校長のためのコンピュータ入門(その9)

教頭の仕事に使える

「教員組織表の作成」

 前回に述べたように、コンピュータを毛嫌いしていた私が、教頭としてコンピュータを使って最初に作ったのが、「生徒数・担任一覧表」だった。
 次に挑戦したものが、「教員組織表」だった。東京では、中学校の教員は選考で採用された教科だけを教えることが徹底されている。このため、一人あたりの教員の持ち時数の基準が設けられ「非常勤講師」が配当される仕組みになっている。学級数を基礎にして、教科ごとの教員数を基に非常勤講師の時数を算定するのが「教員組織表」の目的である。
 これは学校の編成した教育課程を支える人的な条件となる。教員の確保や過員などの異動の根拠になるとともに、その学校の教員の1年間の持ち時数、すなわち「労働条件」を決定することにもなるわけだ。
 私がこの表の作成にコンピュータを活用することに特にこだわったのは、ただ単に、教育委員会への申請書類を間違いなく作るということではなかった。学級数の変動によってどの教科の教員をを増やすか、またどの教科の教員を過員とするかをこの表を使ってシミュレーションする事が目的だ。次年度の教職員の編成についての校長の判断の重要な根拠になる。また、このことを教員に周知させることで、過員による異動を余儀なくされる教員への理解も求めやすくなる。
 事実、この表のシミュレーションを職員に提示することによって、これまで教員の異動調書を提出する時期にあった、校長への根拠のない疑心暗鬼はいっぺんに払拭された。その後の校長の学校経営への職員の信頼感が高まり、不要な摩擦が解消されていくことを実感した。

情報活用は学校経営を支える

 コンピュータはもともと統計処理をする機械だ。学校の様々な数字を統計処理することで、校長の学校経営上の課題や対応策の検討、判断や施策の決断の根拠にすることが出きる。
 教頭は毎日生徒の欠席を学校日誌に記録している。私は、ある学年に不登校生徒が多いこと、またそのことに加えて、欠席する生徒の数が多いことが気になっていた。前年度の統計と、その年の1学期の統計をコンピュータに入れてみた。興味深いことがわかった。年間での欠席は、5月の連休明け、9月下旬、定期テストの後、運動会や文化発表会の後に欠席が多いことなどがわかってきた。ある学年では週末に近づくと欠席が増える傾向があることもわかってきた。
 私は、この結果を職員に報告し、生徒の欠席の理由を正確に確認するように呼びかけた。学級単位では、1人か2人の欠席ではあるが、学校として統計を取るとかなりの人数になることに教員は驚いた。この統計を示したことをきっかけに、不登校生徒はもとより、欠席をする生徒へのきめ細かな対応、宿題の提出などの「強制」、行事や子どもの健康管理などのあり方を検討するきっかけになった。
 このほかにもコンピュータによって統計処理をやってみた。
「私費会計調査」では、給食費や修学旅行費、教材費の徴収が学校配当予算を大きく超えていることに驚いた。わずかな金額ではあったが、保護者の負担を少しでも軽減しようと考え、書き初めの用紙代、画用紙、卒業証書の筒代など、公費でまかなうようにした。
 「年間授業時数シミュレーション」を作ったときは楽しかった。表計算ソフトを使って次年度の1年分の授業が何時間できるか計算するのだ。月曜日の1時間目が何時間確保できるかもちゃんと計算してくれる。道徳や学級活動の時間、教科の時数、行事にかかる時数もたちどころにわかる。教育課程編成にあたって、「授業確保」「行事の精選」について実際に年間を通してシミュレーションができるのだ。教育課程編成の検討には欠かせない道具になった。

 学校がきれいになる

 私が教頭としてコンピュータを活用した一番の傑作は「施設・設備改修カード」だと自負している。
 学校によってはこの例は参考にならないかもしれないが、私が教頭として着任した学校では、建物の外の改修は概ね終わっていたが、教室の照明、建具などの状況は学習環境としてあまり芳しいものでなかった。校内を巡回してその都度チェックはするもののとても全体を把握して改修に手をつけるのはやっかいだった。そこで、先生方に協力を求めて、改修の必要な箇所をカードに書いて提出してもらった。私や事務主事が必要としたものを加えて100件を越える箇所の改修が求められた。
 ここから先でコンピュータの威力が発揮される。
 改修必要箇所の確認や点検では、「改修場所」別の一覧表を基に行うことができる。業者には、照明、建具など、改修の「種類」別の一覧表を作成して見積もりを作ってもらう。さらに、このカードを基に緊急を要するもの、軽微な修理ですむもの、抜本的な改修を要するもの、高額な費用がかかるものなどに分類できる。
 これらの検討を基に、改修計画を作った、役所には高額の改修の要望をすることになった。役所の担当の方には、この取り組みを高く評価され、全面的な援助をいただくことが出来た。この結果、教室内は明るくなり、建具などの教室の環境は見違えるように変わった。これまで、「教室が暗い」とつぶやいていた先生の意識が変わったのはいうまでもない。