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ついんLEAVES

第七回 6








「選手、宣誓ッ!」


 学園生と父兄で埋め尽くされたセントラル・スタジアム。

 ハイパワーのスピーカーが生徒代表の絶叫を吐き出す。


「わたしたち双葉学園生はっ

 スポーツマンシップにのっとりっ


 正々ッ 堂々ッ


 戦うことを誓います!!」


「「「「お−−−−−−−−−−−っっっ!!!」」」」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 盛大な拍手を背に、昨年優勝したH組のキャプテンが演壇を降りた。

 次に上ったのは武中先輩。緋色の衣装が大スクリーンに映し出される。


『皆さん静粛に。

 次は体育会連合の特別顧問、審判長の武中美矢子さんから諸注意です』


 アナウンスは終わったが、生徒のざわめきは収まらない。



ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ


 少しもおとなしくならない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 先輩はゆるりと短槍を持ち上げ・・・・


 無造作に突き下ろした。





ZuGoooooooooN!!!





 鉄製の床が鐘のように鳴り響く・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 教職員も含む全員が口を閉ざし、学園全域が水を打ったように静まり返った・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


"こんこん"


 墓場の如き静寂の中、武中先輩は何事もなかったようにマイクテストをした。

 顔を上げ、胸をはる。


「皆、ルールを守るように。


 悪辣卑怯な振る舞いは


わ た し が 許 さ ん 」



ピッキィィィィィィィィィィィィン・・・・・・・・・



「−以上」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


『は、はい、拍手拍手ーッ!』


「「「「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・」」」」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・・・・・


 全競技の健全かつスムーズな進行が保証された瞬間だった。














『それでは競技を開始します。

 各競技の参加者ならびに係員は所定の場所に移動して下さい』


 青い空にアナウンスが吸い込まれていく。


『10kmマラソンの出発から5分間、その後はトラックを使用している間、トラック横断が禁止されます。違反者の所属チームは減点となりますので、各チームとも指示を徹底してください。

 走り幅跳び、高跳びの選手は中央スペースへの移動に地下通路を使いましょう。
 地下通路の入り口がわからない選手は、体育祭委員の誘導に従って下さい』


 アナウンスの終わらないうちに、生徒たちが次々と腰を上げる。

 これからが体育祭の本番だ。




「プリンセス、一年のバスケットチームが挨拶だってさ」


「どうぞ?」


 いま俺と斗坂がいるのは、A組ブースの最上段にしつらえられたロイヤルボックス。

 会場内の全カメラと繋がるプラズマディスプレーと高性能望遠鏡、小型マイクにスピーカー、さらに携帯無線機まで用意されたプリンセスの特別席だ。

 斗坂はわいわいと動き出す仲間を見下ろしながら、謁見者に愛想を振り撒いている。

 今のところ、チームメイトの誰一人としてプリンセスに疑問を感じないようだ。

 眩しいばかりに純白の花嫁衣装に、男子は憧憬と煩悩の入り混じった視線を、女子は嫉妬まじりの賛嘆の視線を浴びせかけてくる。

 正体を知る俺としては、かなり複雑な心境ではある。

 が、とりあえず面前の五人に目を向けよう。


 いかつい顔の男子ばかり、プリンセスの前で直立不動の姿勢をとっている。


「プリンセス様! われら高等部一年バスケットチーム、行って参ります!」


「皆さんのご健闘を期待していますわ」(にこ)


 斗坂がたおやかに頷き、口元にデイ・リリーのような艶めかしい微笑を浮べた。

 たちまちふにゃ〜っと骨を抜かれてしまう一年生チーム。


「がんばるぞ〜」


「「「おー」」」


 全員ふらふら、夢見顔でロイヤルボックスから出て行く。


 ・・・・・逆効果だったんじゃないか、あの激励は。


 プリンセス斗坂はそれを気にする風もなく、俺に顔を向けた。


「ダーリンはどの競技に出るのかしら?」


「"ダーリン"はやめい。

 短距離走がいくつか、だけど出なくてもよくなった」


 プリンセスとナイトは服が服だから、競技参加を免除される。エース級の人材でもなければ、競技者が一人減ったところで大勢に影響しないし、応援のほうが大切と考える人も多い。実際、ロイヤルボックスにプリンセスがいるといないで、士気には大きな差が出る。

 といっても競技に出るプリンセス(ナイト)がいないわけじゃない。

 例えば俺達のブースの真反対で檄(げき)を飛ばしてるアイツ。


「みんな、行くよ! C組のボケナスなんかに遅れをとっちゃダメだかんねっ。

 チームの景気付けにぷっちり潰してやんな!」


「「「おー!!」」」


 黒装束も目立つF組ナイト、涼島フー子が腕まくりしながらアルプススタンドを降りていく。

 過激な掛け声がこっちにも聞こえるのは、ナイトの襟元につけられた小型マイクのせいだ。フー子の奴、スイッチを入れっぱなしにしてる。

 出入り口へ向かう彼女に十数人の女子が従い、ロイヤルボックス周辺がもぬけの殻になった。

 それを見て、女好きの男子学生数人がさっそく、麗し(うるわし)の九重姫のもとへと・・・・


 くるっ。


 いきなり振り向いたフー子が、斜め上45度に向けて矢を引き絞る。


 しゅぱぁ〜ん・・・・・・・・・


 ザコッ!


「「うわーっ!?」」


 ロイヤルボックスの入り口、赤絨毯に黒羽根の矢が突き刺さり、九重さんに近寄ろうとした奴らが飛び退いた。


「不埒な男子に警告! プリンセスに無礼は許さないよ。

 アタシのいない間に少しでもおキヨを困らせてみなさい。

 犬の着グルミ被せて犬追物(いぬおうもの)に使うからね!」


※"犬追物"→犬を駆使した狩猟・・・・・ではなく、犬を標的にした騎射の練習。


 フー子がみなまで言う前に男子は逃げ散った。

 斗坂が感嘆の声を漏らす。


「さすが涼島さん。いついかなる時もこれ以上なく涼島さんですわね」


「これ以上なく別人なお前と正反対だな」


 いつもの気弱さをドコに隠した。


「今の私はプリンセスA子。ここに斗坂などという人物は存在しませんの♪」


 訳の分からない事をうそぶいて、斗坂が腕を挙げた。こっちを振り返りながら階段を降りる中等部のガキに、笑みとセットで手を振る。


(にっこり)


「−ッ!!??」


 そいつは赤面して足を踏み外し、アルプススタンドの最下段まで転がり落ちていった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい。


「あら」


「あいつ、ヤバくないか・・・・」


「大丈夫でしょう」


「とてもそうは見えないぞ」


 クビが変な角度に曲がってるし、手足が痙攣してるんだが・・・・


「問題ありませんわ。


 代わりはいくらでもいますもの☆」


「それ問題ありまくりだろっ!!」


 つか、むしろ斗坂が問題と思うのは俺だけだろーか・・・・・









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