Essay#4

街に住まう
第4回 〜自然観を生かした町家的空間〜





  本の住まいは、本来、寒冷地を除いて、町家でも民家でも、外に向かって開かれた開放

 的な造りを持っていた。風土に培われた日本人の持つ自然観が、住まいの構造にも現れたもの

 であるが、江戸時代の中期頃までに、現在私達のよく見る土間、通り庭と中庭(坪庭)を持っ

 た伝統的な町家が形成され、都市の住まいの典型となっていった。現代の都市環境の中にあっ

 ては、ゆとりある郊外地を除いて、外に向かって大きく開かれた開放的な住まいは、そのまま

 では実現が難しくなってきている。


  写真の住まいは、1回が尊父の生活空間、2・3

 階が息子さんご家族の生活の場となる都市の中の2

 世帯住宅である。1階には、つづき間の和室が2室

 設けられており、奥を仏間、南面したもう1室を尊

 父の居間として広く使われている。


  比較的人通りのある南側の道空間と、この南面した和室との間には、道のざわめきをほどよ

 く遮断するための緩衝空間として、奥行き1.6m、長さ6mの囲われた坪庭が配されている。

 和室に自然の光と風を十分取り込むために、坪庭を囲む壁は、道行く人の目線よりもやや高い

 程度に抑えられ、その上に鉄骨のフレームを組んで、建物と一体化している。


  2段にしつらえられた明かり障子の下段を引き込むと、畳の延長上にこの坪庭が眺められる。

 上段の明り障子で道空間の喧噪(けんそう)を遮断しながら、坪庭の眺めを室内に取り込むこ

 とで、和室にゆとりと広がりを感じさせている。また、上段の明かり障子によって拡散された

 やわらかい光と、下段の坪庭の眺めを通して入ってくる自然光が、奥の和室にまでほどよい陰

 影を生み出し、落ち着きと安らぎを感じさせる和室空間となっている。


  伝統的な町家から、街の中の限られたスペースを最大限有効に生かす知恵を学ぶことができ

 る。自然の光や風を十分取り込み、緑を育んでいく中で、街の中にいても季節の移ろいを感じ

 る快適な住まいを生み出すことが可能である。エアコンの力を少し弱め、自然の寒暖に体を慣

 らすことから、街の住まいも変わっていくように思われる。



 *(初出:1996年6月6日 毎日新聞  掲載分より 筆者抜粋)


TOPへ
前へ
次へ