「ティラノサウルス全百科」における復元について:

 今回の本では様々な動物の骨格、外骨格、復元図、マンガが描かれていますが、それぞれそれなりなコンセプトがあります。もちろん限界もあります。このコンテンツはそれらのことに関する説明を行います。

 

 ティラノサウルスの復元の基本的な考え:

今回の本のティラノサウルスの復元についてですが、以下のような事柄を基本的に踏まえています。

 :巨大な動物である

 :巨大であるので運動に制限をうける

 :コエルロサウリアである

 :最節約に推論するに羽毛を持っているか、少なくとも羽毛を持つ祖先から進化した

 :ナノティランヌス(本書ではナノティラヌスと表記)など幾つかの標本から成長の過程がある程度わかっている

本文やマンガで見られる復元は以上、こうしたことを踏まえています。

 

 皮膚と外見:

 大人と子供では羽毛のはえ方が違う。また外見も違う。運動も違う。大人は巨大なのでゾウのように断熱器官を二次的に失っているでしょう。ゾウなら体毛ですが、ティラノサウルスはコエルロサウリア。ですから羽毛を失っていると想定しています。ティラノサウルスが恒温動物なのか、変温動物なのか?、その答えは現在のところだしようがありませんが、いずれにせよ当時の地球は暑い惑星でしたから、少なくとも大人は羽毛をもっていない、と考えるのが妥当でしょう。

 ゾウは体毛のない(あるいは少ない、あるいは体毛が皮膚をおおっていない)哺乳類ですが、その様子は基本的に体毛のない小さな哺乳類、例えばヌードマウスやメキシカン・ヘアレス・ドッグ、スフィンクス、あるいは体毛のないモルモットに似ています。これから考えるとティラノサウルスは類縁が比較的近い鳥から羽毛をなくしたような姿をしているのでしょう。いってみればばかでかい鳥のひな、特に羽毛が生えそろわない種類のひなだと考えればいいのでしょう。ある意味、かなりキモイ動物(とはいえゾウ程度という意味で)だったかもしれません。

 

 歯は見えません:

 今回のティラノサウルス、あるいは肉食恐竜の復元画を見れば分かりますが、少なくとも口を閉じると歯が見えないように描いています。じつは口を閉じても歯が見える動物ってそんなにいません。歯が見えているワニはそもそもクチビルがないも同然だし、ライオンの口から牙が見えている時もありますが、肉食恐竜の歯は頭骨の比率から考えてライオンほど長くはありません。ですから肉食恐竜が生きていた時には、歯は唇でかくれて見えないでしょう。

 トカゲのバシリスクの顔の皮を死んでからはぎとったことがありますが、一般的な肉食恐竜の復元画ってちょうどあんな感じなんですよね。ようするに歯をむき出した恐竜のイラストとは、生きている生物というよりはむしろ皮をはぎとられた死体というわけ。そんなものが映画で動けば、わおう!!、死体が走ってる!!、という感じ。

 今回のイラストでは恐竜が生きていると想定して描かれています。ですから歯は見えません。

 ちなみに、恐竜の復元画の要領でコモドドラゴンとかオオトケゲの仲間を頭骨(右画像を参考)から描くとそれはそれは大変なことになること受け合い。鼻の穴は頭の上に開き、歯はむき出し、目玉はぎょろぎょろの化け物になること疑いない。でも生きているコモドドラゴンとかって、実際には唇とかが厚くついていて、全体的にまるっこいぽけーっとした顔しているんですよね。もちろん、歯はでておりません。

 

 運動に関して:

 巨大な動物なのでひざはあまりあがらない。速く移動するにしてもはや歩きのような感じであるとしています。もちろん関節が曲がらないわけではなく、負担が大きいのであげないという想定。これは現在のゾウを見ても分かります。彼らも歩く時、ヒザやカカトをそれほど上げません。もちろん、こうした関節が曲がらないわけではない。それはゾウが泳ぐ時や、作業をしているゾウをみれば分かる。ようするに巨大で運動の負担が大きいので制限があるんでしょう。小さな動物と大きな動物とでは運動のスタイルや姿勢に劇的な違いがあります。そもそも私たちだってひざを腰まであげて歩いたりしない。

 また幾つかの論文、研究にあるように成長しきった巨大サイズのティラノサウルスは走れなかったと想定しています。

 

 習性について:

 ティラノサウルスが単独で描写されている理由は本書のQ&Aに書いた通り。またこの動物が捕食者、つまりプレデターなのか、あるいは死肉をあさるスカベンジャーなのか?、についても本書で答えた通りです。まあ、ああいうサイズの地上動物が純粋なスカベンジャーであったというのは非現実的な過程でしょうね。そもそもそんな動物、今、いないし。たまたまいないと考えるのか?、それともそんなことがそもそも無理だからいないのか?。

 非常に単純に考えるに、死体だけをあさって生きるためには移動して失うカロリーを補充できる以上に死体を手に入れなくてはいけない。ハゲタカやシデムシがいても、死体だけをあさる大型肉食動物がいないというのは示唆的です。

 

 トリケラトプスの生態:

 獲物になったトリケラトプスでは群れの描写はひかえました。彼らが群れを作ったとか、また集団で移動したという積極的な証拠はどうも見当たらないので今回はしなかった次第。

