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ついんLEAVES

第六回 7









 俺は少し考えて、戸口に向かった。

 押し殺した声で向こう側の人物に声をかける。


「・・・・・・・誰だ?」


 声に応じたのは・・・・・・・・・




「お兄ちゃん・・・・・・・」


 予想通り、つばさだった。












「お兄ちゃん、涼しいね〜っ」


 防風林に沿って築かれた防波堤。

 その上を、つばさが踊るようにステップを踏む。

 弱い月明かりの下、レモン色のスカートが軽やかに翻る。


「足元に気をつけろ」


「うん♪」


 懐中電灯でつばさの足元を照らしながら、二、三歩遅れてついていく。







「目がさえちゃって、眠れないの・・・・」


 俺がフスマを細く開くと、つばさはヒソヒソ声で言った。

 中途半端な時間に寝ついたもんだから、体が目覚めてしまって二度寝できないらしい。


 他のみんなはぐっすり眠ってて、物音ひとつ立てるのも気が引ける。

 それで、つばさと夜の散歩をすることにしたわけ。





「ふわぁ〜。お星様きれい・・・・・」


「・・・・・・・・・・ああ」


 俺達の町じゃ、人工の明かりにかき消されて見えない星々。

 こんな星知らないよっていうような、かすかな光輝が満天に瞬く。


「降るような星空・・・・って言うんだろうな、こういうの」


「すてきだね・・・・・・・あンッ☆


 上ばかり見上げてたつばさが防波堤から足を踏み外した。

 けど、とっくに予測済みだ。

 腕を捕まえて引き寄せた。


「ほら、大丈夫か」


「あ、ありがと〜」


「気をつけろ」


「はぁい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「つばさ」


「このままがいい・・・・・・・」


 俺の腕にしがみついたまま、つばさが離れようとしない。


「このほうがお空を見やすいの」


 暗闇の中、大きな瞳がきらめいた。


「だめ・・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・好きにしろ」


「うん♪」


 そのまま俺の腕を包みこんで、きゅっと力を入れる。

 

 二人で空を見続けていると−


 すっ。


「・・・・・・・あ」


「流れ星だ」


 髪よりずっとずっと細い、一瞬未満の光条。


「あ〜ん、お願いできなかったぁ・・・・・」


「あっという間だったからな・・・・・・・・

 でも大丈夫だよ」


「え?」


「いいから空を見てろ」


 毎年毎年、何度もここで星空を見てきたから、俺は知っている。


 す-


「あ、またっ」


「な?」


 これくらい澄んだ空なら、流れ星を見つけるのはとても簡単なんだ。


「う〜・・・・・ お願いしたいのに、したいのに〜」


「だったら俯いてボヤいてないで、上を見てな」


「首が痛くなるよぉ」


 そりゃそうだ。


「・・・・・・・・・お兄ちゃん」


「ん」


 つばさは束の間俺から身をほどくと、両腕を差し出した。


「抱っこして?」


「い!?」


「抱っこ・・・・・・して?」


 つばさがおねだりする時にきまって使う、甘い声。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 いつもなら即座に拒否するところだけど・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 まぁ、いっか。


 誰も見てないし。


「しょうがねーなぁ・・・・」


「♪」


 防波堤にあぐらをかくと、膝の上につばさがふわりと腰を下ろした。

 つばさを後ろから抱きとめる格好だ。


「んふふ〜、楽ちん楽ちん♪」


「俺は楽じゃない・・・・・・・・」


 絹糸のようなつばさの髪が鼻をくすぐる。


「あ、お兄ちゃん!」


「なんだ」


 つばさがふるふると首を振った。


「違うの。流れ星にお願いしようとしたの」


 "お兄ちゃん"で・・・・?


「お兄ちゃんと−あぁっ」


 また失敗したらしい。


「んも〜。お星様はやすぎるよぅ・・・」


「仕方ないだろ」


「ふ〜っ、お兄ちゃん!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 それからしばらくの間、つばさが欠伸をするまで、俺は「お兄ちゃん」連呼を聞かされることになった・・・・・・







 



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