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プロローグ みたいな エピローグ

2








「へーっ。馬子にも衣装とは言ったもんね」


 俺のブレザー姿を見て、涼島フー子が眉をくいっと上げた。


「・・・・・・・・・・・・・お前は違和感ありまくりな」


「余計なお世話よっ!」


 フー子がぷくっと頬をふくらませる。

 こいつ、いつもショートパンツかジーンズだから、高等部の短いスカートが似合わない事おびただしい。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!」


「んー?」


 袖を引かれて振り向くと、ワインレッドのセーラー服がひらりと半回転した。


「つばさは? つばさは?」


 ニコニコして訊いてくる。


「・・・・・・・・・・・お前、それ何回目だ」


 つばさの奴、なにが嬉しいのか、中等部の制服が届いてから二日に一回は試着してた。

 そのたびに「似合う〜?」って訊かれたから、もう5、6回は答えたんじゃなかろうか。


「ぶ〜。お兄ちゃん、答えてよぉ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」(じい〜っ)


「よく似合うぞ、つばさ・・・・・・・・・・・」


「ウン! ありがとーっ♪」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 跳ねるように歩いていくつばさを追いながら、俺は軽く溜め息を吐いた。

 フー子が横に並ぶ。


「アンタもよく面倒みるわねえ」


 しょーがねーだろ。


「ま、学校の外にいる間くらいは、な」


「・・・・・・・・・・・・・そうね」


 フー子が頷いた。


「あんたじゃ女子部に入れないもんね」


「ああ」


 つばさが小等部にいた間は、泣いた時に面倒を見ていられた。

 けど、今日からはそうもいかない。

 ウチの学園は、中高等部が男女別々。もちろん女子部は男子禁制だ。

 理由もなく踏み込んだりしたら、まず自宅謹慎は間違いない。ノゾキなんてしようものなら、問答無用で退学処分。


「・・・・・・・・あのさ、日枝」


「んー?」


「もしさ、つばさが泣いたら、どーすんの」


「・・・・・・・・・・・・・嫌なこと言うなよ」  


「だって、あの子の泣きグセが急に直るなんて思えないっしょ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺は肩をすくめた。


「つばさには教えといた」


 もう中等部なんだから、泣いても助けに行けないぞって。


「あいつだって、いつまでもガキじゃないだろ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・まあね」


 話してるうちに、双葉学園の校門が見えてきた。

 先を行くつばさが手招く。


「二人ともはやくうー!」


 じれったそうに飛び跳ねる姿は・・・・・

 いかにも、コドモだ。

 フー子が苦笑まじりに手を振って応え、少し足をはやめた。


「先が思いやられるわ☆」


「・・・・・・・なんだよ、その語尾は」


「別にぃ〜? ほら、つばさが呼んでるわよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 やれやれだ。





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 今年も、校門の桜は見事に咲いていた。

 例年より暖かいせいか、もう散り始めてるけど、桜舞い散る中で登校ってのも悪くない。



 フー子と並んで歩いていくと、つばさの近くに人待ち顔の女の子がいた。

 すごくキレイな子。

 肌が透けるように真っ白で、長い黒髪は艶やかな濡れ色。

 すっきり整った面立ちは、まるで日本人形のよう。

 うつむき加減の様子が、清楚な雰囲気をいや増しにしている。

 見覚えのない子だった。



 高等部からの編入組かな・・・・?



 そう思ったのは、真新しい制服をいかにも着慣れない様子だったから。

 短いスカートが気になるのか、すらりとした太ももを隠すように、しきりに裾を引いている。


 と、その子が顔を上げた。


 目が合う。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「(かあ〜っ)」


 ・・・・・・・・え?


 ぺこっ。


 女の子は頬を朱色に染め、女子部に駆け込んでいった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 いま、頭を下げたか?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日枝」


 ・・・・・・・俺に?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 まさかなあ・・・・・・


「日枝」

「お兄ちゃん?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ああ?」


「あのお姉ちゃん、お友達?」


「いや」


 知らない・・・・・・・・よな。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 たぶん・・・・・・・・・?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 少し呆気に取られた俺達・・・・・・・・・・・


 薄桃色の花弁が、天から盛大に降ってきた。











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