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「何だ? この行列」
校門に入ってすぐ、俺は桜の木陰で立ち止まった。
女子中等部の校舎から校門まで、ずら〜っと長蛇の列ができている。
揃ってぴかぴかのセーラー服なのを見ると、中等部の新一年生なんだろう。
受付か?
でも、もう始業時間近いよな。
腕時計を見ると、予鈴までそんなにない。
うちの事務局って、生徒をこんな待たせるほど、手際悪くなかったはずだけど・・・
と、校門で人待ち顔をしていた女性職員と目が合った。
つばさが泣いた時、いつも玄関で待ってる人だ。
「あっ、やーっと来たね! 遅いぞっ」
「え?」
「どれだけ待ったと思ってるのよ。早く来なさい!」
「え、なに、え?」
質問する間もなく腕を取られ、女子部に引っ張りこまれる。
「おい、もう始業時間・・・」
「だから急いでるんじゃない! 緊急事態なのよっ」
ずらっと並ぶ新入生の脇を、ぐいぐい引っ張られる。
新入生が一様に奇異の視線を向けてくる。
そのまま引っ立てられていくと、「新入生受付」の立て看板が見えてきた。
「ほら、つばさ! ご要望のお兄ちゃん連れて来てやったぞ。がんばれ!」
女性職員が声を張り上げると、受付の女子がこっちに顔を向けた。
「ふぇ? ・・・・・・あ、お兄ちゃんオハヨー・・・」
「お、おはよ」
つばさだ。
新入生の胸にピンクの造花を付けている。
それはいいんだけど・・・
「はい・・・・入学おめでとお」
「ウン! つばさちゃんアリガトー!」
「つばさちゃん、おはよー!」
「おはよ〜。入学おめでと・・・」
「は〜い♪」
つばさ、かろうじて笑顔は保ってるけど、口調がへろへろ。
「だぁーっ。テンション低いぞ、つばさ! 先輩がそんなんじゃ、新入生が不安になるだろっ」
「だってお姉さん、つばさ疲れたよう」
女性職員が怒ると、つばさは泣きそうな顔になった。
「つばさちゃん、おはようございます!」
「あ、おはよ〜。入学おめでとね・・・」
「ありがとございますー!」
俺は女性職員に訊いた。
「・・・・・おい、受付ってつばさだけか?」
例年通りなら、今年も300人近い新入生がいるはず。
それをつばさ一人で受け付けるなんて無理だろう。
「んなワケないでしょ」
女性職員がアゴをしゃくって他の女子を指す。
でも、新入生はつばさの前にしかいないんだけど・・・・
そう指摘すると、女性職員は肩をすくめた。
「みんな、つばさに花を付けてもらいたいんだってさ」
「なんで!」
「あたしが知るか」
いや、たしかに新入生の女の子、みんな喜んでるみたいだけど。
でもこれはキツイだろ。
「だからお前を連れて来たんだ。ほれ、つばさを励ましてやれ」
「俺が!?」
「他の誰でつばさが満足する」
いや、満足とかそういう問題じゃなくて。
「もうすぐ予鈴・・・」
「高等部に連絡いれとくから。はい、応援!」
「・・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・・・・・・・」
朝いきなりの疲れる展開にうんざりしてると、新入生の一人と目が合った。
「オニーサン、おはよーございます♪」
「あれっ、モトコちゃん。今年から中等部なんだ?」
「はい! よろしくお願いしまーす!」
小等部でつばさと仲良しだったモトコちゃん(苗字は知らない)が、ぺこりと頭を下げる。
俺は苦笑しながら頷いた。
「よろしくっても、中等部から男女別だから、そんなに会う機会ないけどね。
まぁ、入学おめでと」
「ありがとーございます!」
元気な子だなあ。
話してる間も、つばさはヘロヘロ〜と造花を付けている。
モトコちゃんが列に戻ると、後ろの子が話しかけた。
「ねぇねぇ」
「ん?」とモトコちゃん。
「あの人がつばさちゃんのお兄さんなの?」
「うん♪」
その言葉に、なぜか、新入生たちがざわめいた。
モトコちゃんと話したツインテールの髪の子が、列を離れて俺の前に立つ。
「・・・・・・・・なに?」
「あ、あの・・・」
新入生の女の子がモジモジしながら俺を見上げた。
「お兄さんに、お花、付けて欲しいんですけど・・・・・」
「へ? お、俺?」
間の抜けた口調で聞き返すと、頬を赤らめて頷く。
「・・・・・・・・・いや、悪いけど俺は部外者だから」
「いいよ、付けてやんな」
女性職員があっさり認めて、受付の机から造花を摘み上げた。
「ほれ」
「いいのかよ」
「本人の希望だからね」
ホントにいいのかなー。
女性職員から花を受け取る。
造花の裏にはプラスチックのクリップがついていた。
なるほど、これでセーラー服の胸ポケットに挟むわけか。
俺はちょっと腰をかがめて、新入生の胸に造花をつけた。
「はい、入学おめでと」
「うんっ! ありがとうございましたー!!」
「ほれほれ、もう始業時間だから、ささっと校舎に入る!
入って左に階段! 一年生の教室は四階! 一番奥がA組だからねっ」
「はーい!」
女性職員の声に元気に答えて、女の子は校舎に向かった。
物好きなコもいるもんだ・・・・・
そんな事を考えて校舎に目を向けてると、ちょんちょんと肩をつつかれる。
「ん、モトコちゃん?」
「あの、ボクもお花・・・・」
「ええっ!?」
っていうか、なんだよ、この行列はっ!!
モトコちゃんを先頭に、いつの間にか俺の前に新入生の列ができている。
女性職員が俺に造花を放った。
「そら、ぼーっとしてないで、受け付けする!」
「おい、俺は部外者だろ!」
「いーから早くしな! 時間ないんだから!」
女性職員は、つばさの横で手持ち無沙汰にしていた上級生を手招きする。
「こいつに花を渡して、新入生に花をつけたら、教室の場所を案内してやんな」
「わかりましたー♪ お兄さんよろしくお願いします!」
「よ、よろしく・・・・」
「えへへっ。つばさちゃんのお兄さんと一緒にお仕事なんて嬉しいです〜♪」
「そ、そう・・・・・・・・・・・・・・・」
『うふっ。ごしゅじんさまのもて騒がれたる気色(けしき)、わたくしも誇らしうござりますわ』
何の嫌味だ、それは。
「ほぇ、お兄ちゃん、何かいった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に」
「つばさ、人は心が疲れると独り言をいうものだ。放っときなさい」
「一般論にするな! アンタのせーだろがっっ!!」
そうして、新入生全員の受付を終えるまで、俺は造花付けをやらされたのだった・・・・・・
『うふふふふ・・・・・・・』