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 **** 英国のナショナル・トレイル ****     
       ペナイン・ウエイのトレース 
    
 
  
1 準 備 
 1−1 トレイルの検討
 
 1)ペナイン・ウエイは、英国の長距離国定フットパスの中でも最も古い山岳トレイルで、天候によっては難易度の高いコースになるらしい。これまでに歩いた英国のトレイルは、全て南部の温暖な気候に恵まれていたから「悪天候」を実感出来ず、加えて距離が3倍も長くなるので実行を躊躇していた。しかし、昨年の南・北アルプス全山縦走で一応目安がつき「今年が最後のチャンスかも・・」と手強さを承知の上で年初に詳細計画に着手。

 2)基本はロンリー・プラネット社版「ワーキング・イン・ブリテイン」に掲載された本トレイルの日程を参考に必要日数を16日間とした。
尚、詳細な日程を決めるために、3月19日にネット販売・アマゾン社へ地図(Harvey社版・Pennine Way South,Central,North)を手配。

 1−2 航空券の予約
 
1)HIS(大宮営業所)へ比較的価格の安い6月中旬の出発で予約を打診。結局14日発、帰国7月6日で手配。燃料チャージ費の負担増が不満だが「滞在日数を増やして回収しよう」と時間が余れば湖水地方の下見も予定に加えた。

  1−3 
宿泊地の予約
 1)入国初日はロンドン市内の宿泊になるので、オックスフォード・ストリートYHAに4月3日予約。
 2)4月7日に地図(4万分の1)を入手し、YHA宿泊をベースに日程を決めて各YHAへ予約申し込む。7ケ所の予約は出来たが、マラムYHAは満員、ベリングアムYHAは無回答(閉鎖?)。従って、トレイル日数16日間の内10ケ所はテント泊になる。キャンプ場は、宿泊予定地にキャラバン・キャンプ場や農場キャンプ場があり、シーズン前だから当日受付で問題ないだろう。

  1−4 食料・装備の準備
 
1)荷物の軽量化はトレース成功の大きな要因になる。現状では、入山時に13Kg以下にしたいので、主食の米は後半α米、行動食は現地購入、装備も最少限にする(食料&装備表を参照)。
 2)入山日前の2日間は車移動だから餅やパック飯等の重量がある食材を持参。
 3)燃料用のブタンガス缶は入山時のシェフイルドで調達予定。
 4)雨天対策としてレインコートを特殊ポンチョに改造。
             ∞ ∞ ∞ ∞∞ ∞ ∞ ∞


 2 トレイルの記 録

6月16日・曇り&小雨(イーデル起点〜クローデン・キャンプ場)。

       距離28Km・登坂高910m。行動時間10時間20分

 昨夜はカミナリが鳴り激しい雨で「初日から濡れたテントを担ぐのか・・」と厳しい初日を迎える。幸い雨は止み深い霧の中を出発。(→)
 未舗装の馬車道を1時間ほど進むと後から人声がして「オハヨウ!」と空身のハイカー4名が足早に追い着き「俺たちは***までだヨ」と早口で云ったが聞き取れなかった。
 地図上の登高線は緩く、平坦な台地は岩が黒土に劣化する途中の裸地の荒涼とした様はこの土地独特の風景が続く。視界が悪いので先ほど先行した人達の足跡が良い指標になり助かる。

