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 八人からのプレゼント交換となると、けっこうな賑やかさになる。

 出遅れた俺も、いそいそと騒ぎの輪に入り-


「日枝、アンタはそこに立ってなさい」


「へ?」


 入れなかった・・・・・








ついんLEAVES

第八回 10









 ソファーに座ろうとした俺は、フー子に押し戻された。


「何だよ」


「いーから。


 はいっ、みなさーん!」


 フー子がさっと手を上げた。

 大小の包みを受け渡ししていた一同が、動きを止める。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・フーちゃん?」


「これから皆さんに、ビックリなお知らせがありまーす!」


「あら・・・・・」

「・・・・・ほぅ?」


 フー子がアナウンスすると、美乃里さんや鳥倉おじさんが声を漏らした。


「実は本日・・・・・・・・

 限定一名様に、豪華プレゼントが用意されております」


 フー子らしくない丁寧な口調だ。

 いきなり何を言い出すんだか・・・・


「そのプレゼントは、なんとなんと-


 宿泊つきペア旅行だそーでーす!」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ・・・・・・・・・・え?





「贈り主はこのプレゼントのため、試験勉強と地獄のバイトを掛け持ちして死にそうになったとか、ならなかったとか・・・・」


 その言葉で、皆の視線が一斉にこっちに注がれた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい。


「フー子、ちょっと待っ」

「皆さん、ご注目ー! 


 日枝くんと二人っきりでお泊り旅行する女の子は、いったい誰でしょーかーっ?」


 一方的にまくしたてたフー子は、スプーンをマイクに見立てて俺の口元に突きつけた。


「さあっ、しっかりはっきりすっきり告白しちゃおーか!」


「待てコラッ。どういうつもりだ!!」


 言葉を返しながら喉元のスプーンを払う。

 フー子はひんやりした目で俺を見上げた。


「アンタ、この十日間の行動・・・・注目されてないと思った?」


「・・・・・・・う」


 いや、みんなの目は薄々感じてたけどさ・・・・


「つーか、何で旅行のこと知ってんだ!」


 誰にも言ってねーぞっ。


「あー、白状したね。やっぱり思った通りだった」


「何だと!?」


 カマかけかよ!


「フー子様をおなめでないよ。アンタの考えなんか丸わかり。

 それにシャトー・ドォじゃ友達がバイトしてるし、情報源なんていくらでもあるんだから」


 言いながら、ケータイを取り出して俺に示す。

 メモリから溢れるほどの登録ナンバーの多さは、常々聞かされていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 無駄に交友範囲が広いヤツ・・・・


「つーわけでさ、関係者が揃っていい機会だし、ここでバシっと男になってもらおーじゃないの」


「あ~の~な~ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 って、みんなちょっと待て!」


 ふと気付くと、全員の視線が俺にロックオンされていた。

 表情は三者三様・・・・

 好奇心に満ち満ちた美乃里さんと親父。

 なぜかハラハラ心配そうな九重さん。

 相変わらずなーんもわかってなさそうなつばさ。


 &


 獰猛な顔つきの、鳥倉おじさん・・・・・・・・



 てゆーかオジサン怖すぎッ!



 キツい眼差しとひくつくコメカミを隠そうともせず、つばさの後ろに仁王立ちしてる。



 マジだよこのコノ人!



「待った待った待った待った!

 みんな、フー子の煽りに乗せられちゃだめだって!」


「でも旅行の話は本当なんでしょう?」


「は!?」


 こっちの気も知らず、美乃里さんはにこやかに話を続けた。


「隠したってすぐわかっちゃう事だし、お兄ちゃんのガンバリはみんな見てたから・・・

 胸を張って告白すればいいじゃない?」


「そりゃ恥ずかしいかもしれないが、別に悪い事じゃなし、断られることもないだろ」


 いーや、親父。

 断固として拒否させると決めた人が、そこに約一名・・・・・



 だからオジサンッ、そのケーキナイフを手放しましょうよ!(悲鳴)


 俺いま、そんな気ぜんぜんないっすから!!



 肩を怒らせる鳥倉おじさんに引きまくってると、フー子がさらに顔を寄せて来た。

 細めた目は、俺の表情の変化を、何一つ見逃すまいとしてるかのようだ。


「な、なんだよっ」


「もしかして・・・・・アンタまさか、ここにいない子が好きなわけ?」


「「!!??」」


 何だそりゃ!


 と、九重さんがいやに不安そうな声で言った。


「そういえばバレンタインのチョコ・・・・

 たくさんもらってたね・・・・・」


「は!? 九重さん、それって-」


「あら、そういえばそうだったわね・・・・・

 お兄ちゃん、隠れてお付き合いしてたのね? わたし気が付かなかった~♪」


「美乃里さーん!」


 頼むから先走るのはやめてくれ・・・・・


「バレンタインのチョコっていうと・・・・たっちんかな? モトコちゃんかな?」


「つばさ、お前までなに言ってんだ!」


「じゃなかったら中一の羽根田、大鳥衣のマニアコンビ?

 あ、小等部のアリサちゃんからも貰ってたねー」


小等部だと!? 日枝坊、そりゃ犯罪だぞ!」


「信じないでくださいよ、オジサン!

