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諸君 私は仁科裕が好きだ











諸君 私は仁科裕が大好きだ














目が好きだ


口が好きだ


顔が好きだ


手が好きだ


背中が好きだ


鎖骨の窪みが好きだ


光る汗が好きだ


汗の臭いも好きだ


心音が好きだ。


何もかも好きだ





教室で 廊下で


屋上で 校門で


通学路で 電車で


バス停で 街角で


映画館で 本屋で


パティスリーで ティールームで



この地上で行われるありとあらゆるユウの行動が大好きだ





肩を並べた私のささやかな一言で彼が飲みかけのジュースを吹き出すのが好きだ


赤面した彼がとまどいの眼差しを向けてきた時など心がおどる





手練手管を尽くして冷静沈着を装う彼を撃破するのが好きだ。


奇声を上げて飛び退いた彼に満面の笑みを投げかける時など胸がすくような気持ちだった。





手札を揃えて彼の自信を蹂躙するのが好きだ。


彼がポーカーに負けたくらいで何度も何度も地団駄を踏む様など感動すら覚える。





些細なことで拗ねる彼をおだて上げる時などはもうたまらない。


さっきまで渋面だったユウが私の言葉一つで破顔し笑い声を上げるのも最高だ。





可愛い彼が知恵を絞って健気にも反論してきたのを見落としがちな盲点を付いて木端微塵に論破した時など絶頂すら覚える。





「そっ、惣右衛門君!?」


「君、やめなさい!」



 呆気に取られてた教師陣のうち、立ち直りの早かった男性教師二人が、挟み撃ちにするように演壇へ走り寄る。

 そして次の瞬間、鼻を押さえてひっくり返った。

 先輩が、目にも見えない早技で、教師二人の顔面を張り飛ばしたのだ。

 彼女の華奢な手には、畳まれた和紙の原稿・・・・ではなく。

 僕は思わず呟いていた。


「 ま た ハ リ セ ン か 」


 息を呑むほど鮮やかな、惣右衛門先輩のハリセン使いに、教師連中が二の足を踏む。

 かたや学生は全員総立ち、興奮の極みだ。

 先輩はハリセンを肩に担ぎ、熱い想いを歌いあげる。








彼の言動に優越感を滅茶苦茶にされるのが好きだ。


想い人に身も心も翻弄され恋慕の情をズタズタに引き裂かれるのはとてもとても悲しいものだ。


ユウの強さと優しさに押しつぶされて落涙するのが好きだ。


良心の圧迫に耐えかねて害虫の様に地べたに這いつくばるのは後悔の極みだ。





諸君 私は仁科裕を 貪る様に仁科裕を望んでいる。


諸君 私と共に学び舎を巣立つ学友諸君


君達は一体何を望んでいる?


更なる泥沼の愛憎劇を望むか?


情け容赦のない糞の様な別離劇を望むか?


知恵と力の限りを尽くし恥ずかしさに身悶え甘ったるさに砂を吐く嵐の様なラブコメを望むか?






「ラブコメ! ラブコメ! ラブコメ!」



 一糸乱れぬ合唱が館内を満たした。





よろしい ならばラブコメだ


私は渾身の愛情をこめて今まさに告白せんとする挑戦者だ


だがこの暗い受験戦争で半年もの間耐え続けてきた私にただの告白ではもはや足りない。



大告白を!!



一世一代の大告白を!!



ユウと私は一人なら 心満たされぬ半端者にすぎない


だが私たちは10億組に1組のベストカップルだと私は確信している。


ならば私たちが結ばれれば北半球で最高の夫婦となる


恋心を忘却の彼方へ追いやり眠りこけている情愛を叩き起こそう


尻尾をつかんで引きずり出し眼を開けさせ思い出させよう


ユウに恋の喜びを思い出させてやる


ユウに私の想いの深さを見せつけてやる


天と地のはざまに彼の思考では思いもよらない恋愛があることを知らしめてやる


私の愛情で


ユウの心を燃え立たせてやる


卒業生代表より全校生徒へ


目標 在校生 仁科裕!!


第二次告白作戦の応援を期待する!

















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 体育館どころか、高校全域を揺るがす大歓声に包まれて。


 真っ白になった僕は、ただただ見つめていた。


 頬を火照らせ、


 額に汗を輝かせ、


 勝ち誇った顔で、


 ハリセンを高々と突き上げる−






 恐るべき彼女を。































































 さあ、ユウ。



 もういちど。



 もういちどだ。



 初めからやり直そうじゃないか。












 ユウ、君だけだ。



 私の心をこんなに占領したのは。



 勝っても負けても、私の心から消えてくれない。



 何て悪い男だろうね、君は?












 だから、ユウ。



 君には相応の代償を払ってもらうよ。



 私の、この惣右衛門あきらの心を奪った、



 重すぎる罪の代償を。












 いいかい、ユウ



 君は私のもの。



 君は私のもの。



 私だけのものだ。



 誰にも渡さない。
















 それじゃ、ユウ−





 覚悟はいいかい?










 始めるよ。










 私たち二人の












 決して終わらない














 最高に楽しい遊びを・・・!



























< 終了 >











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