講座20(最終回)>参考文献

目次に戻る


 最後に付録として参考文献を挙げておきます。連歌・俳諧について参考書はほかにいくらでもありますが、ここでは現在手に入れやすく初心者の役に立つと思われるものばかりです。
------------------------------------------------------------
 まず出来れば、というよりこれから連句をやろうという人に最低これだけは持っていてほしいと思うもの2冊。

☆乾 裕幸・白石悌三著『連句への招待』(有斐閣新書一九八〇年五月絶版の後和泉書院から去年6月新版刊行1500円)

☆東 明雅著『連句入門−芭蕉の俳諧に即して』(中公新書昭和五十三年六月540円)

 両方とも去年の講座で一番お世話になった本であり、今でも歌仙を巻く時の参考書にしています。連句についてはまずこの2著をお読みになることをお薦めします。私の説明よりも遥かに詳しく正確なはずです。

 但し両書は当然のことながら色々な点で見解の違い、強調点の違いがあり、その際どちらの説を取ったらいいか私にはまだわからない点があります。私としてはどちらかというと前者の方が説明がすっきりしているという印象を持っているのですが、芭蕉連句の実態については後者の方が詳しい、という点もあります。出来れば両書ともお読みになることをお薦めしますね。

 なお私のこれまでの解説は、あらかたこの両書の縮小再生産という感じがあってお恥ずかしいのですが、たまにこの両書とも私の認識と違っているという場合もありました。その際は臆することなく自分の考えで説明を進めました。

 両書とも著者は俳諧研究の専門家ですから、私の認識と両書の見解が違っているとすれば潔く自説を引っ込めるべきだったかも知れませんが、私は原則として自分が理解出来ていることしか書けない、と考えています(実際にはかなり知ったかぶりして書き散らしているのでしょうが)のでそうしたまで。間違いであったと納得出来れば勿論自分の認識を改めるつもりです。


☆何でもいいから歳時記

 これは本の題名ではありません。季節感を大事な素材とする連句を巻くためには、季語を登録した歳時記または季寄せは必携で、上の2冊がなくとも歳時記だけは持っていて下さい。読者の多い本なのでこれは各社から工夫を凝らした様々なものが出版されているの
で、中でどれが良いと判断できないので「何でもいいから」としたわけです。

 ただ歳時記を使う時注意が必要なのは、編者によって季語の認定が異なり、同じ語が本によって別の季節に配置されている場合がままあること。辞典と同じである言葉をどう使うか、最終的な判断は句を作る人自身にあるということですね。もっともその人の判断が他の人々に認められなければ仕方ありませんが。

 以下は読んだら勉強になるけれど、なければいけないというものではありません。文字通りの参考文献ね。


☆小西甚一著『宗祇』(筑摩書房日本詩人選16昭和四十六年十二月)

 これは私にとっての連歌の教科書と言ってもよいものです。表題は「宗祇」ということになっていますが、宗祇についての説明は約3分の1。あとは連歌そのものについての説明と「水無瀬三吟百韻」の評釈と連歌の式目に関する若干の表。それは連歌についての認識
が一般に行き渡っているとは言えない現状で、宗祇がどうのこうのと解説するだけでは何もわかってもらえない、という認識によるもの。

 著者は私の恩師の一人でありますが、私はあくまでも不肖の弟子。現在ドナルド・キーンに対抗して『日本文芸史』全5巻(講談社より現在第5巻まで刊行中)を一人で執筆中という大変な人ですが、文章は常に平明でユーモアに富み、長い文章でも読者を飽きさせない、学者としては珍しい文章家。連歌は江戸時代からの連歌師の血を引く山田孝雄博士を中心とした連衆の一人だったとのこと。


☆山田孝雄著『連歌概説』(1937年4月岩波書店)

 これも連歌入門書として甚だ有益ですが、相当長い間絶版になっていたのが1980年に再刊されて(第三刷ということになってる)私もやっと手に入れたもの。今簡単に買えるのかどうかわかりません。出せば売れるのに出し惜しみするのが岩波書店というところの
悪い癖です。