 彼方に今日の宿泊地・クローデンの貯水池が見えて来て「ヤレヤレ湿地帯から開放された」と安堵感が湧いてくる。(→)
 気が楽になると靴の浸水が気になり靴底を見て「アッ」と驚く。両靴とも靴底が接着部から剥離している「とにかく泊地まで保つように・・・」と紐で養生してショックを少なく進む。途中で今日始めてのランブラー(長距離トレイルのハイカー呼称)に会い「靴の修理出来る町が近くにありませんか?」と状況を説明すると「宿泊予定地から西方5kmにグロソープがあるヨ」「多分靴の購入も出来る」との情報に飛び付く。
 1時間ほど下って公道(B6105)に出ると太陽が照り「テントを干して行こう」と空地にテントを広げて靴を買いに行く。
 平日の店は午後5時で閉店らしいから「早出して良かった」と感謝。町内でオバサンにアウトドアの店を教えてもらう。
 店で推奨品(9千円)を試履後購入「防水性ですよネ」と念を押したら「エエそう」との返事に安心するが、実は完全防水でなく簡易防水のため、後日悩みの種になるがこの時は気が付かなかった。
 キャンプ場についてテントを張ると真夏日和の太陽が午後8時半まで照り、この国の季候に驚く。濡れたテントも一気に乾き新靴も調達出来て、今夜は快適な夜となった。


6月17日・小雨&晴れ(クローデン〜スタンドエッジ)

      距距離19Km・登坂高770m。行動時間8時間10分
 昨日午後の太陽からは信じられない降雨の中でテント撤収。出発して直ぐに登路になり高度を上げるとラダー・ロックと呼ばれる右斜面がガケになった淵を進む。大らか斜面が多いと思ったのに、こんなガケ淵のトレイルに「足元に気を付けて!」と気を引き締める。
 更に湿原帯を6km進み公道・A635に出ると、道脇にトレーラの出店が1台待機していた。
 今日は、湿地帯の足場(→)が悪く距離の割には時間を費やした。案内書では5−6時間となっているが視界が悪くトレイル探しと荷物の重さが影響しているのだろ。
 キャンプ予定地のスタンドエッジの農場場を探しながら進むと人家から離れてたので、引き返し公道沿いの農場で聞いたら「今は開いていない」との返事「1km東方のパブ(→)ならキャンプが出来る」とのコメントを頼りにトレイルから逸れて訪れた。昼時で多忙なマダムに話をすると「食事を注文すれば裏の空き地でキャンプOK」との快諾を得た。 


6月18日・曇り時々晴れ (スタンドエッジ〜コルデン)
       距離26Km・登坂高610m。行動時間8時間40分
 公道を西進してトレイルに戻る。トレイルの周囲は黒土で肥沃な土地に見えるが色が黒いだけで一切の植物を拒絶した台地が延々と広がる不思議な風景だ。黒土帯を過ぎると背の低いブッシュの湿原荒野になる。 細々とは云えトレイル(←)があるから不安はないが、トレイルを失えば茫漠たる湿原の砂漠に恐れ慄くだろう。人に出会うことなく自然の中に放置されて、トレイルの偉大さを感じる。この板石敷きのトレイルは40数年前に国定フットパスに認定されたが、それ以前から放牧の道や交易の道として古い歴史を持つ文化遺産だろう。
 日本の場合は宗教的な理由から古道が継続されているが、日本と異なり国土の70%が私有地の英国にあっては、道は営みの基本で多分紀元前から羊を生活の糧とし、そのために石積柵と板石道が築かれたのだろう。羊と云えば農場の主人の話では「放牧した6年目の羊を毎年秋に食肉にする」ので9月の第一週から市が立ち大賑わいらしい。
 そんな想いも、遠方からの車音で現実に引き戻される。東西に走るハイウエイ・M62道路に近づいたのだろう。この手前のA672公道にも出店車が待機していた。
 昨日のキャンプ場探しの教訓として「農場キャンプは早目に」と思ったので、今日は宿泊予定地付近で最初の農場から打診。幸いトレイル脇に「キャンプ可」の看板があったので躊躇せずに申し込んだ。


