Essay#10

中国福建省「客家土楼」を訪ねて
第2回 「客家土楼」の魅力
(2001年9月12日)





 回訪れたのは、福建省(通称「ミン」=注:「ミン」は門構えに虫)、ミ

ン西龍岩地区の永定県を中心とした地域及び隣県のミン南龍渓地区南靖県の山間

地区に点在する「客家土楼」の数々である。客家の人々は、山間僻地に定住し、

農業を主な生業としながら、封建的ではあるが大家族制度を維持して、幾多の歴

史的政争をくぐり抜けてきた。その民族・一族の強い団結意識と、伝来の漢文化

を保持してきた純粋の漢族であるという自負の念が、この特異な土着集合住宅を

産んだ根底にあると言われているが、実際に様々な形態の「土楼」を目の当たり

にして、その底に流れている共通の意識・理念のようなものを強く感じざるを得

なかったのは事実である。

 しかし、そのことは別に置いても、この「土楼」を通して、感心させられたの

は、客家の人々の持つ建築的な意味での才覚と、その感性の豊かさであった。今

回の旅では、およそ20棟余りの大小様々な形態の土楼を巡り、その各々がロケ

ーションも含めて個性豊かな魅力あるものばかりであった。

 その形式の違いにより多少異なるが、その魅力を総じてまとめると以下のよう

に言えると思う。


  1.風水に基づいた地景における築造地の選定

  2.自然地景をうまく活かした建物の配置

  3.景観への配慮が感じられるその外観デザイン

  4.囲い込みプランを基本とし、明確な機能分化と空間
   ヒエラルキーの軸を持っている


  5.明快な空間軸を持ちながら、その中で巧みに変化
   する空間のシークエンスが折り込まれている


  6.生土(粘壌土)、木、竹、石等その土地の自然素材
   のみによって建てられる


  7.厚い生土壁(=しゅんとうへき)(ハン築壁=注:「ハ
   ン」は大の下に力)と巧みに組まれた木軸架構との
   特異な混構造形式と構造的工夫の数々


  8.虚飾を排した端正なデザイン、ディテールと美しい
   プロポーションの軒先等々・・・






端正で美しい走馬廊



 さらに個々の土楼の特異な魅力を上げれば、尽きることがない。「土楼」は大

小様々であり、遠目からは一見大きく見えるものも、近づきそして大門(正面入

口)を入ると意外と威圧感はなくヒューマンなスケール感であり、その空間的秩

序と構成が、それとなく把握できるような安心感が広がる。祖堂を中心にして意

識を求心的に集め巧みな空間構成と、中庭(天井)の広さと建物の高さのプロポ

ーションや視覚への工夫がそうさせているのであろう。



 *(初出 1998年7月 「JIA NEWS 近畿」
                   掲載分より筆者抜粋後 一部加筆)


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