Essay#3

街に住まう
第3回 〜自然観を生かした町家的空間〜





  本の町は一部を除き、歴史的に強固な城郭をも持たなかった。それは中国、インド、ヨー

 ロッパのように、異民族の侵入を頻繁に受けることがなかったのと、もう一つ、日本人の持つ自

 然観に由来するところが大きかったのである。近世以降、城下町、寺内町等、商空間として急

 速に町が発達し、自然な広がりの中で街並みが形成されていった。京都のような古くからの町

 でも人口が膨れ上がり、ここで日本人は、集まって住むことについて日本の風土に適した「町

 家」という優れた都市住宅の型を生み出していった。これは、現代にも生かされるものである。


  都市の住まいでは、よく見かけられることであるが、道路に近く接した形で玄関が設けられる

 ことが多い。この場合、もう少しアプローチ空間としてのゆとりが欲しいと思うときがある。

 そこで、写真の住まいでは、通常の「玄関構え」の意識ではなく、そこを、道空間と室空間を

 つなぐ中間領域と考え、昔からの町屋に見られる土間的な空間として設計してみた。そこは、

 内路地的な場として、ゆとりのある緩衝空間となっている。


  玄関扉面を外壁面より少し内側にずらし、それによって生じ

 た側面のスリットにガラスをはめ込む。これは、1.2m×3.8m

 の通り土間空間への採光を図るとともに、さりげなく道空間の

 気配を取り込む仕掛けともなっている。外部のポーチから続く

 玄昌石の床タイル、コンクリート打ち放しの内壁と天井、白木

 の木製建具や玄関収納、黒御影の上がり框(かまち)、土壁色

 の楮(こうぞ)和紙を張った奥の壁等・・・・・・。この通り

 土間は、奥の和室へも自然につながるアプローチ空間として演出され、これから奥に展開する住

 まいの空間をさりげなく暗示する場ともなっている。


  昔から工夫を重ねて築かれてきた伝統的な町家の住まいは、現代の街に住む私達にとっても学

 ぶべきものを多く持っている。そのもっとも大切なものは、日本人が生来持っていた自然観 (

 自然との交感・融合の意識) を、街に住まいながらも持ち続けていることである。この自然観を、

 現代の街の住まいに取り戻すことが、これからの課題であると、私は思う。



 *(初出:1996年6月6日 毎日新聞  掲載分より 筆者抜粋)


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