6月19日・曇り&小雨(コルデン〜ロザースデイル)
        距離26Km。登坂高880m。行動時間10時間
 珍しく朝日を浴びて出発。しかし、朝焼けの空は2時間もすると雲を呼びガスで視界が悪くなった。(→)ポンデンの村近くで日が射して来たので濡れたテントを干して休憩していたら、今回初めて同じ方向のペアーのランブラーが追い越しで行った。
 新替の靴が完全防水でなく昨日から湿地帯で1ピッチ歩くと「グチョグチョ」と音を出す。先は長いしトレイルの状況も現状と同じであれば対策を考えなくてはならない。
 「安物買いの何とやら・・」反省をしても後のまつり。兎も角被害を最少にするために、防水液を入手することと、応急処置として靴下の上をビニールで囲み足の保護を試みた。
 結果は無いよりマシだが今日1日様子みよう。
 村近くで、今回始めて樹林帯に入る、早速手頃な枯小枝を物色して杖にする。体力消耗上から杖の効用は高く、特に下降では膝の防御に効果大。
 本来ならロザースデイルの4km手前・コールイングの町が宿泊適地だが、キャンプ場がロザースデイルにあるので、ムリして来たが、予定の農場はキャンプ場閉鎖。頼りのパブも午後5時まで閉店で十数軒の村は人影もない。
 しばらくテントを干して待機していると3階建の家(→)に車が来たので「スミマセン・・トレイルを歩いているのですが、キャンプ場を教えて下さい」とお願いする。若い兄さんが車から降りて「ウウン・・」としばらく考えていたが返事がない。そこへお袋さんが出て来て二人でなにやら話していたが、どうも期待薄「アノ・・テント用の狭い空地があれば充分ですが・・」と笑顔でお願いすると「内庭はあるけど・・今晩は雨がふるヨ」作業場になっているスペースを指差して「ここで良ければテントを張っても良いヨ」とこと、屋根付きのスペースに感激して「全く充分!是非お願いします」と何度お礼を云う。
 兄さんが「お湯がいるなら・・」と電気ポットと延長コンセントを用意してくれ大助かり。仕事のあい間に来ては「大丈夫?」と心配し「日本人は初めて」とトレイルの事など詳しく教えてくれ感激した一夜となった。
 予報通り夜中は大雨になり思わぬ幸運に感謝。


6月20日・曇り時々晴れ&小雨 (ロザースデイル〜マラム)
        距離24Km。登坂高770m。行動時間6時間40分
 朝方カミナリの音で目覚める「屋内で良かった」と改めて感謝。今日は距離も短く湿地帯も少ないので快適な1日を期待して出発。遠方にモニュメントを眺める。(→)

 靴の状況が芳しくないので、一部トレイルを避けて遠回りになるが公道を進もう。
 早朝で村道を通る車もなく、周囲の牧場風景を眺めるユトリが生まれる。食料が減ってザックが軽くなったのもユトリの要因だ。
 今日のトレイルは、集落をいくつも通り営みの香りのある風景は気持ちを和らいでくれる。ガーグラブ、エアートンと云う比較的大きな村を通過してマルム集落が見えると奥くに斜面が切れ異様な大岸壁が現れる。
 過ってナイアガラ滝にも相当した大滝の残骸とのこと。このマラム谷目当ての観光客がバスで大勢来てマラム案内所は大賑わい。
満員で断られたYHAへ行ってみると今週は満員で観光目当てで早くから満員になるらしい。近くの農場のキャンプ場にテントを張り日が射して来たので、今回初めて下着類の洗濯をした。


