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「お前が悪い!」(ぽかっ)
「ひゃふっ!」
つばさが頭を押さえてうずくまった。
「うぅ〜、お兄ちゃんヒドイよぉ・・・」
ほとんど力いれてないんだが。
「俺の痛みはこんなモンじゃない」
正確には、これから痛めつけられるんだけどさ。
男子部の連中が冷静に俺の説明を聞くはずないから、放課後リンチ確定なんだ。
たとえ聞いても"妄想変換"されちゃうだろうから、やっぱりリンチ確定。
「はい、痛くない、痛くないですよ〜」
「んぁ、さくらちゃ〜ん・・・・」
涙目のつばさを、さくらまるが優しく抱きしめた。ちらっと俺に向けたさくらまるの視線が、少し非難の色を帯びている。
俺は今日何度目かの溜息を吐いた。
こんな騒ぎになるのが目に見えたから、さくらまるに学校訪問を禁止していたのに・・・・
今日それが破られたのは、弁当を忘れたつばさのせい。
用事があって来られない美乃里さんに頼まれて、弁当を持って来たとか。
「素直に女子部へ持ってけよ・・・・」
「申し訳ござりませぬ。ごしゅじんさまの『気』に誘われ、ついそちらに・・・・」
俺は誘蛾灯か?
「その気まぐれのおかげで、こっちはヒッジョ〜に面倒な事になってんだが」
気分は絞首台を前にした死刑囚。
「はぅ〜〜〜。まことに申し訳ござりませぬ・・・・・・・
かくなる上は死んでお詫びを−」
「できもしないコト言うな」
仮にも"神"が死ぬかっつの。
「あ〜、こんな話してる場合じゃなかった。
つばさは弁当もって教室に戻れ。もうチャイム鳴るぞ」
「はあ〜い・・・・」
まだ頭を押さえながら、つばさがしぶしぶ頷く。
「さくらまるも、とっととウチ帰れ」
これ以上ここにいて、オレの抹殺理由を増やされちゃたまらん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さくらまる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こいつ、普段にも増してぽ〜っとしてるな。
「さくらまる!」
「は、はいっ」
ビクリとして、慌てて低頭するさくらまる。
「失礼いたしました。ごしゅじんさま、御台所(みだいどころ)様・・・・・・」
ご丁寧に、つばさと俺と別々に頭を下げて、さくらまるは正門に向かった。
真っ赤なリボンでまとめた髪を、頼りなげに揺らしながら。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・・・
さくらまる、いつもと違うな・・・・・・」
「ウン。色が薄いかんじ」
つばさの言葉はちょっと変だけど、言いたいことはわかる。
「色が薄い」・・・・・
まるで、ふいに消えてしまいそうな。
さくらまるの後姿は、そんな儚(はかな)げな雰囲気を醸していた。
キーンコーン!
「やべっ、授業はじまっちまった。つばさ、後でな!」
「は、はぁい!」
チャイムに追われるように、俺達は別々の方向に向けて駆け出した。
・・・・そして教室に戻った俺は、問答無用で廊下に立たされることになった。
なんで???