ついんLEAVES
第八回 8 モノローグ 〜 フー公4 〜 |
その後も、色々なことがあった。
父と母は・・・・わたしが全ての原因じゃないけれど、きっかけにはなって・・・・離婚。
母方に引き取られたわたしは、"九重 清歌"(ここのえ きよか)になった。
そして母方の祖父の勧めで、遺伝病治療の最先端といわれる病院に転院する。
日枝くん、つばさちゃんとお別れする時は、ワンワン泣いた。・・・・日枝くんが「ゲンキになったら、たくさんあそぼうぜ」と言わなかったら、ベッドにしがみついて転院しなかったと思う。
さよならの時に日枝くんからもらった怪獣のキーホルダーは、わたしの一番の宝物。
今も肌身離さず持ち歩いている・・・・
それから−
治療を受けながら院内学級に通って・・・・
たくさん注射されて、お薬を飲んで、何とか普通の生活をおくれるようになって・・・・
いっぱいお勉強して、何とか双葉学園の高等部に合格!
やっと日枝くんとつばさちゃんの近くに戻れた、と思ったら・・・・・
二人の横には、"もう一人のフー子ちゃん"がいた。
・・・・・・・・・・ショックだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今になってわかることがある。
本当は−
「悲しかった」のも、
「さみしかった」のも、
「一人ぼっち」だったのも、
「親に捨てられたと思い込んでいた」のも−
ぜんぶ、日枝くんだったんじゃないかって・・・・
彼はわたしに何も言わなかったけれど・・・・
でも、考えてみれば当たり前。
大好きなママがクリスマス前に亡くなって−
それから半年もしないうちに、知らない女の人(美乃里さん)が家に住みついてしまった。
実はそれは、日枝くんたちのためだったわけだけど・・・・
小学生の日枝くんにわかるはずもなく−
学校のお友達と遊びたい年頃なのに、つばさちゃんの面倒を任されて−
帰る家は知らない女の人が仕切っていて、居場所がない。
話し相手もなく、悩みもグチも言えない。
ただつばさちゃんの横に座ったまま、暮れていくお日様を眺める日々・・・・
なんて辛いことだろう・・・・!
わたしにはとても、そんな生活は耐えられない。
誰だってできなかったと思う。
・・・・それは日枝くんも同じ。
どうしようもなく辛い毎日だった。
だから・・・・・忘れた。
その風景の中にいた「わたし」とともに、忘れてしまったのだ・・・・・・
フー子ちゃんのお話では、小等部の日枝くんは、つばさちゃんが隣に並ぶことを極端に嫌がったそうだ。手加減なしで殴ったり蹴ったり・・・・・今の二人からは想像もできないけど。
・・・・・だけどそれも、病院で過ごした日々が原因。
つばさちゃんと肩を並べることは、つらい記憶につながる。だから、ほとんど無意識に、その行為を拒んだのだと思う・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・。
わたしは、日枝くんにどうして欲しいのだろう?
・・・・・・・・思い出して欲しい。
わたしの宝物の思い出、きらめく宝石のような日々を、日枝くんと共有したい・・・・!
それは心からの望み。
・・・・・・・・・・・・・・・・でも。
「わたし」を思い出すことは、日枝くんの一番辛い思い出を掘り返すこと。
世界から拒絶された、暗く淀んだ毎日を思い出すこと。
それはあまりにも残酷な記憶。
だったら今のままでもいい・・・・・
それも偽らざる気持ち。
同じくらい強い、二つの想い。
その狭間で、わたしの心は絶え間なく揺れている・・・・・・
・・・・・でもね、日枝くん。
そんな優柔不断なわたしだけど・・・・
一つだけ、かたく決めたことがあるの。
わたしは、あなたのそばにいる。
あなたがわたしに「おともだち」をくれた。
あなたがわたしに「名まえ」をくれた。
あなたがわたしに・・・・「わたし」をくれた。
たとえあなたが忘れても、わたしは忘れない。
忘れないよ。
あなたがわたしに命をくれたことを。
命には、命を。
だから、わたしの命はあなたのもの。
今のわたしは何もできないけれど・・・・・
いつかこの命を、あなたのために使う日が来るから。
そう信じているから。
その日のために、
あなたのために、
わたしは生きていくの。
「イヤだ」なんて言わせないよ・・・・?
だって、わたしたちは、
「いつもいっしょにいる」と約束した−
同じ痛み、
同じ悲しみ、
同じ時間を分かち合った、
”ダチ”なのだから・・・・