6月21日・曇り時々晴れ&小雨 (マラム〜ホートン-イン-リブルスデイル)
        距離23Km。登坂高850m。行動時間7時間10分
 日に一度は長短の差はあるが必ず降雨がある。(→)テント泊にとっては厳しい条件で、常にテントを干すチャンンスを見つけなけばならない。 
 今日も昨日と同様に午前中にテント場に到着出来た。このような行動であれば、充分な休養が出来て翌日も調子良く出発出来る。
 理想的には6時間行動で1日の残り75%はテント場で休養出来れば申し分ない。テント泊を野営(野宿でない)とし宿泊だけでなく食事、洗濯、休養等の「営み」としたいので、それだけにキャンプ地の選定が重要になる。しかし、天候が不安定になるとキャンプ場での営みは制約され日数が増えると更に厳しくなる。幸い後半からはYHA泊になるのでこの問題からも開放されるだろう。
 靴のトラブルも先を考えると再度ペナインウエイ仕様?(防水性のウオーキングシューズでなくウオーキング出来る雨靴)が必要のようだ。
長い名称のホートン-イン-リブルスデイルは、トレイル3区分で南部コースの終着&中央部コースの起点で、中継所として簡単な食品やアウトドア用品を入手出来る店で案内所も兼ねている。
 靴の不具合は多いようで何種類かの防水液はあり効果がありそうなものを入手。
 訪問者の記録表に氏名を記入すると「日本人は初めて」と管理人。リストを見ると1週間に数名しか通過していない。


6月22日・晴れ午後小雨 (ホートンインリブルスデイル〜ホーズ)
        距離22Km。登坂高560m。行動時間6時間40分
 夜も降雨なく1時間ほど歩くと珍しく爽やかな朝日を浴びる。昨日に続き今日も短い行動だし何よりYHA泊だから雨の心配をしなくて良いので、気分がワクワクしてくる。
 雨天では写真を撮る気にもならないが今日は景色な変わる度にザックを降ろしシャッターを切る。この付近は、名作「嵐が丘」の作者エミリ・ブロンデを育んだ所で、往時の風景を今に残しているそうだ。
 トレイルはローマン・ロード(→)と呼ばれる古い道で見失うこともない。この道はローマ時代に主要都市を結ぶ道幅9mの石敷きで石の下に水はけが良いタルキ類を敷していたそうだ。
 YHAの受け付けは通常17時からだが予約済のこともあって午前中に着いたのに「部屋は掃除中だけど入って休んで」と心良く迎えてくれた。
 今日は久し振りに買出しへ行きワインで今日までの無事を祝い、案内所へ情報入手する。夕方到着した同室のオジサン2名は「明日はここで休養日」と云ってリラツクスしていた。
 案内所の資料(注1)でも本トレイルは宿泊でも行動19日+休養3日を推奨していた(キャンプ行動の場合は更に増やす日程のようだ)この情報を入山前に入手したかった。
 YHAには乾燥室もあり<雨で濡れても心配ないナ>とテント泊との格差を感じた。


6月23日・晴れ午後小雨 (ホーズ〜タンヒル)
        距離26Km。登坂高1070m。行動時間7時間30分
 YHAをいつも通り4時過ぎに出発。3時半には明るくなるので「早立ち、早着き」のペースは身体にも優しいし、天候も午前中が安定しているようで有利に思える。
 今日は大きなピーク(→)を2つ越えるので千米の登りと距離も長いが、ザックが軽くなったので気にならない。しかし、歩いても歩いても山頂が見えず規模の大きさにウンザリ。いつの間にか記録用のボールペンを落とし不自由する。しかたがないので主要部で写真を撮りデジタルに記憶させる。
 キャンプ予定のタン・ヒル(←)は1軒宿で英国の一番高い場所にあるコーヒ&ビール店との事。今日は土曜日で恒例の音楽イベントが開催されるらしく100台近いスクーターが店先の広場に集まっている。どうやらスクーター同行会の集いのようだ。
 宿泊出来ない人達は脇の平地に所狭しとテント(→)を張って開演を待っている。そんなテント村の隅にテントを張ったが夕方からガンガン音楽が流れて「今夜はウルサイだろな・・」と観念する。


