面白恐竜学2003 10~2004 03

10月期講座の授業風景^^)

 

 2004年3月6日/13日: 

 3月の6日に八王子で、13日に横浜で授業を行いました。テーマは首長竜は何者か?。下にも書きましたが首長竜は頭の骨の構成が他の爬虫類とかなり変わっています。見た目はワニや恐竜とも違いますし、トカゲとも違っています。頭骨の周辺にある”筋肉を通すための穴”も独特です。だから古典的には”広弓類:Euryapsida ”という独自の爬虫類として分類されてきました。これには魚竜や板歯類といった奇妙な海棲爬虫類も含まれていました。

 

 しかし近年の分岐学の進展によってエラスモサウルスのような首長竜はレピドサウロモルファ(ワニよりはトカゲに近い)なのではないかと考えられるようになってきています。そのことを原始的な首長竜、パキプレウロサウルス、ピストサウルス、そして派生した首長竜、アルザダサウルスとをくらべることで説明しました。もしエラスモサウルスやアルザダサウルスのような動物の”独自な特徴”が、私たちの身近にいる爬虫類、例えばトカゲのようなものから派生したものならば、比較的アルザダサウルスに近く、なおかつ原始的な動物とくらべることでその進化の過程が分かるということですね。

 実際、アルザダサウルスやエラスモサウルスのような派生した首長竜は、トカゲのような動物の頭骨が著しく変形したものであると考えることができそうです(*注:当然、異論もあります)。また彼らは進化の過程で泳ぎ方がかなり変化したことも講議しました。

 おまけ:

 八王子の授業では質問の時間に、”テレビで動物の重さはサイズの3乗に、強度や筋肉の生み出す力は2乗に比例する。だから恐竜はあのサイズでは動けなかったはずだ。でも恐竜はいたのだから当時は地球の重力が低かったのに違いないということを言っていました。あれは本当ですか?”という質問がでました。

 これは重力変動説ってやつですね。恐竜が大きいのは重力が低かったからに違いないって説です(逆に、重力が大きくなったから恐竜が絶滅した、という説明もあります。これは重力増加説ってやつですが、アイデアとしては同じことですね)。

 当たり前ですけど、以上のアイデアには致命的な間違いがあります。では次ぎの3つの立方体を見て下さい。

  

 上の図を見れば分かるように物体の縦と横、高さの比率が同じように2倍になるのなら断面積は4倍、重量(体積)は8倍になります。3倍になるのなら断面積は9倍、重量、あるいは体積は27倍になります。ようするに断面積はサイズの2乗に、重量は3乗に比例して増えるわけですね。

 さらに、動物の筋肉のパワーは断面積に比例します。つまり重量の増え方に対して筋肉の力、骨格の強度の増え方が小さいことになるわけです。これ自体はまったく正しいことです。しかし、重さは3乗、強度と筋力は2乗で増加する。この3乗と2乗の関係自体が成り立つにはひとつ条件があります。それは今さっきいったように”それぞれの物体の縦と横、高さの比率が同じなら”ということです。

 これはようするに”小さな動物と大きな動物がもしも同じプロポーションなら以上のようなことが成り立つ”ということなんですね。つまり”恐竜があそこまで巨大だったのは重力が低かったからに違いない”というアイデアは、小さな動物と大きな動物が同じプロポーションであるという前提に基づいているわけです。

 さて、ここで受講生の人たちに質問、小さなカラスとティラノサウルスは同じプロポーションですか?。

 もちろん答えは”違います”でした。

 実際、大きなティラノサウルスの骨格はカラスに対しておっそろしく骨太なプロポーションになっています。ようするに”恐竜が大きかったのは重力が低かったからだ”というアイデアは事実と異なる仮定に基づいた非現実的なアイデアだってことです。簡単に言ってしまえば間違いだってわけですね。

 このように、計算が正しくても答えが大間違いってことがあります。重力変動説(あるいは重力増加による恐竜絶滅説)は計算は正しいのに、前提が非現実的であるために答えが間違っているわけです。

