ブギーポップ・ウェイブ―エンブリオ共鳴―
1-3
僕は誰かと誰かが会話する声で目覚めた。
(あれ・・・・・・)
何時寝たんだろう?それに頭が痛い。
(え〜と・・・・・・)
ぼんやりする頭が、次第にハッキリしてくる。
寝返りをうち眼を開ける。
学校ではない。誰かの家だろうか?
・・・・・・それで、どうしたの?凪。
・・・・・・取り敢えず、寝かせてる。すぐに目が覚めるよ。
女の人の声だ。凪? ・・・・・・霧間凪。
―――霧間!
僕はがばっと、勢いよく身を起こした。
「――――っ!?」
が、とたんに激しい頭痛に襲われ、そのまま身を丸める。
僕が頭痛と戦っていると、音を聞きつけて部屋の外にいた二人が入ってきた。
「大丈夫ですか?」
凪ではない方の声が心配して訊いてきた。
「・・・・・・だ、大丈夫です」
頭を抑えながら顔を上げる。
「・・・・・・織、機・・・さん?」
顔を上げた先には、学校を辞めた元クラスメートがいた。
「えっ? ・・・・・・ああ、峰下さん。ですね」
「知り合い?」
「はい。クラスが一緒で」
「・・・・・・どこですか? ・・・ここ・・・・・・」
頭痛と戦いながら訊く。時間は時計が見えたのであとからだ。
「オレの家」
ここが凪の家、ということは・・・・・・―――
「親の人は!? ――――っ!!」
しまった!! と後悔するが、再び刺すような痛みが頭を突き抜けた。
「オヤジは8年前に死んでる。母親はその前に離婚した。―――綺、冷やしタオル持ってきて」
はい、と応じる綺。
「・・・・・・死んでるのか。あっ、すみませんでした。失礼なこと訊いてしまって」
だんだん頭痛が退いてくる。僕は何の下調べもせずに訊いた迂闊さを恥じた。
「いいよ、昔のことだし。それに、お互い様だしな」
「・・・・・・本当にごめんなさい」
跳びかかってしまったのは僕の責任である。しかし、あっという間に投げたと言うことは、彼女は何か格闘技でも習っているのだろうか?
「・・・・・・はい」
凪に言われて準備した綺がタオルを差し出す。
「ありがとう」
受け取って、礼を言う。・・・・・・・雰囲気が変わっている。
(明るくなってるなあ)
素直によかった、と思う。
「何ですか?」
「明るいなあ、と思って」
つい、素直に言ってしまった。
「あっ、眩しいですか?」
「いや、あのそういうわけじゃなくて・・・・・・」
説明するわけにもいかず、しどろもどろになる。そんな僕を遮って、凪は僕に電話の子機を渡して、言った。
「それよりあんた、自分の親に連絡してくれる?」
「いいですけど、何て?」
受け取って、訊く僕。すると彼女は慣れたように言った。
「夕食をご馳走になってくるから遅くなるって」「んで、何が訊きたいんだ?」
織機さんが作った夕食をいただいたあと、凪が訊いてきた。
「ええっと・・・・・・」
予備知識なし。反射的行動。その成り行きでこうなってしまったのだ。
「霧間誠一さんって、どんな人だったんですか?」
取り敢えず訊きたいことを順に訊くことにした。
「変な奴だった。仕事しかしない奴だった」
「・・・・・・変な、って?」
「さあね、そもそもあいつが考えてたこと何てわかんねーよ」
「・・・・・・それじゃ、霧間さん、あなたは何か格闘技でも?」
「ああ、あれね。大した事じゃない」
「だれに?」
「親父の友達」
「・・・・・・織機さんと暮らしてるのは?」
「身寄りがないって言うんでな、オレが引き取ったんだ」
「でも、あなたもでしょう?」
「未成年だしな。でも、オレは金持ちだぜ」
凪はにやりと笑って言う。それが、男言葉を使う彼女には良く似合っていた。プルルルッ プルルルッ プルルルッ
そのとき電話がかかってきた。それを綺がとる。
「はい、霧間です。・・・・・・正樹? ・・・・・・うん・・・うん・・・・・」
知り合いなのか、そのまま話しつづける。それを凪がいきなり(奪い)取った。
「―――こら正樹、たまには自粛しろ――――姉さんって言うなって言ってるだろーが!
・・・・・・今、客が来てるんだ。話は今度にしな」
「あっ・・・・・・」
がちゃん、と電話を切る凪。残念そうな声をあげる綺。
「・・・・・・・・・」
いったい、凪とその相手ではどのような会話があったのだろう?
(それと、姉さんって?)
「谷口正樹。オレの義弟。血はつながってない。ただいま寮生活」
離婚した方の子供、ということだろうか?
(それにしても、織機さんの様子からすると・・・・・)
「織機さんの彼氏?」
「いやっ、あの・・・・その・・・・」
綺は真っ赤になっている。そのとおりだろう。
「あんまりからかわないでくれ。他に聞きたいことは?」
「え〜と」
もうあらかた訊き終えただろうか? ・・・・・・いやまだ――――
「―――紙木城さん」
「ん?」
その名前を出すと、明らかに凪の顔色が変わった。
「紙木城さんとどういう関係だったんですか?」
行方不明になった人。紙木城さんという人については別に訊かなくてもよかった。しかし、凪の顔色が変わったところを見て、やはり訊こうと思った。
「・・・・・・どうしてそんなことを?あんたとあいつに接点があるようには見えないが?」
凪は直接答えず、逆に問い返してきた。
「図書室で―――」
そこで、言葉が詰まった。
今まではそうでもなかったが、凪の視線が鋭くなり、彼女が『炎の魔女』になったのを感じた。
息苦しくなるような圧迫感。それに気圧されて、言葉が詰まる。
(たいしたことを訊くわけじゃない・・・・・・)
そう思い、口を開いた。
「・・・・・・彼女が本を借りっ放しで、頼まれたんです。それで」
僕が言い終わると、凪の様子が一変していた。
「・・・・・・友達だった。親友だったよあいつとオレは。・・・・・・今どこにいるかはオレも知らない」
凪はなにか、苦りきった表情で言った。
「そうですか・・・・・・」
そしたら本はあきらめるように言うか。
「心配すんな、あいつが借りてた本だろ?オレが買って返すよ」
「いいですよ。知らないか?って頼まれただけですし」
ここで、話が切れる。僕はもう訊くことは無かった。
その後、僕は取り敢えず霧間さんの電話番号と住所を教えてもらい・・・・・
――――そして、僕は家に帰った。