6月24日・小雨後晴れ (タン・ヒル〜ミデレトン-イン-テースダル)
        距離32Km。登坂高570m。行動時間10時間10分
 昨日登って来たので、今日は下降路が主体になる。問題は湿地帯でヌカル道(←)のトレイルは不完全防水の靴には1時間毎に靴下を搾って進む難儀な区間。白くフヤケタ指や足底を拭く度に、歩く意欲が萎えて舗装道が恋しくなる。
 覚え難い地名が多いのは発音しないか弱音のスペルだけでなくやたらと長い。これはスコットランド語圏内になるからだろう。今夜の泊地も直ぐ忘れてします地名だが、ともあれテント地でなく宿を探す。案内所で先日入手した宿泊所リストからバンク(Bunk・ベットのみで食事は勿論シーツなしの宿泊施設)の場所を教えてもらう。
 バンクは、アドベンチャー・センターとハイカラな名称だが実態は古い教会を内部だけ改修しベットを置いた教会の再開発であった。教会の床下は納骨所と聞いたことがあるので良い気持ちではないが「テントよりマシ」シーズンオフで100名は収容出来る所に今日は自分独りのようだ。
 管理人に靴店を聞いたら「今日は日曜日で閉店、明日10時に開く」との返事で、ここでの入手は諦める。しかたなく足を被うビニール袋を更に強化すべく、黒いゴミ袋をもらい大きめにセットして明日に備えた。


6月25日・曇り後風雨 (ミデレトン-イン-テースダル〜ダフトン)
        距離33Km。登坂高540m。行動時間9時間
 今日は天候も風を伴う雨気味で長い行動になるだろう。川幅の広いチース川(→)沿いに20数km進む。水量も多く、当然湿地で足元を気にして歩くうちに風は益々強くなるが、幸い追風だ「向い風だったら厳しいだろう・・」と誰もいないトレイルを進む。風の音と間近の川の音が先へと急かせる。
 ようやく川から離れたと思ったら今日一番の難所・ハイ-カップ-ノッチと云う所に到着。予備知識が無かったので、急なガケ淵の通過に「こんな所がトレイル!」と信じ難く通過に戸惑う。風の通路らしく一段と強い強風雨がガケ下へ吹き込まれている・・。悪いことに一番ガケ寄りの所は沢の渡渉になっている。「考えていてもラチがない」ので意を決して歩を進め渡渉にかかると、予想しない強風でバランスを崩し片足が滑り沢に尻もちをつく。慌てて体制を整え引き返すがザック半分は水に浸かってしまった「ヤバイ!」と全身のアドレナリンを総動員し、3点確保で再度トライし何とか渡り、四つんばいになって800mほどのガケ淵トラバースを抜けた。
 ザックが重い分飛ばされずに済んだが、ともかく難所を通過してホッと安心「食事と給水」と思って岩陰でザックを下ろしたが、身体が冷えて震えな止まらず食事どころでなく早々にザックを担ぐ。ガイド書にあった「状況によっては難しいコース」の意味を痛感。
 濡れたザックの中身を案じながら宿泊地のYHAに到着。パスポート等重要品を調べて異常ないことを確認。何が起こるか判らないので、貴重品は完全防水して身体に付けよう。
 YHAの情報では今日と明日は特に風が強く(15mile/sec)注意報が出ているそうだ。それにしても厳しい1日だった。


6月26日・雨後曇り (ダフトン〜アルストン)
        距離31Km。登坂高1070m。行動時間10時間10分
 食堂で砂糖(備え付け)をタップリ入れた熱々のお茶と現地購入のフランスパンで朝食「テントに比べたら天国」で出発準備もルンルン。これから当分YHA泊と思うと旅が楽しくなって来る。
 今日も千米を越える登坂量だが距離が長いのであまり坂は負担にならないだろう。むしろ行けども行けども山頂に着かない石板路(→)と、山頂からは緩い下りが終わらず、規模の大きさで歩くがイヤになる。
 風は強いが珍しく日射時間が長く、久し振りに雲雀の声を聞く。高度を上げて山頂付近の素晴らしい展望に「ペナインウエイの良さ」を堪能。山頂付近は広い台地だからガスで視界が悪い時は下降路が見つけ難いのだろう、あちこちにケルンが積んである。
 下降途中から林道を左折するがこれを見失うと現在地も不明になり苦労するように思える。その証拠に山腹に避難小屋(←)があった。小屋から宿泊地までは10kmも歩き難いジャリ道を下降しなければならない。
 靴の濡れを気にして歩いたせいかYHAに着く頃右足首の筋が痛み出す。今夜の泊地アストロンには大きな町だから靴を購入しよう。
  宿に行く前にスーパーで食料、ワインそして靴(今度は完全防水を確認済み)を購入。


