NemertineaNemertea

ネメルティニア/ネメルティア

紐型動物

ヒモムシの一種

 わけあって瀬戸内海、水深数十メートルから採集されたヒモムシを手に入れる機会にめぐまれました。これはそのアルコール標本をスケッチした図。ほとんど実物大に近いイラストで、生きている時はもっとぺらぺらで長く、20〜30センチぐらい。扁平なので見た目はほとんど扁形動物で、色は濃いサーモンピンクでした。

 

採集された時の写真、体部末端。

 最初はなんだかよく分からず、ヒモムシなのかユムシなのか迷ってしまいましたが、hilihiliでリンクしているやまださんによればヒモムシだそうです。残念ながら採集のさいにバケットにはさまれたために3つにちぎれてしまったのですが、そのおかげではからずも身体の断面が見えています。この断面からするとこの動物には体腔がないらしい。これは紐形動物の特徴のひとつです。

 また、泥から身体を引き出すさいにちぎってしまって、内部から吻と思われるもの(イラスト左下)を引きずり出してしまいました。吻らしきものは左右の組織が合わさったようなチューブ状の作りになっています。どうもたぶん背腹の区別があるらしい。分岐しているところが奇妙な印象を与えます。ユムシやホシムシも吻を持つのですが、この動物の吻はそれらとはずいぶん違います。

 スケッチは全体として腹側から見たもので、頭は画面の右下。頭の周囲にあるのは頭部の先端から見たスケッチと背面からのスケッチ。左上にいくにしたがって胴体の後ろとなります。身体の末端に小さな穴があって、これはおそらく肛門でしょう。

 

 紐形動物とは?:

 ヒモムシと呼ばれるように、細長い紐状の姿をした動物です。例えば右のスケッチを参考にしてください。これはやまださんが持っているメノコヒモムシ(長さは7mmぐらい)の標本を北村がスケッチしたもので、許可を得てここで示しています。このスケッチを見れば分かるように、紐形動物は体節を持たず、身体が扁平っぽいので(英語ではリボンワーム)、見た目は扁形動物によく似ていますね。ただし身体の構造は以下の特徴の項目で述べるように、扁形動物とはずいぶんと違っています。

 紐形動物は文献によってNemertinea とか Nemertea とされていますが、このグループ名。語源がなぜかNemertes ギリシャ神話の海の妖精(ニンフォのことか?)なのだそうな。一体全体なぜに??。

 ともあれ、ヒモムシはそのほとんどすべてのものが海産で、ごく少数のものが淡水や陸上にすんでいます。深海産の種類のなかには遊泳するものもいますが、大部分は海底の砂や泥、貝殻などのなかに潜んでいて、吻をのばして獲物を捕まえて生活しています。割合普通の動物で、海水魚の水槽にもいつのまにやらすみついているくらいですが、小さく夜行性で、目立たないマイナーなグループです。ただ、なかには数十センチ、あるいはさらに巨大に成長する種類もいるそうな(最長でLineus longissimus が30メートルに達するという話:「五つの王国」日経サイエンス社を参考のこと)。トップのスケッチも、ヒモムシとしてはかなり大きい部類に入るでしょう。

 

 紐形動物の特徴:

 口と肛門があって、それが1本の消化管でつながっており、肛門は体の末端に開きます。ヒモムシは外見が扁形動物ににていますが、肛門を持つ点でまったく異なります。

 ここで参考までに扁形動物コンテンツを示しておきますが、扁形動物では口と肛門が同一で、消化器官は管ではありません。

 またヒモムシの最大の特徴は伸縮自在の吻を持つことです。吻を持つ動物は他にもいますが、紐形動物の吻は独特で、体内に吻を納める腔所を持っていて、ここの組織を反転させてホースかなにかのように吻を出し、種類によるとそこについた針で獲物を捕まえます。同じようなワーム体型をしたユムシやホシムシも吻を持ちますが、吻の構造や見た目はずいぶん違います。

 ヒモムシの吻は身体の先端にありますが、吻が頭部先端にあって口がその後ろにあるものと、口と吻口が一緒になって頭部先端にあるものがいます。トップのイラストのものは多分、吻口が頭部先端に、口が頭部先端からやや後ろの腹部にそれぞれ開口するタイプ。

 また、ヒモムシには体腔がありません。体腔というのは乱暴にいうと例えば皮膚/筋肉組織と内臓の間にあるすきまのことですね。人間や魚のような脊椎動物には体腔があります。だから魚をひらきにすると内臓をそのまま抜くことができる。体腔があると内臓と筋肉がそれぞれ別々に動作できるので、その点で便利であるという説明がなされています。かたやヒモムシには体腔がないので内臓だけを抜くということがしにくい動物で、解剖がしにくいらしい。ほとんどソーセージ状態。

 

 紐形動物の系統: 

 紐形動物は見た目の類似から扁形動物に近いといわれていました。例えば北村が持っている古い文献「系統動物学 第一巻」大島廣 岡田彌一郎 監修 昭和18年 養賢堂、では紐形動物は扁形動物の一グループとして扱われています。ただ環形動物と共通する特徴もあるので環形動物に近いという意見もあったらしい。最近の文献に眼を通していないのですが、例えば上島励 1996 後生動物の系統をみなおす 「科学 」vol66,no4,1996 でも紐形動物は環形動物や軟体動物などがつくる系統群に入ってくることが示されています(現時点ではこのコンテンツ自体はアドレスの上ではロフォトロコゾアの中にはいれていませんが・・・)。

 一方、紐形動物内部の系統は寡聞にしてよく分かりません。以下では一般的であろう分類体系をあげておきます。

__無針鋼

  |__原始紐虫目

  |__古紐虫目

  |__異紐虫目

__有針鋼

  |__針紐虫目

     |__多針紐虫亜目

     |__単針紐虫亜目

     |__蛭紐虫亜目

 

 次ぎはやまださんが持っている標本を北村がスケッチして許可を得て掲載したもの。左はオロチヒモムシ(Cerebratulus marginatus )と思われるもの。吻口らしき穴が頭部の先端に、縦に裂けたような形の口がやや後方にあることに注意。大きさは20ミリ以上。

 右側はValensiniidaeと思われるヒモムシ。大きさは4ミリ程度です。腹部から見た方は口があるのが分かりますね。

  

 

 

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