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ついんLEAVES

第三回 2





「何だ? この行列」


 校門に入ってすぐ、俺は桜の木陰で立ち止まった。


 女子中等部の校舎から校門まで、ずら〜っと長蛇の列ができている。

 揃ってぴかぴかのセーラー服なのを見ると、中等部の新一年生なんだろう。


 受付か?

 でも、もう始業時間近いよな。


 腕時計を見ると、予鈴までそんなにない。


 うちの事務局って、生徒をこんな待たせるほど、手際悪くなかったはずだけど・・・


 と、校門で人待ち顔をしていた女性職員と目が合った。

 つばさが泣いた時、いつも玄関で待ってる人だ。


「あっ、やーっと来たね! 遅いぞっ」


「え?」


「どれだけ待ったと思ってるのよ。早く来なさい!」


「え、なに、え?」


 質問する間もなく腕を取られ、女子部に引っ張りこまれる。


「おい、もう始業時間・・・」


「だから急いでるんじゃない! 緊急事態なのよっ」



 ずらっと並ぶ新入生の脇を、ぐいぐい引っ張られる。

 新入生が一様に奇異の視線を向けてくる。

 そのまま引っ立てられていくと、「新入生受付」の立て看板が見えてきた。


「ほら、つばさ! ご要望のお兄ちゃん連れて来てやったぞ。がんばれ!」


 女性職員が声を張り上げると、受付の女子がこっちに顔を向けた。


「ふぇ? ・・・・・・あ、お兄ちゃんオハヨー・・・」


「お、おはよ」


 つばさだ。

 新入生の胸にピンクの造花を付けている。


 それはいいんだけど・・・


「はい・・・・入学おめでとお」


「ウン! つばさちゃんアリガトー!」


「つばさちゃん、おはよー!」


「おはよ〜。入学おめでと・・・」


「は〜い♪」


 つばさ、かろうじて笑顔は保ってるけど、口調がへろへろ。


「だぁーっ。テンション低いぞ、つばさ! 先輩がそんなんじゃ、新入生が不安になるだろっ」


「だってお姉さん、つばさ疲れたよう」


 女性職員が怒ると、つばさは泣きそうな顔になった。




「つばさちゃん、おはようございます!」


「あ、おはよ〜。入学おめでとね・・・」


「ありがとございますー!」


 俺は女性職員に訊いた。


「・・・・・おい、受付ってつばさだけか?」


 例年通りなら、今年も300人近い新入生がいるはず。

 それをつばさ一人で受け付けるなんて無理だろう。


「んなワケないでしょ」


 女性職員がアゴをしゃくって他の女子を指す。


 でも、新入生はつばさの前にしかいないんだけど・・・・


 そう指摘すると、女性職員は肩をすくめた。


「みんな、つばさに花を付けてもらいたいんだってさ」


「なんで!」


「あたしが知るか」


 いや、たしかに新入生の女の子、みんな喜んでるみたいだけど。

 でもこれはキツイだろ。


「だからお前を連れて来たんだ。ほれ、つばさを励ましてやれ」


「俺が!?」


「他の誰でつばさが満足する」


 いや、満足とかそういう問題じゃなくて。


「もうすぐ予鈴・・・」


「高等部に連絡いれとくから。はい、応援!」


「・・・・・・・・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・・・・・・・」


 朝いきなりの疲れる展開にうんざりしてると、新入生の一人と目が合った。


「オニーサン、おはよーございます♪」


「あれっ、モトコちゃん。今年から中等部なんだ?」


「はい! よろしくお願いしまーす!」


 小等部でつばさと仲良しだったモトコちゃん(苗字は知らない)が、ぺこりと頭を下げる。

 俺は苦笑しながら頷いた。


「よろしくっても、中等部から男女別だから、そんなに会う機会ないけどね。

 まぁ、入学おめでと」


「ありがとーございます!」


 元気な子だなあ。


 話してる間も、つばさはヘロヘロ〜と造花を付けている。


 モトコちゃんが列に戻ると、後ろの子が話しかけた。


「ねぇねぇ」


「ん?」とモトコちゃん。


「あの人がつばさちゃんのお兄さんなの?」


「うん♪」


 その言葉に、なぜか、新入生たちがざわめいた。

 モトコちゃんと話したツインテールの髪の子が、列を離れて俺の前に立つ。


「・・・・・・・・なに?」


「あ、あの・・・」


 新入生の女の子がモジモジしながら俺を見上げた。


「お兄さんに、お花、付けて欲しいんですけど・・・・・」


「へ? お、俺?」


 間の抜けた口調で聞き返すと、頬を赤らめて頷く。




「・・・・・・・・・いや、悪いけど俺は部外者だから」


「いいよ、付けてやんな」


 女性職員があっさり認めて、受付の机から造花を摘み上げた。


「ほれ」


「いいのかよ」


「本人の希望だからね」


 ホントにいいのかなー。


 女性職員から花を受け取る。

 造花の裏にはプラスチックのクリップがついていた。


 なるほど、これでセーラー服の胸ポケットに挟むわけか。


 俺はちょっと腰をかがめて、新入生の胸に造花をつけた。


「はい、入学おめでと」


「うんっ! ありがとうございましたー!!」


「ほれほれ、もう始業時間だから、ささっと校舎に入る!

 入って左に階段! 一年生の教室は四階! 一番奥がA組だからねっ」


「はーい!」


 女性職員の声に元気に答えて、女の子は校舎に向かった。


 物好きなコもいるもんだ・・・・・


 そんな事を考えて校舎に目を向けてると、ちょんちょんと肩をつつかれる。


「ん、モトコちゃん?」


「あの、ボクもお花・・・・」

「ええっ!?」


 っていうか、なんだよ、この行列はっ!!


 モトコちゃんを先頭に、いつの間にか俺の前に新入生の列ができている。

 女性職員が俺に造花を放った。 


「そら、ぼーっとしてないで、受け付けする!」


「おい、俺は部外者だろ!」


「いーから早くしな! 時間ないんだから!」


 女性職員は、つばさの横で手持ち無沙汰にしていた上級生を手招きする。


「こいつに花を渡して、新入生に花をつけたら、教室の場所を案内してやんな」


「わかりましたー♪ お兄さんよろしくお願いします!」


「よ、よろしく・・・・」


「えへへっ。つばさちゃんのお兄さんと一緒にお仕事なんて嬉しいです〜♪」


「そ、そう・・・・・・・・・・・・・・・」




『うふっ。ごしゅじんさまのもて騒がれたる気色(けしき)、わたくしも誇らしうござりますわ』



 何の嫌味だ、それは。




「ほぇ、お兄ちゃん、何かいった?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に」


「つばさ、人は心が疲れると独り言をいうものだ。放っときなさい」


「一般論にするな! アンタのせーだろがっっ!!」






 そうして、新入生全員の受付を終えるまで、俺は造花付けをやらされたのだった・・・・・・





『うふふふふ・・・・・・・』












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