校長のためのコンピュータ入門(その15)

校長のコンピュータ論議 後編

教育課程審議会「審議のまとめ」と学校のコンピュータ活用

 六月二三日に教育課程審議会の「審議のまとめ」が発表された。コンピュータ活用教育についてどのように扱っているか、改めておさらいしてみよう。
@小中高共に、各教科等で積極的な活用を図る。
これに加えて、
A小学校では、「総合的な学習の時間」で適切に活用する。
B中学校では「技術・家庭科」で情報などについての基礎的内容を必修にする。
C高等学校では、教科「情報」を必修として新設する。
こととされている。
D各教科で積極的な活用を図ることの具体的な内容については、美術、英語、道徳の項でもふれられている。
 すでに前編で述べたことの繰り返しになるが、A〜Dでの活用については、特に異存はないだろう。高度情報通信社会に対応するため、こどもに「情報活用」の基礎的な資質や能力を培う必要があるというわけだ。
 学校にコンピュータがいるかいらないかの議論の核心は、「各教科等で積極的な活用を図る」こと、すなわち、教育にコンピュータを活用することに意義があるかということだ。

これから求められる教育とは何か

 「審議のまとめ」にそってこれからの教育のありかたについてみてみよう。その基調を次のように述べている。
 「これからの学校教育においては、これまでの知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、自ら学び自ら考える教育へと、その基調の転換を図り、こどもたちの個性を生かしながら、学び方や、問題解決などの能力の育成を重視するとともに、実生活との関連を図った体験的な学習や問題解決的な学習にじっくり取り組むことが重要である。」
 誤解を恐れず率直に言おう。私は技術科の教師としてこれまでもこのような教育の在り方について主観的には実践してきたつもりだ。私だけでなく、おそらく少なくない教員がそのような実感をもっているだろう。だから教師の意識の切り替えや、中間まとめに展開されている、教育課程の改善の具体策が、この基調にそって実際に行われるようにするにはどうしたらいいか、制度改革と条件整備の両面から真剣に検討されなくてはならない。
 なぜ一部の教科(「主要5教科」と呼ばれることもある)で知識中心の教育になってしまってきたか。中学校だけをみても、それは受験学力をつけることを目的に教育が行われているからだ。このことはあまりにも明らかだ。
 その次が特に重要だ。このために、こどもが学ぶ目的をどう認識しているかだ。こどもに直接語ってもらおう。
「中学校卒業後は高校に行って部活に力を入れたい。高校卒業後はできれば大学に入学したい。将来は歌手か作家になりたい。生き方は本当に自分の好きなことをしたい。今年はまじめに勉強して、行きたい高校に行く。変な高校に行ってつまらないより、今苦しんで高校生活を楽しんだ方がいい。」(学級便りより 中3男子)
 こどもたちをかなりしんどい勉強に駆り立てている主な動機は、高校受験のために、できるだけいい点を取るためなのだ。当日の試験だけではない、中学校の調査書の評定に有利な点を取ろうとする動機も同じだ。日頃のたち振る舞いや、学級や委員会、生徒会の活動まで、そのような動機によって支えられているのかもしれない。
 「審議のまとめ」では、「上級学校の入学者選抜」の項で、選抜のあり方について、「真剣な改善の取組を切に」望んでいる。
 私は、「まとめ」が求めるこれからの教育の基調が実際に行われるようになるには、こどもの学ぼうとする動機が、学ぶこと自体に求められるようになることが不可欠の条件だと考える。「自ら進んで」学んだ結果が点数化・序列化され、それが上級学校への進学の選別資料に使われるままでは、全部のこどもに、生きる力を育むことはできない。

発見と創造の道具に

 子どもの学ぶ動機が実際にどのように意識されているかを考えることは、コンピュータ活用教育ということから、少し寄り道をしているように見える。しかし、「学校にコンピュータはいらない」かどうかについて議論する上で欠かせない土俵だと思う。
 私は、今の中学校の教育の在り方を改革できるかどうかは、教師の子どもへの教育の意図と、子どもの学ぶ動機が、上級学校への受験を目的にしないことが出来るかどうかにかかっている、といいきっていいと思ってる。
 今の学校の教材や教具、施設ではできない教育が、コンピュータを使えばでできるようになるかもしれない、という考えはコンピュータを学校で活用する意味の答えにはなっていない。
 問題の核心は、「まとめ」の求める教育の基調への転換が、実際に学校で出来るかどうか、そのために学校のコンピュータがどんな役割を果たすことができるかだ。
 私は、このような見方をしたときに初めて、コンピュータ活用の教育の意味が浮かび上がってくると思う。
・膨大な統計処理
・多様な表現 
・情報収集の規模の拡大
・地球規模の情報の交換
 これらがコンピュータの持つ機能だ。この可能性を使って子どもたちが自ら進んで学んでいくことを支援していくのが学校のコンピュータだ。
 学ぶ動機が学ぶことによって生まれ、さらに強くなり、支えられる。学ぶ対象から、興味や関心がわき上がり、深まり広がっていく。
 学ぶことで発見し、疑問が深まり、新しい課題が見つかり、その課題に挑戦していく。さらに、これまでの教材・教具ではとうていできなかった新しいものが、子どもたちによって創造される。
 これらのことに生き生き取り組むこどもたちには、受験のために動機づけられた学習意欲など意識されようもない。もし、相変わらずそうだったら、何もかもぶちこわしだ。こんなことじゃあ学校にコンピュータはいらない。