校長のためのコンピュータ入門(その8)

コンピュータ毛嫌いの始末書

 この連載を始めてから、拙文について、区内の仲間の校長や教頭さんを始め、知り合いの方々から励ましのお言葉や、感想をいただいた。私の文書を読まれたことがきっかけで、コンピュータや、インターネットを始められた方もいるとのこと。手前味噌のようで誠に恐縮だが、そのような方がおられることは大変にうれしい。
 その中の何人かの方から、私が、どうしてコンピュータを始めたか、その動機やきっかけについて、しばしば尋ねられた。
 これまでこの連載では、主として「コンピュータ利用の教育」についてとりあげてきた。これからしばらく、私がコンピュータを始めた動機や、悪戦苦闘のあれこれ、活用の実際について紹介し、主に「学校経営業務」でのコンピュータ活用の可能性や課題について述べていきたい。

ノコギリと、カンナが勝負!

 私が自分のコンピュータを購入し、本格的に操作を始めたのは、平成2年の9月末、教頭になった年。満年齢で42歳の時、今から7年と少し前。インターネットは平成8年の7月末、これは1年半前になる。
 コンピュータを購入した直接の動機は、着任した学校には、区内の他の中学校に先駆けてコンピュータが導入されたばかりだったからだ。コンピュータ導入の先進校の教頭だから、「少しは知っておいた方がいいかな」という考え。半分はアクセサリー、あと半分は嫌々、というわけだ。
 嫌々の程度はかなりのものだった。私は技術科の教師である。平成元年の2月に告示された現在の中学校の学習指導要領では、技術・家庭科に「情報基礎」の領域が初めて設けられた。つまり、技術科の教師は、コンピュータを新たに教えなくてはならなくなったというわけだ。
 私は「冗談じゃあない、技術科の授業は、ノコギリと、カンナが勝負だ、コンピュータなんか教えられるか!」と叫んでいた。
 これは当時、必ずしも、そんなにとんちんかんな主張ではなかった。技術科という教科が、実際にものを製作する作業学習を中心にすべきであること、そのための指導時数が減ることに反対する主張である。情報基礎の領域が技術・家庭科の授業に加えられれば、新指導要領の時数削減に加えて、木材加工や金属加工、電気の実習や栽培の時間が大幅に減ってしまう。多くの技術科の教員の率直な考えでもあった。
 それから、もう一つ本音のところでは、「いい年して、コンピュータの勉強をさせられるのはごめんだ」という心情もあった。
 また、当時、私は部活動や、生活指導などに明け暮れていた。そんなとき、まだ、わずかな人たちであったが、コンピュータをしている教員に強い反感を持っていた。私の目には、その人たちが、こどもの指導の現実から逃避している教員たちのように映っていた。
 このように、私は実は当時、コンピュータを操作するタイプの方たちとは、最も遠い位置にいたことになる。コンピュータと、それを推奨するみなさんを、毛嫌いする者の一人だったわけだ。
 そんなわけだから、後日、仲間の教師からは、私は、「技術科の教師のくせに、コンピュータを教えるのがいやで教頭になった」といわれる始末であった。

教頭の仕事に使えそうだ

 ともかく、コンピュータを購入したわけだから何かしようと思った。しかし、私は、パソコンでは「ワープロは絶対にやらない」と公言していた。「機械で文字を書くのは、人間の文字を書く能力と、意欲・努力を後退させることになる」と考えたからだ。
 「コンピュータは電子計算機というわけだから、計算に使うなら良いだろう」と、大まじめで、利用の目的について、勝手な理屈をつけて自分を納得させた。
 教頭には、生徒数や教職員のデータ、授業時数、施設・物品管理など、数字を扱う各種の調査の報告、申請書類の作成などの仕事が実に多い。私は二月、年度の途中に教頭に昇格したので、このことで実に苦労をしていた。コンピュータを使えば楽になるかもしれない、という期待があった。
 最初に作ったのは、「生徒数・担任一覧表」というものだった。
 生徒数の把握は学校運営の基本中の基本だ。学級数、教職員数、がこれで決まるだけではない。給食数、教材費の納入の基礎数、プリントの配布枚数まで、常に一番新しい正確な生徒数を把握しておかなくてはならない。教頭がこれをさぼったら大変だ。でも、生徒の転出入が多いと結構面倒だ。一人の生徒の数が変わると、学級、学年、総計の全部の数字が変わる。その都度職員に周知する必要もある。生徒数の一覧表は生徒の転出入があったらすぐに作り直さなくてはいけない。手書きではやっかいだ。
 コンピュータでは、「マルチプラン」という「表計算ソフト」を使った。最も初歩的な表計算ソフトの活用だが、とにかく生まれて初めてのコンピュータ操作だ。電源の入れ方から、終わり方、キーボードの文字や数字のありかも分からない。マニュアルの本を読んでも訳の分からないカタカナや、アルファベットが出てくる。
 しかし、一念発起、一週間ほどかかって、なんとか「生徒数一覧表」ができた。自宅では、夢中でやっていて、気がついたら夜が明けていたこともあった。
 一カ所生徒数を修正すると、瞬時に9カ所の合計を計算し、数字を修正してくれる。計算は絶対に間違わない。
 やった!
 これはすごい、教頭の扱う全ての統計業務に応用できるはずだ。次は「教員組織表」への挑戦だ。
 これが私がコンピュータにはまってしまった出発点だった。