 逆に言うと大きなサイズのものを作るには重力をいじくるよりももっと単純な解決策があるってことになります。つまりプロポーションを変えればいい。これは何世紀も前から技術者には経験的に知られていることですね。小さな模型をその形のまま大きくしても壊れる、だから大きな機械や建物をたてるときは比率を小さなものと変えなくてはいけません。

 例えば自家用車と超大型ダンプのタイヤの比率は同じでしょうか?、大型重機の雑誌などは刊行されていますから見てみましょう。例えばドイツの一号戦車とティーガーのキャタピラの比率は同じでしょうか?、もし同じプロポーションならティーガーは動けなくなってしまうかもしれません。はたしてそれは正しい結論でしょうか?。第二次世界大戦中、ヨーロッパの重力は変動したのでしょうか?。そしてコンプソグナトスとティラノサウルス、テコドントサウルスとアパトサウルスが同じ比率でしょうか?。

 計算が矛盾なく正しければそれでオッケーであるとか、問題解決策はひとつ思い付けばよいとか、そんなふうに考えるお利口さんには皆さんならないように。この言葉で八王子の授業は締めくくりました。

  

 2004年2月14日

 さて、この日は横浜で講議です。スケジュールでいうと首長竜の話に突入するはずなのですが、八王子とテンポを合わせたかったので、おまけ的に”なぜ恐竜は滅びたのか?”という話をしました。最初に恐竜が滅びたという現象は地層に残されていること。しかし、地層というものは不完全であること。なぜそうなるのか?、それを地層が出来ていく過程を話しながら説明しました。

 化石記録は不完全である。ようするに、「恐竜の世界」という100巻ある単行本のうち、私たちがもっているのは数巻くらいなんですよね。おまけに最後の98〜100巻がすっぽり抜けているわけです。これでは恐竜が急に滅亡したのか、一部の人がいうようにゆっくりと滅びたのか分かりません。とはいえ、最近、ようやく最後の巻にあたるような恐竜の化石記録が見つかりました。そのサンディーサイト標本は国立科学博物館の新館地下1階で見ることが出来ます。この化石、恐竜滅亡まであと100万年という時期のものなのですが、とにかくこれにはいろいろな恐竜や脊椎動物、植物が含まれています。

 サンディーサイトの化石は北村の著作である「恐竜と遊ぼう」の72ページにも写真が載っています。この写真に写っているのは展示にまわされていない化石ですね。サンディーサイトからは本当にたくさんの化石が見つかっていて、展示されているのはごくわずかです。今回は72ページの写真を見ながら、これらの化石の正体が具体的になんであるのかを説明しました。そしてそこから導き出される結論は・・・。まあ、受講されていなかった方は「恐竜と遊ぼう」からその結論を読み取ってください。

 

 2004年2月7日:

 先月は八王子センターで授業がなかったので、2月7日の八王子での授業は翼竜についてでした。ようするに八王子の授業内容は横浜より1ヶ月遅れているわけですね。そういうわけで話した内容は先月、横浜センターでしたものと基本的に同じです(上を見よ↑)。とはいえ、横浜とは違うことも少し話しました。まずミズナギドリの実物骨格を持っていって、エウディモルフォドンの骨格と比較。胸の骨(スターナム)のおおきさがまあ、見た目ではあまり変わらないことを話しました。古典的には翼竜は自力では飛行できずに、ただ滑空するだけだと言われたこともあります。確かに翼竜には鳥のようにスターナムにキールがありません。鳥の翼を動かす筋肉のかなりなものはこのキールにつくのですけど、翼竜のスターナムには代わりに前方にのびる突起があります。まあ、そういうことで翼竜は自力で飛べるのでしょう、という話しをしました。

 それにしても先日、キジを解体したのですが、こちらのスターナムは身体に対して大きい大きい。でもキジは飛ぶのが苦手な鳥なのですよね。無理矢理飛ぶためにでっかいスターナムを持っているのか、どうなのか?。キジは脚の発達した鳥ですけど、下半身の重量が重いからそうなってしまうのでしょうかねえ?。

