Essay#6

街に住まう
第6回 〜古きを生かして豊かさを建て増す〜





  まいは、時代と共に変化を重ねていくものである。古くからの住まいも、そこに

 住まう人の生活の変化、家族構成の変化、周辺環境の変化等から、様々な種類の増築や

 改築がなされる。すべてを壊して建て替えるという方法ばかりでなく、新しいものを付

 加させながら、古いものを再生し共存させるという方法もまた、昔から行われてきたこ

 とである。

  写真の住まいは、木造2階建ての既存の

 住まいに、新しく離れを増築したときのも

 のである。この離れは、子供さんの成長に

 伴い、御主人が使っていた書斎を子供室に

 することから、趣味である重装備のオーデ

 ィオを持つ御主人のAVルーム兼書斎そし

 てゲストルームなど、多目的に使われる室として計画されたものである。間口2間、

 奥行き6間半の細長い既存建物の南側に残されていた庭(空き地)をいっぱいに使い、

 手前に、内と外をつなぐ中間領域的なデッキ空間をしつらえ、それに廊下を沿わせて

 奥の離れへ渡るという趣向で設計したものである。


  この中庭的なデッキ空間を設けたことにより、写真手前にある既存のダイニングル

 ームに、自然の光と風を十分に取り込むことが出来、またこのダイニングルームの延

 長として、季節のいい晴れた日には、気軽に戸外での朝食を楽しむことができるよう

 になった。増築前よりもかえって、囲われたことによる落ち着きと空間の広がりが感

 じられ、既存建物にゆとりと豊かさを生み出している。さらにこのデッキ空間は、東

 側に隣接したご両親の住まいの南庭の緑を眺める縁側的空間ともなり、南庭を介して、

 この二つの住まいをつなぐくつろぎの場ともなっている。


  たった1室の増築でも、既存建物や庭との関係をよく読み、工夫することによって、

 住まい全体にゆとりと豊かさを生み出すことが可能である。この増築の発想の原点に

 は、昔からの町家に見られる離れがあった。この漆喰塗りの離れは、音響室の設計と

 いうことで、採光・通風に配慮しながら、少し開口部を絞り込み、夏でも涼しい土蔵

 造りの蔵を感じさせる内部空間となっている。



 *(初出:1996年6月6日 毎日新聞  掲載分より 筆者抜粋)


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