Essay#7

街に住まう
第7回 〜中庭配して自然とつながる〜





  くからの都市の住まいの形として、典型的な京の町家、中国の院子住居、スペインの

 パティオの住居、イタリアのペリスティリウムの住居、中東のコートハウス等がある。これ

 らは、それぞれの気候・風土・生活様式・建築構造などにより違いはあるものの、共通して、

 室内環境を良好に維持し、日常生活を円滑に営むために中庭空間を持っていた。


  写真の住まいは、2世帯住宅と6戸の賃貸個室群が、中庭を

  囲む形で、一体の建物として構成された小さな集合住宅であ

  る。周辺の環境は、駅から近いこともあり、比較的大きな区

  画の敷地が、駐車場やマンションなどの集合住宅に変わりつ

  つある住宅街である。この住まいの場合、2世帯住宅とはい

  え家族数が少なく、土地に少しゆとりがあったことから、単

  身者向けの賃貸の個室群を併設することとなった。これは都

 市の中の複合的な住まいの型として設計されたものである。写真左手が2世帯住宅、右手が

 6戸の個室群で、敷地の中央を中庭空間とした構成となっている。居宅の1階の居間からは

 ほぼそのままの床レベルで出られる広いデッキ空間がしつらえられ、居間・廊下の延長とし

 て、中庭の緑を身近に楽しむことができる。また、2階のオープンな居間からは、車庫の上

 に設けられた屋上テラスに出られ、気軽に屋外空間を取り込んだ日常生活を楽しめる仕掛け

 となっている。


  これら二つの屋外空間は、レベルを違えながらも空間的につながる中庭として、お互いの

 世帯の気配を感じながら、それぞれに落ち着いた生活の場を確保できている。さらに2階の

 住まいは、写真手前の室を通して、右手の個室群へもつなげられる設計となっており、将来

 的な家族構成の変化、住まい方の変化に対応できるように工夫されている。


  現代の街の中では、外に十分開かれた住まいが創りにくくなってきている。しかし、外部

 に対してうまくプライバシーを確保しながら、住まいに自然の光と風を十分取り込み、緑を

 育んで、季節感あふれる住まいを創りたいものである。この中庭を持つ住まいは、それを可

 能にする住まいの一つの型として、これからも期待されるものである。





 *(初出:1996年6月6日 毎日新聞  掲載分より 筆者抜粋)


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