物がいた。それはヴィクトリア朝時代の毒殺魔、ウィリアム・パーマーだった。 |
ヤングの一家が住んでいた家(手前) |
グレアムの最初の犠牲者はクリス・ウィリアムズという同級生である。ヤングと喧嘩をした1週間後、激しい嘔吐に襲われたのだ。それはヤングから貰ったサンドウィッチを食べた直後のことだった。しかし、鈍感なウィリアムズはその後もヤングからサンドウィッチを貰い、そのたびに吐いた。そして、とうとう寝込んでしまった。 |
グレアムの父、フレッド・ヤング 叔母のウィニーと姉のウィニフレッド |
数日後、今度は父のフレッドが再び腹痛に見舞われ始めた。それは月曜日の朝に始まり、週末が近づくにつれて治まった。そして、月曜日になるとまた発作が起こる。後になって気づいたのだが、彼は日曜日の夜になるとグレアムとパブに出掛けていたのだ。あまりに痛みが酷いので入院したが、原因は判らなかった。しかし、フレッドは薄々気づいていた。グレアムが見舞いにやって来た時、彼は看護婦にこう云った。 |
14歳のグレアム・ヤング |
グレアムはブロードムアの最年少の患者だった。 |
第二の舞台となったジョン・ハドランド社 グレアム・ヤング、お気に入りのポートレート |
ブロードムアを退院したグレアムは、その足で姉のウィニフレッド(既婚)の家へと向った。彼女はグレアムの退院は知っていたが、今日がその日だとは知らされていなかった。 |
ボブ・エッグル フレッド・ビッグス ジェスロ・バット(グレアムと会う前→後) |
グレアムは5月10日からハドランド社の倉庫係として働き始めた。同僚たちはみな気さくで、一風変わった新人を歓迎した。特に倉庫管理部長のボブ・エッグルと、出荷担当のフレッド・ビッグスはグレアムを可愛がった。グレアムはそれに応えるかのように、手巻きの煙草を2人にあげた。そして、それまではバートレット夫人の仕事であった紅茶をワゴンで配る係を買って出た。 |
グレアム・ヤング、再逮捕 |
社員が既に2人も死んでいるのだ。尚且つ、死にかけている者も2人いる。これはただごとではないと、経営者のジョン・ハドランドは嘱託医のイアン・アンダーソンに調査を依頼した。考えられる原因はタリウムである。タリウムは高屈折率レンズの製造過程で使用されることがあるからだ。しかし、ハドランド社では現在は使われていなかった(実はグレアムはそれが目的で入社したのだが、使用されていないことを知り、わざわざ独自に入手したのである)。そこで、伝染性のウイルスが原因ではないかと考えた。その旨を社員を集めて説明し、平静を保つように求めた。 |
グレアム・ヤング、再逮捕 |
グレアムの下宿を捜索した警察は、様々な薬瓶や試験管の他に『学生と警察のためのケースブック』と題された一冊のノートを押収した。いわば毒殺日記である。 |
参考文献 |
『グレアム・ヤング毒殺日記』アンソニー・ホールデン著(飛鳥新社) |