―― 君の涙も悲しい嘘も僕の心に・・・








キールが王都を出たた翌日、シオンは小さなブーケを持って魔法研究院を訪れた。

昨日の帰り際、メイが見せた疲れたような笑みがひどく気になったのだ。

いつも目一杯人の事ばかり考えてしまっている少女は傷ついている自分の心に疎いから。

シオンは溜め息をついてかつて物置として使われていたメイの部屋のドアを叩いた。

「はーい!」

いつも通りの軽快な答えが帰ってきたかと思うといきおいよくドアが開いた。

「あ・・・」

ドアから顔を出したメイは一瞬気の抜けたような、頼りない表情でシオンを見て、でもすぐに苦笑にその表情をすり替えた。

「なーんだ、シオンか。相変わらず暇ねえ。」

呆れたように言うメイの顔にさっきの表情はない。

・・・誰だと思ったんだ?

ドアを叩かれた時、お前は誰が来たと思った・・・?

答えはわかっている。

昨日まで課題を持って、あるいはメイを叱りにやってきていた青年・・・。

aりつけられるような痛みに悲鳴を上げる心を笑顔で覆い隠してシオンは大仰に肩をすくめた。

「暇ってわけでもねーんだぜ?でも嬢ちゃんに急に会いたくなってな。」

「まったく、調子いいことばっかり。」

メイはブーケを受け取りながら苦笑した。

「どーぞ。おもてなしなんてできないけどね。」

部屋の中は必要最低限のものしかないガランとした空間。

ふいにシオンはその部屋がメイの今の笑顔を模しているように感じられた。

中身v狷もらない笑みに。

「・・・嬢ちゃん。」

「ん?何?」

シオンに椅子を譲り自分はベットに腰掛けたメイはお茶を渡しながら聞き返していた。

渡された紅茶に珍しくシオンは視線を翌ニして・・・言った。



「メイ、俺は嘘を見抜くのは得手なんだ。」



ガチャンッ

乾いた音と共にメイのカップが石造りの床に翌ソて砕けた。

「あ・・やっちゃった・・・えへへ、ドジだよね・・・」

誤魔化すように言うメイの声が震える。

「メイ。」

けして強くないシオンの声にメイはびくっと肩り熕ませた。

「メイ、俺はもう気がついちまった。・・・だから隠さなくていい。」

優しくいたわるような言葉にメイはそっと顔を上げる。

fうような、頼りない表情。

今まで一度も見たことのないメイの無防備な表情にシオンは胸をつかみ上げられるような感覚に襲われる。

「・・っ」

気がついたときにはメイを抱きしめていた。

メイは驚いたように身をよじる。

「シオン・・」

「・・・もう、いい。」

「え?」

小さく囁かれた言葉にメイは力が抜けたような顔のままシオンを見上げた。

「俺には・・・嘘をつかなくてもいいんだ。」

「!」

メイが大きく震えた。

誰にも悟らせないように、細心の注意をはらったはずだった。

けして見抜かれないように。

見つめたい気揩ソを懸命に押さえてキールから目をそらして。

ディアーナの背中を、キールの背中を後押しして。

二人がなんの遠慮も藉躇いもなく幸せになれるように隠し通した自信はあった。

でも・・・

「・・・なんでわかっちゃったの・・・?」

「大丈夫だ。気付いてんのは俺しかいねえよ。」

ソ問の答えにはなっていない言葉にメイは力無く笑った。

本当に聞きたかった事を見抜かれた事への自嘲なのか。

「あいつらは欠片だって気付いちゃいない。」

・・・本当に、こいつは聞きたいことをすっかり見通しちゃうんだから。

メイはそう思って溜め息をついた。

瞬間、体中に張りつめていたなにかが切れた気がした。

「っう・・」

唇から零れた嗚咽を堪えようとメイがきゅっとシオンの服を握る。

「ぁああああんっ!!」

ガランッとした部屋にメイの泣き声が響いた。

その声ごとシオンはメイは抱きしめる。

「・・ーる・・・きーる・・・」

嗚咽の間に洩れる自分ではない男の名にどれほど心が切り裂かれようとも、シオンは顔色1つ変えずにただメイを抱きしめていた。








―― ひとしきり涙を流したメイは顔をあげると暗ささえ湛えた瞳でシオンを見上げた。

「シオン、お願いがあるの。」

「なんだ?」

「絶対に・・・絶対に私の嘘の事、悟られないで。」

言葉に滲む強さにシオンは一瞬気圧されr踞いた。

ほっとしたようにメイは息をついて小さく溜め息をついた。

「なんか・・・疲れちゃった。・・・眠い・・・」

紡いでいる言葉がもう眠気に揺らいでいる。

シオンは苦笑した。

しかしメイがことんっと頭を預けてきた時、なぜかシオンはひどく不安な気揩ソに駆られた。

「メイ?」

「ん・・・ちょっと眠ら・・せて・・・」

「メイ・・メイ?」

僅かにメイの小柄な体をシオンが揺すった時にはメイはもう小さな寝息をたてていた。

ふう、とシオンは溜め息をつく。

・・・別にただ眠ってるだけだよな。

それでも心の中に宿った不安がシオンを苛む。

・・・メイは眠っているだけだ。起きたらきっと照れて笑うさ。

シオンはメイを抱きしめて、拭えない不安に耐え続けた・・・






―― しかし目覚めたメイがシオンに笑顔を見せることは、なかった・・・











                                     〜 to be continue 〜





― あとがき ―
なんとか2も書きました(^^;)
う〜ん、展開がちょっと強引かなあ、とも思ったんですが。
でもたぶんこのままいくと4か5で終わりそうな感じかな。
・・・なんだかあんまり暗くはならなそうです(汗)