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ひょい、ポトッ。
ひょいと割り箸で毛虫をつまんで、ポトッと地面に落っことす。
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
毛虫をつまんで、地面に落とす・・・・・・・・・・
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
「つばさ、ライトもうちょい右」
「はぁい」
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
この枝にはもういないな・・・・・
あ、いた。
「お兄ちゃん、どう?」
「ばか、上を向くなっ」
ポトッ。
「きゃいっ☆」
「危ねーなぁ。鼻の頭に毛虫が乗るトコだったぞ」
「ビックリした〜」
「気をつけろよ・・・・・・・・と、一回おりるから、ちょっと退いてくれ」
「はぁい」
脚立から降りる拍子に、目に汗が流れた。
長袖長ズボンにマスクと帽子。重装備と予想以上の重労働のせいで、さっきから汗が止まらない。
袖口で額を拭い、顔を上げる。木陰から逃れて胸元をパタパタさせてるつばさが目に入った。
「つばさ、ハラ減ってないか?」
「ちょっと・・・・」
「じゃあ晩飯くっちゃえ。んで、二階の美乃里さんにも持ってってくれるか?」
ビビンバ(韓国の混ぜ御飯)とスープならちょうどいい。
看病しながらでも食べられるだろう。
「お兄ちゃんは?」
「俺は後でいいや」
「わかった〜」
つばさはダイニングの窓際にツバ広の麦藁帽子を置き、キッチンに消えた。
「ふーっ」
枝の向こうから暑苦しい声がする。
「親父、少し休もうぜ」
「・・・・・・・・・そうだな」
俺と同じく帽子にマスク、長袖長ズボンの親父が、脚立からおりた。
シャツの襟元をはためかせて空気を送る。
「六月の夜にしちゃ暑いなーっ。
・・・・・・・・・・・・・・・・ビール」
「え?」
問い返す間もなく親父がダイニングに上がる。ほどなく戻ると、俺にレモンスカッシュの缶を放ってきた。
「さんきゅ」
「おー」
俺はジュース、親父は缶ビールのプルトップを、同時に開ける。
ごくごくごく(←二人並んで)
「「ふは〜〜〜〜〜っ」」(←仲良くハモって)
クイッ(←同時に口を拭う)
「飯はいいのか?」
「食う気にならない」
「・・・・・・そうか」
親父が再び缶ビールをあおる。
俺は黙って細っこい桜を見つめた。
・・・・さっきはマジで焦った。
さくらまるの不調は、桜についてる毛虫が原因だろうって事はわかった。
そこで毛虫をやっつけるために、殺虫剤をかける事にした。
そこまではよかった。
でも桜にはよくなかったらしい。
親父に頼んで帰り際に買ってきてもらった殺虫剤。それを30倍に薄めて桜に振り撒いたら、二階から美乃里さんの悲鳴がした。
駆けつけた俺達が目の当たりにしたのは、喉を押さえて悶え苦しむさくらまるの姿。
大慌てで庭に跳び降りホースの水を全開、桜に付いた殺虫剤を洗い流した。
毛虫と同じくらい、桜(&さくらまる)も毒に弱かった・・・・
もう少し薄めれば使えるかもしれない。
みんな同じ事を考えただろうけど、誰も口にしなかった。
さくらまるのあんな姿を見た後、言えるわけがなかった。
で、仕方なく人力で毛虫を取ってるわけだ。
親父はヘッドランプを使い、俺はつばさに光を当ててもらって毛虫を探してる。
「親父−」
「ん?」
「毛虫、どれくらい取ったかな」
「そうだな・・・・・・三割くらいだろう」
二時間かけて三割か・・・・・・・・・
先は長そうだ。
「ヘッドランプ借りる」
「もう休憩終わりか」
「あんまり休んでられないだろ」
さくらまるの呻き声が、耳を離れなかった。
いつもほんわか朗らかで、ちょっと鈍くて、かなり時代ズレしてるあいつ。
何かあって萎(しお)れても、たちまちニッコリ破顔する。
見るのは笑顔ばかりで、苦しむところなんて想像もしてなかった。
だから、初めて聞いたさくらまるの悲鳴は、心に突き刺さった。
「・・・・親父はまだ休んでていい。仕事の後で疲れてるだろ」
「ジジイ扱いするな。
・・・・・・・・まぁ、ライトがないと困るから、つばさちゃんが戻ってくるまで待つがな」
「ああ」
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。
ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。 ひょい、ポトッ。
「お兄ちゃん、ただいま〜っ。
・・・・・あれ、日枝パパ」
「おかえり、つばさちゃん。ゴハンちゃんと食べたかい」
「ウン! あと、美乃里ママに言われてお家に書き置きしてきたよ。
『さくらちゃんが病気だから、お兄ちゃん家にいます』って。
今日は遅くなってもダイジョーブ」
「そうかい。ありがとうね」
「ううん。さくらちゃんのためだもん」
「・・・・・・・・・・・そうだね。
さくらまるの様子はどうだった?」
「・・・・・・・・・・・・・・とってもイタそうだった」
「そうか・・・・・・・・・・・・・
じゃあ、さくらまるのために頑張ろうか」
「は〜い!」