ついんLEAVES
第八回 5 モノローグ 〜 フー公1 〜 |
下校時間−
「まったく・・・・・・・・・・どこに行っても騒ぎを起こすんだから」
ぱちっ。
携帯電話で学園ネットのBBSを見ていたフー子ちゃんが、小言とともに携帯を閉じた。
「日枝くん、どうかしたの・・・・?」
「何で日枝ってわかるの」
フー子ちゃんが私に顔を向ける。
「何となく・・・・・・・」
わかるよ。フー子ちゃんの目と話し方で。
「そう・・・・・・・?
今度はアイツ、愛人疑惑だって」
「ええっ!?」
「こら、声が大きい」
「あっ・・・・・・」
私は口元を押さえた。
周囲を見ると、みんながこっちを見ている。
恥ずかしい・・・・・・
「ほら、行こっ」
「う、うん・・・・」
フー子ちゃんに促され、早足でそこから立ち去る。
「・・・・・・・ねぇ、フー子ちゃん? その疑惑って・・・・・・・」
「んー、愛人ったって、さくらまるの事よ」
「あ、そうなの」
思わずほっとした。
「あいつとさくらまるが、二人で旅行するって−」
「いつ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから声が大きいって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
はぁ・・・・
私、いつからこうなっちゃったのかしら?
日枝くんのことになると・・・・・
「おキヨってば、日枝の事になると性格かわるよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フー子ちゃん、思っていることを言わないで・・・・
「ま、安心なさい。ただの噂よ」
フー子ちゃんは苦笑まじりに、私の肩をぽんと叩いた。
「ほら、アイツ、試験前なのにいきなりバイト始めたじゃない? どうしてお金が必要かって話。
それで、表向きは長休(長期休暇)とった事になってるさくらまるに、会いに行くんじゃないかって」
「ふぅん」
そう、ちゃんとした証拠があるわけじゃないんだ・・・・
状況から想像した憶測だったのね。
だって会いに行くもなにも、さくらまるさんはずっと日枝君のお家にいるのだし。
あの姿だから、外に出られないだけで。
「そうね。さくらまるさんも旅行なんてできないものね」
「だから噂だって言ったでしょ?」
「うん」
よかった・・・・・・・・・
葉を落としきった、寒々しい街路樹の下。
フー子ちゃんと話しているうちに、アーケードまでたどり着いた。
サンタさんの赤と、雪の白、そしてモミの木の緑。
商店街全体がクリスマスの装飾に包まれている。
「でも、アイツってば、何でバイトなんかするかなぁ」
フー子ちゃんのお話では、ケーキ屋さんのアルバイトはとっても大変らしい。
喫茶室の女の子と違い、男の子は裏方で、重い荷物を何十個も運ばされるそうだ。
「つばさちゃんは何も知らないの?」
「ダチのバイト先が人手不足だって、言ってるらしいわ。
でも、どーせそんなの建て前っしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
日枝君なら、強く頼まれたらNOと言わないかもしれない・・・・
だけど、それだけじゃないと感じるのも確か。
会話に詰まったところで、左側にアクセサリーショップが現れた。
フー子ちゃんが店頭の小物に目をとめて、立ち止まる。
「あ、このサンタのストラップ、いいかも」
「本当・・・・可愛い♪」
サンタさんといってもお爺さんじゃなくて、男の子のサンタさん。
とても小さいのに、くりんとした瞳の愛らしさが目をひく。
「つばさちゃんのプレゼント、これがいいかも・・・・」
「あ、ダメダメ! あたしが先に見つけたんだからっ」
慌てるフー子ちゃんに、私はくすりとした。
「そう? それじゃ、私は別の何かにしないとね・・・・?」
「そうそう。そーしてちょうだい・・・・・・・・・あ」
「 ? 」
フー子ちゃんがぴたっと動かなくなった。
私の肩越しに何かを見つけたみたい。
「ちょっとこっち来て」
「・・・・・・・・・・・・・え、ええ?」
首をかしげながら、とにかくフー子ちゃんの言うとおりにする。
彼女は体を隠すようにして、通りを覗いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「フー子ちゃん?」
「おキヨ、そこ見て」
なぜか声まで小さくなってる。
どうしたのかしら?
フー子ちゃんをマネして、こっそり通りを見ると・・・・・
「・・・・・・日枝くん」
噂の主が一人で立っていた。
手元に何枚かのパンフレット。
そして彼が立っているのは−
「・・・・・・・・・旅行会社」
旅行会社の前だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
日枝君はさらに何枚かパンフレットを取ると、旅行会社の中を覗いて、向こうに歩み去った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・なるほどね。
時給のいいバイトをしたがったわけよ」
人ごみに隠れる日枝くんの背中を見つめて、フー子ちゃんが呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういう事か・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その後、私たちの会話は急に少なくなった。
きっとフー子ちゃんも、私と同じことを考えている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
日枝君は自分のしている事をあまり説明しようとしないけど・・・・
「何か」をする時には、必ずちゃんとした理由がある。
だから今回のアルバイトも、私たちにはわからない訳があると思っていた。
でも、それが噂の通りだったなんて・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ウソから出たマコトって言うんだっけ? こーゆーの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あー、ほらっ、そんな考えこまないの!
同級生とどっか行くのかも知んないじゃん? スキーとかさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私はかすかに首を振った。
日枝君だったら、それならそうと言うはずだもの。
それを隠しているのは、私たちに知られたくないから。
フー子ちゃんもわかってて言っているのだろうけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「日枝くん・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・ん?」
「" 誰と " 旅行に行くのかしら・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フー子ちゃんは答えなかった。
私は、答えを出したくなかった。
答えを出すのが・・・・・・・・怖かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何となく気まずいまま、アーケードの端でフー子ちゃんとさよならした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
電車に揺られながら、色々なことを考える。
それは、ちゃんと一つの目的地に向かっている電車と違って、同じ想いの堂々巡りになってしまったけど。
夕闇に覆われた車窓、彼方にぽつんと明かりが灯っている。
明かりの遠さが、日枝くんと私の心の距離のように思えて、何だか切なかった。
・・・・・・・・・・ねぇ、日枝くん。
どうして隠すの?
どうして何も言ってくれないの・・・・?
わたしではダメなの・・・・?
わたしは日枝くんのそばにいられないの・・・・?
わたしはあなたのために生きているのに。