講座19>連句のルール(4)句材の分類と去り嫌い

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 仕事始める前に書き込んじゃいましょう。
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 まだ花と月の定座などは決まっていなかった連歌の時代にも、百韻で四花七月、4枚の懐紙に花は各1回、8つの面に月は原則各1回という決まりは、かなり早くから出来上がっていたようです。そこには2つの理由が考えられます。一つは連歌が和歌の伝統を背景に持っていたということ、もう一つは一巻の変化を図ろうということ。

 そしておそらく同じ理由から、花と月以外の言葉も、1巻に何回使っていいとか1度出たら次は何句あけないと同じ語や同類の語を出してはいけないという決まりが出来ました。またそのためにどの語とどの語が同類の語であるか、といったことも考えられました。

 どの語とどの語が同類の語だったり別の種類だったり、というと文法の品詞分類を思い浮べませんか?終止形の語尾がウ段は動詞でシは形容詞とか。切字を問題にしたことからも窺えるように、日本語の文法的研究は中世の歌論・連歌論から始まったと言ってもいいかもしれません。平安時代は文法なんか知らなくても物が書けたけど、日常生活で使う言葉と書き言葉が分離してしまった中世には、文法知らないと物が書けなくなってしまった。

 そして言葉をいくつかのカテゴリーに分類し、あるカテゴリーの語は1巻に何回詠んでいいか、その場合間隔をどれだけ開けなければいけないか、また何句続けてよいか、ということを決めたのが去り嫌いのルールです。

 そのカテゴリーの分類も、分類された語を去り嫌う間隔や連続のルールも、時代により流派により変動があって、なかなかこれこそ決定版というものは示せないのですが、ほぼ芭蕉時代の歌仙のルールを紹介していると思われる『連句への招待』と『連句入門』を参
考にまとめてみました。

 実は両書はともに芭蕉時代を基準にしたと思われるにもかかわらず、いくつか見解の違いがあって、その際まだ素人の私にはどちらを採るべきか判断がつきにくかったりするのですが、とりあえずここでは『連句への招待』に基づき、『連句入門』の説を注記するという形で示しました。但し必ずしもその方針で一貫していないところもあります。時間に追われて作った公開講座のプリントですから、その点はお許し下さい。いずれ時間をかけて再検討したいと思います。
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四 句材の分類と去り嫌い

[ 季 語 ] 語例は季寄せ・歳時記参照。
<<五句去り・三〜五句連続>>
春・秋
<<五句去り・一〜三句連続>>
夏・冬−但し芭蕉出座の作品は二句去りになっている。
*季移り−普通ある季から他の季へ移るには間に雑の句を入れるが、直接転ずる場合がある。

[ 雑 ]
<<三句去り・二〜五句連続>>
{恋}−*芭蕉の意見−昔の句は、恋の詞をかねて集めおき、その詞を綴り、句となして、心の恋の誠を思はざるなり。いま思ふところは、恋別して大切の事なり。なすにやすからず。(三冊子)かくばかり大切なるゆゑ、皆恋句になづみ、わづか二句一所に出れば幸
ひとし、かへつて巻中恋句まれなり。また多くは、恋句よりしぶり吟重く一巻不出来になれり(中略)付けがたからん時は、しひて、付けずとも一句にても捨てよ。(去来抄)
<語例>恋・思ひ・涙・情け・傾城・野郎・娘・嫁入り・婿入り・妾・女・後朝・むつ言・かね言・ささめ言・留伽羅・別れ・枕ならぶる・思ひ寝・独り寝・夢・門立ち・文・玉章・契り・伊達・人目・人目の関・人目しのぶ・神を祈る・物憂き・色好み・かこつ・はづかし・名の立つ・乱れ心・妻・待宵・姿見の鏡・占・かたみ・出家落ち、など。

<<三句去り、一〜三句連続>>
{神祇ジンギ }−従来三句去り、蕉風では二句去り。
<語例>大嘗会・宮居・社・鳥居・玉垣・片そぎ・駒犬・拝殿・禰宜・長官・御祓・御はらひ・神楽・神輿・祭・榊取る・忌竹さす・御幣・神慮・託宣・夢想・御湯立て・拍手・御籤、など。

{釈教シャッキョウ}−神祇に同じ。
<語例>仏像・元祖・門跡・院家・禅師・長老・上人・和尚・僧正・僧都・法印・法眼・法橋・阿闍梨・検校・碩学・坊官・法師・法体・禅門・入道・発心・坊主・僧・出家・沙門・寺・堂・伽藍・功徳・因果・地獄など。

{旅}−三句去り。
<語例>関送り・駒・慕ふ名残・偲ぶ都・馬の餞・船路・硯・刀・峰越え・分け行く野山・雁の声・月の下臥し・柳を折る・草枕・東路・やつるる袖・逢坂・淀川・駅路・いとし子・一夜妻・藁沓・蓑笠、など。