6月27日・雨後曇り&晴れ (アルストン〜グリーンヘッド)
        距離27Km。登坂高570m。行動時間7時間
 今日からは新しい靴だから湿地帯も平気だ。荷物も軽く(10kg程度)残り1週間は毎日が下山日のようなリッチな旅が期待できる。
足首の痛みには、靴紐を緩めたり、クッションを入れたりして様子を見ながら進む。
 長期の山旅では、必ず何か問題・不具合が発生する、その殆んどが不注意が原因だが放置すると次々と派生してくるので問題が小さなうちに面倒がらずに対処することが不可欠。しかし、疲労時やユトリがない時は解決する前に新たな不具合が発生し困惑する。例えば、身体的な不具合を抱えて道に迷う。こんな時の対処次第でトラブルの増減が決まるので、ソロ行動では謙虚で冷静な判断が特に要求される。
好天気で今の所問題がないので、今の内に考えられる不具合の予測をしておきたい。
 今夜のYHAも教会のリニューアルで外見は教会そのもの。時代の流れで収支が合わないのだろう、管理は隣のホテルが代行していた。


6月28日・曇り時々雨と晴れ (グリーンヘッド〜ベリングアム)
        距離34Km。登坂高920m。行動時間9時間40分
 相変わらず湿地帯の沼歩きが続く。期待していたハドイアヌスの長城(→)も以外に低く通常の石柵を一回り大きくした程度で、泥濘で足元の方に気を取られ、いつの間にか通過。ウオータープルーフとは云え水中仕様でないので深みに入らないよう左右浅そうな所を選んで進む。
 浮木と知らずウツカリ「足場材」と思って踏んだら靴がスッポリ水没「田植えじゃあるまいし・・カンベンしてよ」と歩く意欲もなくなる。特に湿原帯で2種類のトレイルのうち馬車道は選択の余地があるが、シングル道は板石敷き以外はステップを探して立ち止まることが多い。
 単独女性の対向者が来たので靴を見ると、レイン・シューズでウオーキングも出来るシューズと云える黒いゴムコーテング・ジューズに防水スパッツを履いていた。日帰りスタイルで両手のストックでグイグイ歩いていたので「このペースがガイドブツクの標準歩速(時速4.5km)なんだ」と勉強になった。
 マイペースでは荷物が軽いとは云え、テント担いでは時速3km程度(約100歩/分)だからムリせずに有酸素活動の範囲で歩こう。
 アストロンYHAで今夜の宿を予約してもらったのでテント地の心配はいらない。今夜は予定したYHAが閉鎖のため、農場が運営するバンク泊。この町にはスーパーもあるので予定を変更して明日も滞在・休養日とする。1日延期に伴う以降のYHAの変更もアストロンYHAで出来たので助かった。繁盛期には満員になるので変更は出来るだけ避けたい。現に明日はここも満員でテント泊になる。


