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ついんLEAVES

第六回 8









「「お世話になりましたーっ!」」


 つばさとフー子が声を揃え、一拍遅れて九重さんが頭を下げる。


「来年も待ってるからね?」


「「はーい!」」


 元気よく返事する二人に、やはり一拍遅れて九重さんが一礼。


「おばさま。大変お世話になりました」


「どういたしまして。また美味しいお茶を淹れに来てね」


「はい。よろしくお願いします」


 民宿の手伝いは初めてで戸惑ってた九重さんだけど、率先して用を訊く態度と煎茶の淹れ方が、伯母さん達の気に入ったらしい。

 特にお茶は大好評で、朝飯のあと伯母さん、しつっこく九重さんにお茶の煎じ方を訊いてた。


 お茶なんてみんな同じだと思うけどなー。


 と漏らしたらフー子の奴、「アンタは美乃里さんのお茶に慣れてるからよ」だってさ。


 ・・・・・・・・・・・なるほど。


 もしかして、"キッチン・エンプレス"美乃里さん並の味を出せる九重さんて、スゴイ?


「んじゃ、行くべぇか」


 マイクロバスの中から次郎伯父さんが一声かけると、ディーゼルエンジンが重い音と黒い煙を吐き出した。


「では御屋形(おやかた)にて、皆様の帰御(きぎょ)をお待ちいたしております」


 伯母さんと並んださくらまるが深々とお辞儀する。


「....お前は帰るの楽でいいなぁ」


 さくらまるの場合、こっちに送られた枝と"縁を切"れば、後は念じるだけで自宅に戻れるそうだ。

 さくらまるは頭を上げてにこりとした。


「何ぞ母御前(ははごぜ)様にお伝への儀がござりますれば、承りましょうや?」


「あ、それじゃ帰ったらさっぱり系のモン食いたいって、美乃里さんに言っといてくれるか。冷やしソバとかさ」


「つばさはそうめんがいい〜」

「あたし冷やし中華」


「待てフー子」


 家まで付いてくる気か。


「あはは〜、冗談冗談☆」


 いや、こいつは本気だ。


「では其のやうに、母御前様に啓し(申し上げ)まする」


「よろしくね〜、さくらまる」


「はい、涼島様」


 ・・・・な?


「そろそろ時間を気にしたほうがいいべ」


「「「は〜い」」」


 めいめい、土産物でふくれたバッグを手に取る。ちなみに土産はほとんど全部、伯父さんからの貰い物だ。

 大きな荷物を狭いドアに引っかけながら、順番に乗り込んでいく。


 女子陣が乗車するのを待ってると、伯母さんが顔を寄せてきた。

「そうそう、お兄ちゃん」


「はい?」


 何の気なしに目を向ける。

 伯母さんの顔にいたずらっぽい笑みが貼り付いていた。


「な、なんですか、オバサン」


 反射的に一歩下がると、伯母さんがすかさず俺の懐に潜り込む。

 そして発した言葉は、エンジン音にかき消されそうなほど低いのに、俺の耳に雷鳴のように響いた。


「昨日の夜はどうだったの? 楽しかった?」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



なんだって?





「な・・・・んのコトですか」


「夜遅く、女の子と外に出てたじゃない」


「んなっ!?」


 うそっ!


 バレた!?


 なんで!?


 思わず紅潮する俺を間近で観察して、伯母さんはニンマリした。


「やっぱりね〜。

 今朝、玄関のサンダルの置き方が変わってたから、おかしいな〜って思ったの」


「カマかけたんですか!」


「そ。大当たり〜☆」


 ・・・・探偵ですか、アンタは。


「大丈夫、ウチの人は気付いてないわ。ここだけの話にしといてあげる♪」


「は、はぁ・・・・」


 ぜんぜん大丈夫じゃないと思う。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「ナンデショウ、伯母サン」


 硬い口調で応えると、オバサンは苦笑を浮べた。


「そんな緊張しないでいいから。別に脅したりする気はないわ。

 ・・・・でも一つだけ、伯母さんと約束してほしいの」


 伯母さんの顔から笑みが消えた。

 真摯な眼差しに、俺も思わず姿勢を改める。


 俺の耳元にさらに口を寄せて、伯母さんは囁いた・・・・




「子供がデキてたら一番に教えてね? 命名占いしてあげる」


「ンな事するかーっ!!」



 一瞬でも真面目になった俺がバカでした・・・・








「どうした、日枝の坊主」


「何でもないッす」


 げんなりしてマイクロバスに乗り込んだ。

 床に荷物を降ろし顔を上げる・・・

 と、"彼女"と目が合った。


「(にこっ)」


 あるかないかの微かな笑み。


 それは、秘密を共有する者にだけわかる合図。


 少しだけ胸が高鳴るのを感じながら、俺はシートに身体を預けた。


 プシーッ。


 圧縮空気を吐き出してドアが閉じられる。


「みんな、またねー」

「ご無事のお帰りを〜」


 手を振る伯母さんとさくらまるの向こうで、入道雲がむくむくと成長していく。


 ラジオが夏の定番曲を唄う中、マイクロバスが駅に向かって走り出す。


 道端の子供達が(たぶんフー子に)手を振る。



 全ての明暗をくっきりと分かつ強烈な陽射しの下・・・・


 俺の、俺達の夏は、まだ始まったばかりだった。






 第6回 おしまい








○あとがき


 ラブコメの定番イベント「海水浴」、これにて終了〜〜っ!

 ラスト、「夏は始まったばかりだった」とか言いながら、書いてるのは9月も半ばにかかろうかという時期で、キーボードを叩きながら微妙な思いを抱きました。
 天気だけはまだまだ夏っぽいですけどね(^^;


 今回はシナリオ分岐に挑戦してみました。キャラによって少しずつ趣向を変えたつもりですが、いかがでしょうか?
 神有屋的には、状景を書き分けるのが意外と難しかったです。語彙の少なさが身に染みました....


 分岐の描写だけでなく、他にも反省点は多いです。

 明らかに構成を誤ってますし、会話が冗長な事も否めない。中盤からどうしようかと考えこんじゃいました。

 結果としてキャラを3人、イベントも2つほど削っています。


 こんなイイカゲンな物語ですけど、だからこそ、お付き合いくださる皆様に、心よりお礼を申し上げます。

 お読み下さいまして、ありがとうございました!


 次回は10月上旬から掲載予定です。

03/9/13 管理人



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