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ついんLEAVES

第五回 6







 ひょい、ポトッ。


 ひょいと割り箸で毛虫をつまんで、ポトッと地面に落っことす。


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


 毛虫をつまんで、地面に落とす・・・・・・・・・・


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


「つばさ、ライトもうちょい右」


「はぁい」


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 この枝にはもういないな・・・・・

 あ、いた。


「お兄ちゃん、どう?」


「ばか、上を向くなっ」


 ポトッ。


「きゃいっ☆」


「危ねーなぁ。鼻の頭に毛虫が乗るトコだったぞ」


「ビックリした〜」


「気をつけろよ・・・・・・・・と、一回おりるから、ちょっと退いてくれ」


「はぁい」


 脚立から降りる拍子に、目に汗が流れた。

 長袖長ズボンにマスクと帽子。重装備と予想以上の重労働のせいで、さっきから汗が止まらない。

 袖口で額を拭い、顔を上げる。木陰から逃れて胸元をパタパタさせてるつばさが目に入った。


「つばさ、ハラ減ってないか?」 


「ちょっと・・・・」


「じゃあ晩飯くっちゃえ。んで、二階の美乃里さんにも持ってってくれるか?」


 ビビンバ(韓国の混ぜ御飯)とスープならちょうどいい。

 看病しながらでも食べられるだろう。


「お兄ちゃんは?」


「俺は後でいいや」


「わかった〜」


 つばさはダイニングの窓際にツバ広の麦藁帽子を置き、キッチンに消えた。


「ふーっ」


 枝の向こうから暑苦しい声がする。


「親父、少し休もうぜ」


「・・・・・・・・・そうだな」


 俺と同じく帽子にマスク、長袖長ズボンの親父が、脚立からおりた。

 シャツの襟元をはためかせて空気を送る。


「六月の夜にしちゃ暑いなーっ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ビール」


「え?」


 問い返す間もなく親父がダイニングに上がる。ほどなく戻ると、俺にレモンスカッシュの缶を放ってきた。


「さんきゅ」


「おー」


 俺はジュース、親父は缶ビールのプルトップを、同時に開ける。


 ごくごくごく(←二人並んで)


「「ふは〜〜〜〜〜っ」」(←仲良くハモって)


 クイッ(←同時に口を拭う)


「飯はいいのか?」


「食う気にならない」


「・・・・・・そうか」


 親父が再び缶ビールをあおる。


 俺は黙って細っこい桜を見つめた。










 ・・・・さっきはマジで焦った。


 さくらまるの不調は、桜についてる毛虫が原因だろうって事はわかった。

 そこで毛虫をやっつけるために、殺虫剤をかける事にした。


 そこまではよかった。

 でも桜にはよくなかったらしい。



 親父に頼んで帰り際に買ってきてもらった殺虫剤。それを30倍に薄めて桜に振り撒いたら、二階から美乃里さんの悲鳴がした。

 駆けつけた俺達が目の当たりにしたのは、喉を押さえて悶え苦しむさくらまるの姿。

 大慌てで庭に跳び降りホースの水を全開、桜に付いた殺虫剤を洗い流した。

 毛虫と同じくらい、桜(&さくらまる)も毒に弱かった・・・・


 もう少し薄めれば使えるかもしれない。

 みんな同じ事を考えただろうけど、誰も口にしなかった。

 さくらまるのあんな姿を見た後、言えるわけがなかった。





 で、仕方なく人力で毛虫を取ってるわけだ。

 親父はヘッドランプを使い、俺はつばさに光を当ててもらって毛虫を探してる。



「親父−」


「ん?」


「毛虫、どれくらい取ったかな」


「そうだな・・・・・・三割くらいだろう」


 二時間かけて三割か・・・・・・・・・


 先は長そうだ。


「ヘッドランプ借りる」


「もう休憩終わりか」


「あんまり休んでられないだろ」


 さくらまるの呻き声が、耳を離れなかった。


 いつもほんわか朗らかで、ちょっと鈍くて、かなり時代ズレしてるあいつ。

 何かあって萎(しお)れても、たちまちニッコリ破顔する。

 見るのは笑顔ばかりで、苦しむところなんて想像もしてなかった。


 だから、初めて聞いたさくらまるの悲鳴は、心に突き刺さった。


「・・・・親父はまだ休んでていい。仕事の後で疲れてるだろ」


「ジジイ扱いするな。

 ・・・・・・・・まぁ、ライトがないと困るから、つばさちゃんが戻ってくるまで待つがな」


「ああ」








 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。


 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。


「お兄ちゃん、ただいま〜っ。

 ・・・・・あれ、日枝パパ」


「おかえり、つばさちゃん。ゴハンちゃんと食べたかい」


「ウン! あと、美乃里ママに言われてお家に書き置きしてきたよ。

『さくらちゃんが病気だから、お兄ちゃん家にいます』って。

 今日は遅くなってもダイジョーブ」


「そうかい。ありがとうね」


「ううん。さくらちゃんのためだもん」


「・・・・・・・・・・・そうだね。

 さくらまるの様子はどうだった?」


「・・・・・・・・・・・・・・とってもイタそうだった」


「そうか・・・・・・・・・・・・・

 じゃあ、さくらまるのために頑張ろうか」


「は〜い!」











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