 さて、八王子では翼竜の話をした後、次回の予習のためにワニの頭骨の色塗分けを行いました。次ぎの授業内容である首長竜の話しをスムーズに行うためです。首長竜は頭の骨のどのパーツがなんなのか、それが非常に分かりにくい動物です。ようするに他の爬虫類との相同性をきめることがむずかしい。そのせいもあってか古典的には首長竜は”広弓類”といって爬虫類の中でも独立の亜鋼に分類されてきました。今でも系統の位置はいまひとつ安定しませんが、一応今回はレピドサウロモルファであるということで話を進めます(Rieppel & deBraga 1996 nature vol.384 pp453~455)。

 

 2004年1月:

 2004年の1月は八王子センターでは授業がなく、横浜だけでした。気を取り直して翼竜の本格的な話はここから始まります。エウディモルフォドンの骨格を塗り分けてもらって翼竜の特徴を把握してもらいました。また翼竜には分けると2つのタイプがあること、いわゆるランフォリンクス型とプテロダクティルス型なんですが、それらの具体的な違いについて話しました。それにしてもどうしてプテロダクティルス型は尻尾を無くしたのでしょうねえ?。ものの文献では飛行能力が増したからという意見がありました。でも詳しい検討があるかどうかまでは北村、知りません。そういえば鳥もそうなんですよね、始祖鳥のような長い尻尾は後に生まれた鳥類では失われている。

 さらに体毛を持っていたらしいソルデス、そして翼竜の祖先に近縁と思われるスクレロモクルスについて話しました。それにしてもスクレロモクルスは化石の状態が状態なだけに情報が少なく、おかげで翼竜とスクレロモクルスの共通の特徴(<ここでは共有派生形質のことですが)はほんのわずか。このあたりの状況は北村が以前採集したマテガイの化石(<地下水で貝殻が溶けて痕しか残っていない)で説明。

 

 2003年12月:

 翼竜の話をするはずが、結局、恐竜時代の初期の話に・・・。国立科学博物館にも展示されているプレストスクスが何の仲間なのかを考えたり、リンコサウルスという当時主流だった植物食動物が何の仲間なのかなどが講議の内容。そうした話に加えて、話題は大量絶滅に。ペルム紀末の大絶滅と三畳紀の絶滅をとりあげ、いよいよ翼竜の話。でも翼竜はさわりだけで終了・・・。

 

 2003年11月:

 国立科学博物館でスケッチしたトリケラトプス、アパトサウルス、ティラノサウルスの骨をまたもや色鉛筆でそれぞれ塗り分けてもらいました。そうしてもらうことで相同の骨を探してもらった次第。ちょっと荒い比較ですがバシリスクとくらべることで、以上の3種類の動物が”彼らだけの特別な共通の特徴”を持つことを理解してもらい、彼らが共通の祖先から進化したであろうことを話しました。

 そしてちょっと難しい話、ヘルレラサウルスは恐竜なのか?、それとも恐竜ではないのか?。いったいどっちなんだろう?、という話をしました。まあ、恐竜でいいのかな?、ヘルレラサウルスは・・・。

 

 2003年10月:

 バシリスク(イグアナ科のトカゲ)の骨格とティラノサウルスの骨格をくらべることで手足の相同の骨を見つけるという授業を行いました。恥骨(ピュービス)はどれか?、腸骨(イリウム)はどれか?など色鉛筆で骨を塗りわけるじことでこうした作業を行いました。そしてそこから簡単な筋肉の復元を行ったんですけど、筋肉の復元は少し大胆な試みだったかもしれません^^;)。とはいえ、筋肉をつけるとヘルレラサウルスとティラノサウルスの足の外見がまるで違うだろうということは伝わったようです。受けてました。

 

授業風景の参考までに2004年1月に行われた町田恐竜学講座の授業風景についても紹介しておきましょう。

 おまけ:2003年4月期の授業風景。2003年の講座の最後は鳥と鳥の飛行の進化の話。最近発見されたミクロラプトルの紹介をしつつ、飛行はどのように進化し発展したかのかということについて講議しました。

 ミクロラプトル・グイ(右の画像を参考)はおそらくは滑空していたと考えられる恐竜です。この恐竜の発見から鳥の飛行は樹上起源ではないか?という仮説が提案されました。

 講議ではそのアイデアがどの程度確からしいのかについて話しました。ただし、内容は少し煩雑だったかもしれません。そういうわけで2003年10月期からはもうすこし砕いた話に変更。   

 

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