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ついんLEAVES
第二回 2 |
Yシャツに塗りつけられたつばさの鼻水を拭き、教室に戻る頃には、休み時間になっていた。
「よっ、おかえり」
「お疲れー」
「ん」
隣席の斗坂(とさか)と藤原に短くこたえて、椅子にどっと腰を落とす。
本気で疲れた・・・・・・・・・
授業の合間にくつろぐ級友の中で、俺は頬杖を突いた。
始まりは付属幼稚園だったろうか。
つばさは昔から明るく元気で人見知りしない、絵に描いたような「よい子」だった。
幼稚園でも皆に好かれた。
だけどつばさには、重大な問題があった。
泣き癖だ。
何かあるとすぐ泣く。一度泣き出すと手に負えない。しかもとんでもない声量で泣き喚く。近所のイジメっ子、悪戯っ子たちが閉口して、「つばさ泣かさないどうめい」を組んだくらいだ。
それでも初めは、幼稚園でつばさが泣くと幼稚園のお姉さんがあやしてくれてた。
だけど、いつも小一時間かけてつばさを宥めてた大人は、俺が瞬時に泣き止めさせるのを見て、自分の苦労が馬鹿らしくなったらしい(何で俺だと泣き止むのかは、つばさ本人に聞いてくれ)。
つばさが入園して半年も経たないうちに、泣いたつばさを宥めるのは俺の役目になった。
以来、俺は小等部中等部を通して"つばさ泣き"対策責任者の命を負ってきた。
男女別になる中等部からはお役御免を期待してたけど、甘かった。つばさのヤツ入学式でいきなり一騒動・・・・・・・・いや、これはもう思い出したくない。
当たり前だけど女子中等部は外部、特に男の進入に神経質だ。
それで去年の入学直後、つばさをよく知らない体育教師が俺の「救援」を断ったことがある。
その人はご苦労なことに、つばさが泣き止むまで付き合ってくれて・・・・・耳鼻科に通う羽目になった。「騒音による聴覚障害」と診断されたそうだ(クラスメートは全員逃げたので無事だった)。
体育教師の一件以後、俺の生徒手帳には「非常時のみ女子部に立ち入りを許可す」と書かれた特別通行証が挟まっている。ついでに女子校舎の教室配置図も。
つばさが大きくなるにつれ、出動回数は減った。でも二ヶ月に一回は、さっきみたいな事になる・・・・・・
「きりーつ」
ダルそうな日直の号令で我に帰った。
いつの間にか現国の教師が教壇に立っている。
ぼんやりしてる内に休み時間が終わったみたいだ。
皆から少し遅れて、俺は腰を上げた。