 つかフー公ッ、俺をどーゆーシュミだと思ってるんだ!」


「フー公じゃなくて、ふ・う・こ。

 下じゃなかったら上かもよ。たしかB組の奈良に、小等部のとき告白されてたっけ・・・・」


 そんな昔のこと、よく覚えてるな・・・・


「三年の河上先輩と津久井先輩からも戴いてたし・・・・・」


 ・・・・・九重さ~ん。


「そういえばお兄ちゃん、みゃ~センパイからも貰ったね~?」


「その名前を出すな」


「ふぇ?」


 嫌なことを思い出すし、そもそもあの先輩と付き合おうと考えるほど、

 俺は命知らずじゃない。


 鳥倉おじさんが呆れ声を出した。


「・・・・・・・おい、日枝坊。

 お前いったい何人の子と付き合ってるんだ?」


「誰とも付き合ってませんよっ!!」


「うわ、逆ギレ・・・・・」


「誰がキレさせてんだ、誰がっっっ!!!」


 つか、このまま放っておくと、話がもっと悪い方向に進みかねない。


 いいかげんヤケになった俺は、胸ポケットから封筒を取り出した。


 ・・・・・・・・・ホントはパーティーの後に渡すはずだったんだけどな~。 


 目ざといフー子が真っ先に中身を見抜いた。


「あ、旅行チケット!」


「そーだよっ。渡せばいーんだろ、渡せば!」


 封筒を振り上げると、フー子がさっと飛び退いた。


「まぁまぁ、お兄ちゃん。そういうのはもっとロマンチックにしたほうがいいと思うけど・・・・」


「なに他人事みたいに言ってんですか!


 美乃里さん、アンタのですよ!!!」







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・え~っとぉ~・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「わ、わたし・・・かしら?」


「そう! 美乃里さん!!」


「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??」」」」」」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ったく・・・・・・・


「お、お兄ちゃん、ダメよ・・・・・・

 わたしってホラ、年上だし、年がはなれてるし、人妻だし・・・・ね?」


 ワケのわからん事を言いながら、美乃里さんが腕を伸ばしてくる。

 その手をフー子が叩いた。


「美乃里さん、貰う気マンマンじゃないですか!」


「だってフー子ちゃん、お断りしたら悪いでしょう?

 せっかくだから・・・・」


「美乃里・・・・おまえ夫の前でよく言うな・・・・・」


「あら、お父さんたらヤキモチ?」


「バカ」


「日枝坊・・・・お前、意外と大胆なコトすんなあ・・・」


「まさか・・・・・お義母さんなんて・・・・・・・・」


「そ、そうよ日枝! アンタ、義理の母親相手にナニ考えてんの!」


「いいかげんにしろ----っっっ!!!!!」












「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「はぁっ はぁっ はぁっ・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「はぁっ はぁっ はぁ・・・・・・・ゴクッ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺はオレンジジュースのボトルをわし掴みにして、息が詰まるまで喉に流し込んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ぷはっ! はぁっ はぁ~・・・・・」


 どん!


 テーブルにボトルを叩きつけると、顔を見合わせてた皆が、俺に視線を戻す。


「だから、これは・・・・・・・そういうんじゃなくて・・・・・・・・・・・」


 何ていうか・・・・・・・


「あれから・・・・・・・十年、たったから・・・・・・・・・・・・」


 その一言で、親父たちの口が引き締まった。 



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




 浮ついた空気が消えるまで待って・・・・・・・・・


 俺は話を進めた。


「俺さ・・・・・・母さんが死んだ時、約束したんだ・・・・・・・・

 母さんの顔・・・・・ぜったい忘れないって・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「だけどさ、それからすぐに美乃里さんが来たろ?

 "ボクの新しいママよ"って・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 今なら、あの結婚が俺達のためだったとわかるけど-


「そん時は・・・・・・母さんのことを忘れろって言われたみたいで、すっげー悔しかった。

 ・・・・・・・・・・・・・だから」


 だから、母さんに誓ったんだ。



 「ボクのママは一人だけだ」って。



 ・・・・・だから、美乃里さんをママと呼ばなかった。


 陰じゃ呼び捨てにして、言う事なんて一つもきかなかった。


 庭に植えた桜の枝を励ましたのも、美乃里さんが「植えても枯れちゃうわよ」と言ったからだ。


 美乃里さんに懐(なつ)いたつばさが、"美乃里ママ"って言うたびに殴り倒した。


 美乃里さんは「ママじゃない」から-



 そして俺は・・・・・・・・・



 俺はずっと-



 美乃里さんがどんな思いでいるか、考えようともしなかったんだ・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「でもさ、あれから十年もたったし、美乃里さんがウチに来て十年になるし・・・・・


 思うようになったんだ。


 母さんが二人いても、いいんじゃないかって」


「っ!」


 誰か・・・・たぶん、美乃里さん・・・・が息を呑む気配がした。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで・・・・・・・・・・・・・

 旅行チケットは・・・・・?」


 親父が、押し殺した声で訊いてくる。


「あぁ、それは・・・・・・・・親父と美乃里さん、俺達がいたから、新婚旅行に行けなかったろ?

 だから・・・・・・あらためて、親父と"母さん"にって・・・・・・うわあ!?」


「お兄ちゃんっっっ!!!」



「ありがと・・・・・ありがとう~~~~!!

 わたし・・・・わたし・・・・・・・っっ!!」


「え、あ、えっと・・・・」


「・・・・・・・・うれしい・・・・・」



 美乃里さんが泣き出してしまった・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 周りを見渡すと、全員揃って神妙な面持ち。


 親父と鳥倉おじさんが、ひたすらに優しい眼差しで、俺達を見守っていた・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うー」



 くっそ~~・・・・・・・


 だから皆の前じゃ渡したくなかったんだ・・・・・・・・




 とす。


 後ろから、絨毯を踏む軽い足音。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日枝」


「・・・・・・・・・・あ?」


 美乃里さんに頭を抱えられたまま、何とか声の方向に顔を向ける。


 フー子だった。


 俯いている。


 彼女はその姿勢のまま、ぽつりと呟いた。 


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・一つ、貸しな」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」






 こうして-



 平穏裏に、とはいかなかったけど・・・・・


 今年のクリスマス・パーティーが、終わった。








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