 ボーンベッドといってああいう角竜の化石がたくさん密集してでてくる場所もあります。これはトリケラトプスの仲間が群れでいた証拠だ、とか、川を渡ろうとして集団でおぼれた、という解釈もありますが、群れでなくてもああいう化石はできうるし、群れであっても、一斉に死ななければそういうボーンベッドができないか?というとそうでもない。そういうわけで将来的にはともかくとして、今回、ボーンベッドは直接群れの証拠にはならないとしました。いずれにせよ、一斉に死んだにしては骨がばらばらではなかろうか?。

 後、この手の話ではダーウィンのビーグル号航海記に面白いエピソードが紹介されています。

 

 走るか開けるかどっちかにしろ!!:

 肉食恐竜の復元イラストでよくあるのが口を開けて、ガオ〜〜っと走っている図。でも経験的にいうと、こういうイラストなにか変。考えてみればライオンが口を開けて獲物を追いかけている場面なんて見たことない。ネコもそうだし、テレビで見るオオカミもみんなそう。コモドオオトカゲもそうらしい。というか普通、口を開けるのは噛み付く寸前ですよねえ。

 イラストレーターの菅谷さん曰く、

 走るか開けるかどっちかにしろ。

ああ、それは言えている。その割に北村の描いた恐竜のイラストの何枚かは、中途半端に歩き、中途半端に口を開けている。まあそれは今回は御愛嬌ということで・・・・。わざとやったのかって?

 はい、わざとです。

菅:ちょっと待て。じゃあ、あんたのいってる科学ってなんなんだ?

北:復元画は科学じゃねー!!。だからかまわんのじゃあ。

菅:言ってることおかしいぞ。人のこと笑えるのか?

北:オレは笑ってない、評価しないだけだ

菅:なに言ってるんだ、あんたー!!

 ↑今回、北村くんと菅谷くんの間でかわされたやりとり。おーむねこんな。

 

 森の描写:

 これは国立科学博物館の展示を参考にしました、白亜紀末期の気候変化もほぼ同様に参考にしました。人によるとこうした描写や、白亜紀末期まで恐竜が繁栄していた、という描写は目新しいように感じるかもしれませんが、これは何年も前から研究者の成果として展示されていたもので、いまや手堅い仮説であると考えていいでしょう。

 白亜紀末期の大量絶滅に、インドの噴火は別に影響を与えなかったみたいです。植物化石も有孔虫も、アンモナイトもみんなそういう結果を示している。最近では恐竜からもそういう証拠がちゃんと出てきたというだけの話。それはずいぶん前から国立科学博物館に展示されている通り。

 

 アンモナイトはいずこ?:

 アメリカ中央部にひろがっていた当時の海の描写がみょうに単調なのは、この海の独特な環境のせい。ああいう海なんですね。環境と時代を考えると海藻もサンゴもなんにも描けない。中生代の海なのにアンモナイトがマンガにでてこない理由は本文に書いたことを見れば、まあわかるでしょう。あと、首長竜やモササウルスがアンモナイトを食べたという積極的な証拠はほぼ皆無です。1例だけあるという話を聞いたことがありますが、どうもイレギュラーな例であるらしい。モササウルスがアンモナイトくんをかじった痕という有名な化石がありますが、あれに関してはかなり痛い突っ込みがはいっています。

 中生代なのにアンモナイトが見当たらないなんて・・という人もいるかもしれませんが、でも実際にこんなものらしい。もちろんいないわけではなくて、ああいう環境には住んでいない、というわけ。もし私たちが中生代の海にいって泳いでもアンモナイトとは出会えないらしい。いっぱいいるのにね^^)。ニオブララ海にいってもジェレツキテスくんには出会えない。

 それと、アンモナイトの復元、どうも残された化石からするとああいう姿にならない可能性があります。じつは一部の器官が理解しがたいプロポーションをしているので、復元するとかなりチンチクリンな姿になってしまう。今回はスタンダードな復元でいきましたが、実際のところはいまひとつ。というか、どう復元すればいいのだ?、あれ。

 

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 追記:

 恐竜の復元画と呼ばれているものは、実際にはイメージイラストですね。

復元というのはああいうイメージイラストではなくて、むしろ、

 骨格を組み上げる

 それ以前にこの骨はどこのなんの骨だ??、という問題を解決して全体の概要を推定する

という作業のことでしょう。

 だからといってイラストを復元などと呼ぶな!!と過激な主張をするつもりは北村にはありません。しかしながらイラストとは、こういった復元や推定よりもいかがわしい部分が多いのはまったくの事実。

 実際、多くの人が恐竜の復元イラストは科学と芸術の中間であるといってきた。これは、はからずもイメージイラストには科学ではない、いかがわしい部分があることを自白している。つまるところ、まともな推論によって組み上げられたものに、なにか得体のしれないものが塗り込められたもの、それが復元画ですね。

 とはいえ、これはやもえないことです。たんてきにいえば、恐竜の復元画(イメージイラスト)とはグラビアアイドルの水着写真のようなもので、掲載された媒体の宣伝や売り上げを上げる作用があるのでしょう。逆にいえば媒体の内容、たとえば文章や記事の妥当性とイラストの妥当性まったく関係ありません。ただしそれだからこそ本の重要な要素ではあるのでしょうね(さもなければ馬鹿みたいに水着写真やあるいは恐竜イラストがさまざまな媒体にそれぞれ載るわけがない)。

 

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