Viola tokubuchiana tenuicornis

ヒナスミレ

*注:亜種名tenuicornis の末尾が-c o r n i s であることに注意(太字のボールドにすると場合によっては r m が m に見える)

またこの亜種名は「日本のスミレ」第2版 橋本保 昭和43年 誠文堂新光社 にしたがったもので

文献によっては Viola tokubuchiana takedana

スミレの学名の最新状況は把握していないのでもろもろ暫定(っぽく)

*注:カラーで描かれている部分はヒナスミレ

画面左と下の単色の線画は比較のためにスケッチしたナガバノスミレサイシン Viola bisseti

ただし右側の花のスケッチはヒナスミレのもの

唇弁の先がとがり気味で上弁が横長なのはマキノスミレっぽい?

  

 2008年5月4日、シハイスミレの変種マキノスミレを探すために東京都は奥多摩湖近くの山に上って見つけたスミレ。当初は希望的な観測からかこれが目指すマキノスミレだと思っておりました。だからスケッチにも以上の画面にはありませんがマキノスミレ? と書き込みがしてあります。

 しかも間の抜けたことに、当日、あちこちに咲いていたナガバノスミレサイシンをヒナスミレだと勘違いしており、比較のためにナガバノスミレサイシン(この時はヒナスミレだと思っていた)の簡単なスケッチを周りに描いています。スケッチには葉が細長いこと、葉の縁のセレーションが強くて波うつこと、托葉が比較して太く、幅が広いこと、距が短くて丸いとか色々書き込んでいますが、これはヒナスミレ(実際にはナガバノスミレサイシンだった)がこのような特徴を持つが、4色スケッチしたこのスミレはそうした特徴を持っていない。ゆえに消去法でこのスミレはマキノスミレに違いないという推論をしていたから。

 スケッチを終えたのは午後3:00。5月ということもあって日が暮れるのが早く、急いで下山を開始。その途中でヒナスミレだと思っていたものがナガバノスミレサイシンであること、そしてマキノスミレだと思って描いたものこそがヒナスミレであることに気がついた次第。距が丸っこくて短いのはナガバノスミレサイシン。葉っぱが比較して長く、セレーションが強いのも同様でした。ようするに、

:Aはヒナスミレである

:Bはヒナスミレかマキノスミレである(ちなみに両者はよく似ている)

:しかるにBはAではない

:ゆえにBはマキノスミレに違いない

という推論をしていたのだが、そもそも最初のステップが間違っており、それゆえに推論全体が間違っていたということ。つまり、

:Aはナガバノスミレサイシンである

:じゃあBはヒナかマキノのさてどっちだ? 以下うんぬん、、、

第一の前提が間違うと以上の三段論法(というの? )はそりゃあまったく成立しなくなりますわいなあ。こう書くといかにももっともらしいけれども、これは単に観察不足だっただけの話。あるいは希望的な観測が事実を誤る例。あるいは作業仮説に基づいて観察をしたが、その作業仮説が間違っていたので観察がゆがんだという事例。あるいは単に間抜けなだけ。

 ともあれ、4色スケッチした株の全体の印象は同じような特徴を持つシハイスミレによく似ています。しかもヒナスミレなら持っているという側弁の根元の毛はなく、葉っぱの毛も見当たりませんでした。薄暗く北向きの斜面の林床だったので観察が悪かったのでしょうか? 少なくともメモには書いていない。でも葉っぱは水平になっていて、これはヒナスミレの特徴。後、距のつけねの下になにやら小さな三角をしたものがあるのですが、これが「増強改訂 日本のスミレ」 いがりまさし 1996 山と渓谷社 の写真とよく似ていたので、ヒナスミレでいいのではないかと考える次第。ヒナスミレとおぼしきスミレはこれ1株だけでした。

 なお、ヒナスミレは「日本のスミレ」第2版 橋本保 昭和43年 誠文堂新光社 によるとフジスミレ Viola tokubuchiana を含む種類なのですが、命名規約上の理由で学名の上ではフジスミレの亜種という扱いだそうな。困ったもんだと言うべきなんだかどうなんだか。

 さて、スケッチを終えて急いで傾斜のきつい登山道を降りて舗装道に出たのは4:00。国道に出たのは5:00で、この時すでに完全に日は暮れており。かなりきわどいタイミング。あんな時間に奥多摩の登山道で孤立してはたまりません。周りが真っ暗で身動きできなくなるのは必定。

 上の花が咲いていたのは標高がたぶん800〜900メートルぐらいの場所。周囲にはカタクリの花が咲いていたり、ヒトリシズカが満開だったので、たぶん関東の平地とは1ヶ月ほど季節にずれがあります。課題であるマキノスミレはおそらくもっと早い時期に咲いているようなので、次回の春に探す予定。ゴアテックスの合羽を装備して。

 

 

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