6月29日・晴れ  休 養 日 
  同宿の女性2名は同じトレイルを歩いており昨日午後5時頃投宿。朝は8時頃起きて9時前に出発していった。このペースが一般的な行動のようで、YHAが午後5時からの受付も納得出来る。自分のペース(夜が明けたら出発、午前中到着)は異例なので道中に同行者とも会わない訳だ。
 たまに会う対向者が「早い人だ・・」と変な顔をして挨拶するのも納得。テント泊の早出は、ワラジで旅をするような時代遅れかも知れない。
 石壁に石屋根の作業場を改修したバンクは快適な部屋だ。天井は内張りだが壁は剥き出しで表と同じ石壁(←)で風や音に強いだけでなく日中吸収した熱の保温効果がり、日本の木造と違った雰囲気で石壁からは木造にない強い意思を感じる。又窓が小さいので天井の明かり取りが効果的で、生活の智慧に感心する。
 町の案内所の情報では、閉鎖中のYHAは経営者が変わり泊まれるらしいので、電話番号を聞いて呼び出すが留守デン。現地へ行ってみると連絡先の電話番号のメモはあるが、営業している雰囲気ではなかった。
 夕立はあったが珍しく青空の一日。夜トイレに出たら満月が丘の上に乗るように出ていた。驚いたことに3時間ほどして再度覗いたら同じ高さで横へ20度ほど移動していた。この国では月は昇らないのだろうか。


6月30日・晴れ (ベリングアム〜バイネス)
        距離24Km。登坂高540m。行動時間7時間20分
 昨日は休養出来たが、好天気のため朝方の冷え込みが厳しく寝ておれず早々に出発。
ゴールまで残り3日と思うと元気が湧いてくる。天気も昨日のような好天気(→)ではないが、風も弱く視界が良いので展望を楽しみながら進む。
 北部地帯になったことを示すように樹林帯が増える。これまでの荒地ではガケなどから判断すると岩盤に20−40cm程の薄い土が被っているだけで植生も限られているが、北部では樹林が育つほど豊かな土地なのだろう。森の中に入ると道も硬く、空気が濃くなったような気がする。
 荷物は軽く無意識のうちにピッチがあがり午前中にYHAに到着。管理のオジサンが「もう着いたの?早いナ・・何時に出た?」と驚き、オバサンは「日本人は初めて」「明日は途中に風の通り場があるので気を付けて」と励ましてくれた。夜になっても投宿者は来ないので貸切の一夜を過す。


7月1日・曇り後晴れ&小雨 (バイネス〜避難小屋)
       距離31Km。登坂高1470m。行動時間9時間40分
 最後の難所の山越えになる。通常は中間地でトレイルを離れ農場へ250m下降。翌日トレイルに戻り下山する。他の方法は、途中2ケ所ある避難小屋の何れかに泊るが、中間にないので1日は長時間の行動になる。天気の様子を見て避難小屋を決めるが、出来れば最終日は軽い行動にしたいので、先の小屋まで行きたい。
 累計標高差1470m・距離31kmの数値に「大丈夫だろか」と不安がつのるが、視界が良く(→)案じていた風も弱いので「山が荒れる前に小屋へ行こう」とファイトを燃やし前進。
 湿地帯には閉口したが、スポーツ・ウ−キングとしては最適なトレイルには違いないので、胸を借りるつもりで歩く。この地域だけが火山による花崗岩で、トレイルも日本の山肌に似ていて親しみを感じる。
 小屋近くで日帰りハイキングの数人と会う。軽装の姿にゴールが間近になったこと知らせるようだ。午後になって夕立とカミナリが小屋を襲ったが小屋の中にテントを張って高みの見物。


7月2日・曇り時々晴れ (避難小屋〜カークエソム)
       距離10Km。登坂高150m。行動時間3時間40分
 あっけないほどの最終日(→)。終点付近で何日も付き合ってくれた杖を木陰に置いて一路YHAへ向かう。対向者が笑顔と拍手で迎えてくれ、少々テレ気味になる。YHAでは管理人のお姉さんが「おめでとう!ご苦労様」と暖かい眼差しで労ってくれ、午前中なのに部屋に案内してくれた。 早速、10分ほど離れた食料店へ買出しに行き不足分のカロリーを補給、ワインで完歩の祝杯をあげた。
 やがて20名ほどのランナー達が到着。24時間・トレイル走をゴールしてこれから乾杯らしい。自分達の祝杯に加え「何かの縁」と完歩した私にもお祝いと握手ぜめで、思わぬ歓迎を受けた。
 2次会でパブに行くらしく「あなたも是非!」と強く誘われたが「心身共に疲れているので・・」と好意だけ貰って遠慮した。正直の所、訛りの強い早口言葉の会話に付き合うのは気が重く、スコットランドでテロ騒ぎらしいから帰国まで色々あるので神経を休ませておきたい。
 寝る前に明日の予定を検討する。この村から長距離バスはないので、ケルソーの町へ出てニューカッスル市経由でロンドンへ向かう。
ケルソーから東まわりと西まわりのコースがあるが、ダイヤを調べてもらうと西まわりが短時間なのでこちらに決める。


