―― アンバランスなKissを交わして愛に近づけよう

                 君の涙も、悲しい嘘も、僕の心に眠れ・・・・・・








アンバランスなKiss






・・・気付いていたのに。

あいつが誰を見つめているのかぐらい。

それなのに・・・






雲一つない晩秋の秋空の広がった朝、クラインの王都の城門に一台の馬車がついた。

馬車の中に乗り込んでいるのはクラインでも著名な双子、セリアン兄弟だ。

兄のアイシュ=セリアンが弟のキール=セリアンを気遣うように世話を焼いている。

彼らは著しく体力を消耗して弱っているキールを静養させるため、彼らの実家へと向かう所なのだ。

その見送りに彼の先輩であるシオン、彼が異世界から呼び出してしまった少女メイ、騎士見習いの友人シルフィス・・・そして彼の密かな恋人、クラインの王女ディアーナが集まっていた。

「キール、ちゃんとアイシュの言うこと聞いて大人しくしてんのよ?」

メイに念を押されてキールは苦笑いして頷く。

「お前こそこれ以上研究院を壊すなよ?シオン様、こいつをよろしくお願いします。」

「おう、まかせとけって。だからお前もさっさと帰ってこい。お前がいないと手が足らなくて俺が困る。」

シオンは無造作にメイの頭をくしゃっと撫でて言った。

「はい。それから・・・」

そう言ってちらっとキールはディアーナに目を走らせた。

その意味をあっさり悟ってシオンは頷く。

「わかってるって。姫さんの事も心配すんな。お前さんを差し置いて嫁にやったりしねえよ。」

からかうようなシオンの言葉にメイの心がずきっと悲鳴を上げる。

しかし曇ってうつむきそうになる顔を無理矢理上げてメイは親友の首に抱きついて言った。

「そうだよ、さっさと帰ってこないとあたしがディアーナをもらっちゃうんだから。」

「メ、メイ?」

メイに抱きつかれたディアーナは照れたのと驚いたので顔を赤くする。

(・・・ディアーナは可愛い・・・)

自分とはタイプが違うようで同じな親友。

彼女の事は大好きだ。

だからディアーナには幸せになって欲しい。

そのためにはキールは絶対必要条件なのだ。

(たとえ・・・)

メイは気がつかれないように少し頭を振って、いつものメイがメイたる明るい笑顔で言った。

「ほらディアーナにちゃんと言ってあげなくちゃ!」

キールはメイの言葉に驚いた顔をして・・・すぐに表情を引き締めるとディアーナを真っ直ぐに見つめて言った。

「姫。俺は必ず帰ってきます。そして貴女に相応しい男になる。
・・・だから待っていてください、俺のことを。待っていてくださいますか?」

「キール・・・」

照れ屋でかたぶつな彼の素直な言葉にディアーナは目を見開いた。

その背中をメイはとんっと押す。

それに勢いづいたようにディアーナは馬車の窓にてをかけて言った。

「当たり前ですわ!待っていますから・・だから必ず・・・」

「必ず、帰って来ます・・・」

約束がわりにキールは馬車の窓から少し身を乗り出すと、ディアーナの唇にキスを落とした・・・








ガラガラガラ・・・

薄い砂埃を残して去っていく馬車を4人は無言で見送っていた。

馬車が完全に森の中へ消えていって初めて、ディアーナがさっと振り返った。

ふわりと舞った薄紅の髪と共に涙が散る。

その姿にメイは少し目を細めた。

(・・・綺麗・・・)

光の中で、まるで天使みたいで・・・。

(大丈夫・・・あたしは間違ってない。きっとディアーナは幸せになれる。)

・・・たとえどんなに胸が痛んでも。

「さあ、まいりましょう!私も負けてはいられませんわ。」

晴れやかなディアーナの笑顔にメイは微笑む。

「そだね。ディアーナも素敵な女性になってないと、キールに呆れられちゃうよ?」

「あ、メイ!ひどいですわ〜。」

ぷっと頬を膨らませたディアーナにメイは笑った。

「じゃあ、行くぞ〜」

シオンの言葉をきっかけに4人は王都の中へと歩き出す。

王都の城門をくぐる瞬間、メイは他の3人に気がつかれないようにさっと街道に目を走らせた。

さっき彼女の保護者代わりの青年を乗せた馬車が消えていった道を。




・・・彼女の想い人であった青年が去っていった道を。




メイが自分の想いに気がついた時、キールはもうディアーナを見つめていた。

そしてディアーナも・・・

邪魔はしたくなかったから、嘘をついた。

『あたしの好きな人?いないってそんな人。素敵な人は一杯いるけどね〜』

笑顔というポーカーフェイスに隠された感情までディアーナは見抜くことはなかった。

キールが好きだから、ディアーナが好きだからついた嘘。

誰にも見抜かれないように細心の注意をはらってついた嘘。

嘘をついた事は後悔していない。

・・・でも

(・・・疲れたな・・・)

メイは重い重い溜め息をついた。






・・・メイがついた嘘をたった一人見抜いていた者がいた事を彼女は知らない・・・











                                     〜 to be continue 〜





― あとがき ―
無謀にも続き物にチャレンジです。
しかもなにが無謀って『ファンタ』初に近いシリアスもの(^^;)
まあ、東条の事ですからダークにはならないでしょうが・・・
ちなみにこのタイトルになっている歌、知っている人いらっしゃるんでしょうか。
あはは〜、東条のかつての趣味を暴露しているようなものですね(^^;)