{述懐シュッカイ }−しみじみした思いを述べる事。
<語例>往昔ムカシ ・年寄・浪人・老・白髪・後家・命・うき世・身のうき・姥・貧・隠居・隠者・遁世・苔の袂・苔衣・墨染・眉の霜・わび住み・捨る身・零落オチフル・家を売る・売り食い・古家・其の日過ぎ・すりきり・不幸せ・継子・寡・乞食・世捨て人・渡世・借銭・年忌・月忌・遠忌、など。

{無常}−述懐のうち特に死葬に関する詞。
<語例>塩干山・あだし野・無常の煙・死出の山・みつせ川・死人・棺・たち酒・野べの送り・灰よせ・墓・塚・中陰・四十九の餅・魂結び・人魂・力落・枕食マクラメシ ・腹切る・白骨・冥途・黄泉・喪・髑髏・幽霊・ふるき枕・辞世、など。

{夜分}−芭蕉時代二句去り。打越を嫌わぬ場合も。
<語例>日待ち・神楽・明け方・梟・更くる・七夕・稲妻・宵・闇・曙・暁・横雲・暗き・明け暮れ・露更けて・いさり火・花火・埋み火・床・蝋燭・灯し火・まどろむ・又寝・有明の残る・閨・枕・布団・衾・臥す・送る・後朝・寝る・睦言・下紐・転寝・鼾・狐・灯し・蚊遣り火・むささび・かざしの錦・別れの鳥・苔莚、など。

{山類サンルイ}−異山類は打越も可。
<語例・体タイ>山・峰・嶽・岡・洞・岨・坂・谷・島・尾上・高根・麓、など。
<語例・用ユウ>滝・杣木・懸橋・炭竃、など。

{水辺スイヘン}−異水辺は打越も可。
<語例・体>海・浦・浜・堤・江・湊・渚・島・沖・岸沼・汀・川・淵・池・瀬・洲・滝・泉・井・溝・津・崎など。
<語例・用>水・清水・塩・波・氷室・氷、など。

{居所キョショ}−異居所は打越も可。
<語例・体>門・背戸・窓・戸・障子・蔀・格子・屋・玄関・家・屋根・庵・宅・里・屋形・城・宿・棟・甍・瓦・軒・垣・壁・床・築地・亭・書院・棚・二階・広間・欄干・楼・天井・座敷・台所・
隣・風呂・湯殿・廊下・厠、など。
<語例・用>庭・外面・簾・坪の内・畳・露地・垂布・暖簾、など。

*以上山類・水辺・居所は、体−用−体、用−体−用等、すなわち観音開きにならないようにする。

<<三句去り・一〜二句連続>>
{生類ショウルイ }−連歌では「動物ウゴキモノ」と言う。芭蕉時代同生類は二句去り。「同生類」とは魚と魚、鳥と鳥の類。

{植物ウエモノ}−木類・草類に分けることもある。芭蕉時代二句去り。木と草は打越を嫌わない。

{時分}−夜分以外の時間を表す詞。朝日・昼・夕霞など。

<<二句去り・一〜二句連続>>
{降物フリモノ}−降物に聳物は打越嫌わず。雨・露・雪・霰の類。

{聳物ソビキモノ}−雲・霞・虹・靄・曇の類。

{人倫}−実際にはかなり自由に付く。
<語例>人・亭主・兄・やもめ・ひとり・老翁・童・花の主・月の友・草刈り・鍛治・盗賊・座頭・ごぜ・年寄・侍・民・雑色・郎等・僧、など。
<非人倫>人形・眷属・思ふどち・二人・大勢・老若・花を主アルジ・月を友・草を刈る・鍛冶屋・敵・奉行・代官、などは人倫ではない。
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 ここに載せなかったものとして1句で捨て2句去りの{天象テンショウ }1句から2句連続で2句去りの{芸能}・{食物}・{衣類}・{名所}・{国名}などがありますが、例は挙げなくても判断しやすいものということでか前掲の2書にも説明がないので、ここでも取り上げませんでした。他にもありますが大体この程度の分類を心得ておけば芭蕉時代のルールで付けることは出来るということでしょう。

 ちなみにこういうルールのことを「式目シキモク」と呼びますが、その式目は連歌の時代と較べて俳諧の時代にはかなり簡略化されました。室町時代に一人前の連歌師になるためには、そういう煩雑な式目と古今集や伊勢・源氏物語といった古典をマスターするために20年の修業が必要だったと言われていますが、俳諧の時代にはそんなことはなかったようです。談林派の俳諧師だった井原西鶴は、十代の頃から俳諧の点者になったと自分で書いています。いくら何でもそれは若過ぎ、仲間内で点者を気取っていたということでしょうが、連歌時代に較べて修業年数がかなり短縮したのは確かなのでしょう。
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 ここまでで連歌の現代的意義と歴史、そしてルールはあらかた説明しました。次回に何冊かの参考文献を紹介して、この講座はとりあえず終了。そして歌仙興行に入るという段取りです。

キョン太

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