プロローグ みたいな エピローグ
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「へーっ。馬子にも衣装とは言ったもんね」
俺のブレザー姿を見て、涼島フー子が眉をくいっと上げた。
「・・・・・・・・・・・・・お前は違和感ありまくりな」
「余計なお世話よっ!」
フー子がぷくっと頬をふくらませる。
こいつ、いつもショートパンツかジーンズだから、高等部の短いスカートが似合わない事おびただしい。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!」
「んー?」
袖を引かれて振り向くと、ワインレッドのセーラー服がひらりと半回転した。
「つばさは? つばさは?」
ニコニコして訊いてくる。
「・・・・・・・・・・・お前、それ何回目だ」
つばさの奴、なにが嬉しいのか、中等部の制服が届いてから二日に一回は試着してた。
そのたびに「似合う〜?」って訊かれたから、もう5、6回は答えたんじゃなかろうか。
「ぶ〜。お兄ちゃん、答えてよぉ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」(じい〜っ)
「よく似合うぞ、つばさ・・・・・・・・・・・」
「ウン! ありがとーっ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
跳ねるように歩いていくつばさを追いながら、俺は軽く溜め息を吐いた。
フー子が横に並ぶ。
「アンタもよく面倒みるわねえ」
しょーがねーだろ。
「ま、学校の外にいる間くらいは、な」
「・・・・・・・・・・・・・そうね」
フー子が頷いた。
「あんたじゃ女子部に入れないもんね」
「ああ」
つばさが小等部にいた間は、泣いた時に面倒を見ていられた。
けど、今日からはそうもいかない。
ウチの学園は、中高等部が男女別々。もちろん女子部は男子禁制だ。
理由もなく踏み込んだりしたら、まず自宅謹慎は間違いない。ノゾキなんてしようものなら、問答無用で退学処分。
「・・・・・・・・あのさ、日枝」
「んー?」
「もしさ、つばさが泣いたら、どーすんの」
「・・・・・・・・・・・・・嫌なこと言うなよ」
「だって、あの子の泣きグセが急に直るなんて思えないっしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は肩をすくめた。
「つばさには教えといた」
もう中等部なんだから、泣いても助けに行けないぞって。
「あいつだって、いつまでもガキじゃないだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・まあね」
話してるうちに、双葉学園の校門が見えてきた。
先を行くつばさが手招く。
「二人ともはやくうー!」
じれったそうに飛び跳ねる姿は・・・・・
いかにも、コドモだ。
フー子が苦笑まじりに手を振って応え、少し足をはやめた。
「先が思いやられるわ☆」
「・・・・・・・なんだよ、その語尾は」
「別にぃ〜? ほら、つばさが呼んでるわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やれやれだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今年も、校門の桜は見事に咲いていた。
例年より暖かいせいか、もう散り始めてるけど、桜舞い散る中で登校ってのも悪くない。
フー子と並んで歩いていくと、つばさの近くに人待ち顔の女の子がいた。
すごくキレイな子。
肌が透けるように真っ白で、長い黒髪は艶やかな濡れ色。
すっきり整った面立ちは、まるで日本人形のよう。
うつむき加減の様子が、清楚な雰囲気をいや増しにしている。
見覚えのない子だった。
高等部からの編入組かな・・・・?
そう思ったのは、真新しい制服をいかにも着慣れない様子だったから。
短いスカートが気になるのか、すらりとした太ももを隠すように、しきりに裾を引いている。
と、その子が顔を上げた。
目が合う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「(かあ〜っ)」
・・・・・・・・え?
ぺこっ。
女の子は頬を朱色に染め、女子部に駆け込んでいった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いま、頭を下げたか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日枝」
・・・・・・・俺に?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まさかなあ・・・・・・
「日枝」
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ああ?」
「あのお姉ちゃん、お友達?」
「いや」
知らない・・・・・・・・よな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
たぶん・・・・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少し呆気に取られた俺達・・・・・・・・・・・
薄桃色の花弁が、天から盛大に降ってきた。