 
  所感と教訓
 1)400Km以上の山岳トレイルを一度にトレースするのは初めての経験で、文字通りの「中冒険」であった。
 加えて、予想以上に湿地帯の足場の悪さや悪天候、又入山日から靴が破損するなど、今迄に体験しない事態の対処に困惑した。前述の「面白さ」を逸脱気味でもあり、能力的にも今年が最後のチャンスだったかも知れない。

 2)入山後に入手したトレイルの資料によると全登坂高(総標高差)が13000mになっているのに驚いた。計画時に地図上からは半分位と判断し、距離だけで日程を決めたのでムリがあった。
 途中で予定を変更して1日休養日を追加したが、宿泊地への変更が煩わしかった。テント泊の装備では行動19日+休養3日が適正のようだ(計画時の情報不足を反省要)。

 3)ちなみに、昨年夏の南・北アルルスと比較すると概略下記の様になる。
トレイル名   距離(Km)   全登坂高(m)   勾配
今 回      414        13.000      1/32
南アルプス    178        10.400      1/17
北アルプス    162        10.300      1/16
    但し勾配=全登坂高/距離

 4)行動時間に対して歩速の比較を昨年の南・北アルルスと比較すると概略下記の様になる。
トレイル名   総行動時間    時速(km/H)  
 今 回    131時間40分     3.14
南アルプス   75時間40分     2.40
北アルプス   82時間20分     2.00
 継続可能な公道歩行時の標準歩速は3.5km±0.5程度だから今回の歩速も予定通りと思う。

 5)トレイル専用の地図には車道、馬車道そしてシングル・トレイルの3種区分があり判断し易い。更に石柵との関連が良い指標になった。柵沿いか柵を越えるかで現在地を把握出来た。

 6)今年は4月に好天気が続いたそうで現在は例年になく雨が多いそうだ。異常気象の影響を受けているらしいが、地元であれば南部コースだけで下山、続きは天気が回復して出直すがチケットの都合上続行したので、笑顔のペナイン・ウェイに会えずに残念だった。

 7)宿泊施設でYHAしか考えていなかったが、バンクやバックパツカーズ(バンクと同じレベル)を利用する方法が本トレイルに合っている(長距離トレイル全般に云える)。

 8)自宅との連絡手段に電話以外にインターネットのメール及びミクシの日記欄を利用した。ネット場所も多く低料金で活用出来るので便利なことが判った。

 9)食料関係
・α米にインスタントの卵スープを加えて旨いオジヤが出来た。
・現地のパンやハムは安価で旨い。
・味噌汁の具として削節、小魚、切コンブ使用効果あり。
・現地購入のパック飯を少量の湯で加熱しながらホグシて3分ほどで旨い飯になった。

 10)装備関連
・長距離トレイルは新靴(防水性)相当にする。
・ガスは各種入手出来ないので事前に確認要。
・雨対策は今回の荷物被い+ポンチョ式コートで問題なし。
・好天時に夜間10度以下になりシュラーフカバーが欲しかった。
・足クリームと虫よけ液を現地で入手。毎日使用した。
・電池は殆んど使用せず行動した(夜明けが早く日暮れが遅い)。
・原則通りパスポートのコピーとカード&現金は防水対策をして身に付けておこう。


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