 なお『宗祇』の方は手元にある昭和49年の第3刷が1,100円でしたが、値段は箱に書いてあるので多分今はもっと高いのでしょう。しかしそんなに馬鹿高い本ではなく、とにかくこれ1冊読めば連歌のことはかなりわかりますから、お薦め品です。

☆島津忠夫校注『連歌集』(新潮日本古典集成昭和五十四年十二月)
 南北朝から室町時代の代表的な連歌百韻10巻に頭注を付け、巻末の解説を中世の連歌論書よろしく問答体で記した注釈書。まだまだ連歌の注釈が少ない現状では、これだけの作品一つ一つにこれだけの注釈を付けた本は貴重です。

 その注はいささか斬新過ぎてすぐには納得出来ない、というものもありますが、実際の作品を読み解いて行くお手本として、やはり価値ある1冊だと思います。1,800円。


☆金子金治郎・暉峻康隆・中村俊定注解『連歌俳諧集』(小学館日本古典文学全集32昭和四十九年六月)
 中世の連歌6巻と近世の俳諧貞徳から蕪村に至る百韻・歌仙19巻を収める注釈書。連歌と俳諧を一望のもとに収めようという方のためには甚だ便利な編集。注も詳しくこれまたお薦め。まあ挙げた本全てお薦めですが。

 手元のは昭和51年の第3版で2,000円ですが、これも値段は箱に書いてあり、今はもう少し高いはずです。なお小学館からはこの全集の改訂簡略版として「完訳日本の古典」というシリーズが出ており最近完結しましたが、残念ながら連歌集も俳諧集も収めら
れませんでした。


☆潁原退蔵・尾形 仂訳注『新訂おくのほそ道 付現代語訳・曽良随行日記』(角川文庫昭和四十二年九月)

 「奥の細道」の注釈書はそれこそ数え切れないくらいあるのでしょうが、一番のお薦め品はこれでしょう。文庫ですから廉価ながら、内容はハードカバーの単行本に決して引けをとらない。

 尾形仂はこれまた私の恩師ですから言いにくいのですが、現代の芭蕉学者の中でも第一人者、と言っても石は飛んで来ないのではないかと思います。当然私は不肖の弟子。


☆中村俊定・萩原恭男校注『芭蕉連句集』(岩波文庫一九七五年三月)
 芭蕉の連句の中で完本として残っているもの全てを網羅した(と言えるのかどうか芭蕉研究の現状を心得ていない私には断言は出来ませんが)もの。文庫ですからどうせそんなに高いはずはないので、前記角川文庫もそうでしたが値段は挙げません。


☆潁原退蔵校訂『去来抄・三冊子・旅寝論』(岩波文庫昭和十四年二月)

 芭蕉の俳論を知るためには最も基本的なものとして定評がありますね。実は私はまともに読んだことがないので、これから読みます。と去年言いながらまだ読んでなかった。いかんいかん、今年中に読もう。

☆白石悌三・上野洋三校注新日本古典文学大系『芭蕉七部集』(1990年3月岩波書店)

 芭蕉七部集は芭蕉及び蕉門作品のエッセンスとも言うべきもの。これも岩波文庫に入っていますが、こっちの方が最近出たばかりで詳しい注が付けられている。3900円というのはちょっとお高いかもしれませんが。
------------------------------------------------------------
          あ  と  が  き

 これで去年の私の公開講座報告の焼き直し版「連句講座」全20回の完結です。ここまでDLしてくれたみなさんご苦労様でした。DLして更に熱心に読んでくれた方やリプライをくれた方々、ありがとうございました。

 色々と不満はあるのですが、それはこれから勉強して改訂して行くつもりです。とりあえず講座は終えて、次のメッセージで歌仙の開始を宣言します。よろしう。

キョン太

前に戻る  このページの先頭に戻る