オンケルツ歌集――その4(G〜I)(高橋秀寿訳)
「やあ、おまえたち、嘘つきよ――俺が誰のことを言っているかおまえたちはすでに知っているね/メディアのことさ――小さいのも、大きいのも/俺たちはおまえたちにとって十分調子のよいものではなかった/おまえたちは俺たちのことを理解することができない
おまえたちなしで十年が過ぎた、次の十年!/10年――同じ糞/10年――古い歌/10年――そしてまったく賢くない10年/10年――オンケルツ、彼/女らを憎み、愛したように
やつらのおしゃべりに耳を貸すな、やつらのウソを信じるな/自分自身を欺いている糞でいっぱいの脳みそ/やつらはそれを試みているが、一度も成功していない/やつらのウソは俺たちの力だ」
※ここでも激しいメディア批判。しかし「やつらのウソは俺たちの力だ」とそれが彼らのエネルギーになっていることを認めている。
「俺たちは若く、プライドを持っていた、失うものがなかった/はじめての入れ墨、はじめて頭を剃った/俺たちは放埓な少年だった、学ぶことが多かった/よく失敗した、星をつかもうとしたときには
俺たちは放埓な若者だ、失うものはない/すべてか、無かを俺たちは望んでいた、そしてマナーが悪い/俺たちは毎日、それが最後であるかのように生きている/俺たちは国民の恐怖だ、だがこれは難しいことではない
肉体の中の悪魔で、強引に意図を達成しようとして/汚い歌で、俺たちは国を傷める/ヨハネスが酒を飲むまでは、ヘルムートがこの歌を合唱するまでは/ヨハネスが酒を飲むまでは、ヘルムートがこの歌を合唱するまでは」
※自分のかつてを回想しながら、相変わらず自ら悪のイメージを保持しつづけている。
「おまえが見ることができるものをじっくり見ろ/おまえは満足しているかい、それともそれが起きると信じているかい
人生はゲーム、おまえは勝ったり、負けたりできる/おまえはただ陰に隠れているつもりなのか、危険を冒そうとしないのか?
涙を流すな、おまえはそれを手にしている/生き始めろ、規則なんて糞食らえだ、おまえの理性を利用しろ」
※オンケルツの「人生観」。人生はゲームだが、社会のルールには従おうとはしない。
「おいで、苦しもう、夢見に行こう/漂流しよう、俺は黒いものを見たい、俺は黒いものを見たい
俺は苦しみたい、俺は苦しみたい/漂流しよう、俺は苦しみたい!
俺たちは秒の中の時間を生きる、不安は俺たちにとってなじみだ/俺たちはトラックを孤独にぐるぐる回る、夜は俺たちの許婚、夜は俺たちの許婚
俺は苦しみたい、俺は苦しみたい/漂流しよう、俺は苦しみたい!
おいで、苦しもう、夢見に行こう/漂流しよう、俺は黒いものを見たい、俺は黒いものを見たい
俺は苦しみたい、俺は苦しみたい/漂流しよう、俺は苦しみたい!」
※かなり自虐的だ。「俺たちは秒の中の時間を生きる」とは面白い時間表現だ。
「新しい日が始まる、意味を求めて/俺の生の意味を、でも俺はそれを見つけることができない/それは素敵なことだったのだろうか? これで終わりなのか?/そのあと何がやってくるんだろう それはいつ過ぎ去るんだろう?/誰が答えを知っているんだろう、この疑問に
日々が過ぎ去り、何も起こらない/何も起こらず、いらだつ俺の脳のしわの中で/俺の魂の角で/
ふたたび一日を無駄に過ごして/ふたたび一日を無駄に過ごして
日々が過ぎ去り、何も起こらない/何も起こらず、いらだつ
俺の脳のしわの中で/俺の魂の角で
俺は夜中中酒をあおり、記憶をなくすまで酔っ払い/よくねらいをつけたが、当たらなかった/どうして間抜けになるのかを俺は知っている
ふたたび一日を無駄に過ごして/ふたたび一日を無駄に過ごして」
※オンケルツはここで「意味喪失」を歌う。スキンヘッド界という共同体からの離脱による虚無感が表現
「俺は記憶の本の中で読む、俺の笑い声を聞く/俺の人生はメルヘンだった、愚か者によって語られた/自分が何を望んでいるのか、いつも知っていたわけではなかった、でもどのようにしてそれを得るのかは知っていた/気楽にやってきた、つらいときでも、そこに定まった、新しい目的を定めた
しばしば俺の人生はゲームのようなものだった/目的地のない長旅のようなものだった/俺であることの探求/探求、意味の探求
俺の人生は本だった、俺はそれをただ書かなければならなかったのだ/俺はすべてを望むか、何も望まないかだった、俺は決定しなければならなかったんだ/人生は答えであり、俺は多くの問いを立てた/そしてこの永遠の秘密は限りなく多くの言うことをもっている
しばしば俺の人生はゲームのようなものだった/目的地のない長旅のようなものだった/俺であることの探求/探求、意味の探求」
※「意味喪失」のオンケルツは「記憶の本」を読み、意味の探求を行う。
「この歌が聞こえるか?/ベーゼ・オンケルツ、くり返す/この歌は俺の人生の一部だ
俺の一部だ/おまえのための歌だ、俺はこの歌をおまえに贈る/俺はそれ以上のものをおまえに与えることはできない
おまえは本当に知っているのかい、俺が誰で、いかに考え、いかに感じているのかを?/おまえが俺を愛しているのは、俺がそうだからなのか、それとも俺がおまえにウソをついているからなのか?
俺はおまえの中にいる、おまえはどこに行くのだ/だがおまえも、俺が見ているものを見ているのかい?
俺は自分を見つめ、自問する/俺は自分を見つめ、自問する、「なぜ」/なぜ俺は俺であるのか?/なぜ俺は悲しいときに笑うのか?/俺は見ることができるのか、それとも盲目なのか?/俺は自分の問いかけに答えを探す/絵はこの考えを描くが、俺は額を見つけていない/風は俺に語りかけ、俺に幸福を願い、俺の名前をささやく
俺はおまえの中にいる、おまえはどこに行くのだ/だがおまえも、俺が見ているものを見ているのかい?
俺は合図を待っている/俺はおまえの合図を待っている/俺は俺の問いかけの答えを望んでいる」
※「意味探求」の中での、自分が自分であることを、「他者」への問いかけのなかで捜し求めている。
「俺は存在していないものを探している/俺は無のあるところに聞きに行き、俺は獲得したい、失いたくない/俺は知らないものを信じる、今(Moment)を、自由の飛翔を信じる/それは静かにちょっとより以上のものであってよい、多すぎることは十分ではないから
今(Moment)だけに価値がある、今(Augenblick)に/前を見ろ、振り向くな
新しい日、新しい幸福/前を見ろ、振り向くな/昨日、今日はまだ明日だったから/価値があるのは今(Augenblick)だけだ/昨日、今日はまだ明日だったから
俺はもう不安はない、痛みを知らない/俺は忘却のコートをきる、心に傷跡を背負う
空虚が記憶で満たされる/どうして、なぜと俺はもうおまえに尋ねない
今(Moment)だけに価値がある、今(Augenblick)に/前を見ろ、振り向くな」
※オンケルツの基本的な時間感覚が表現。現在志向であるが、過去を見つめることによって、未来志向になりえている。
「不安から逃避して、自我から逃避しは/奈落から、無へ深く落ちていくことから逃避して、/感情から、知性の中の影から/毒々しい思考からの逃避して、おまえは何も認識しなかった
おまえをもてあそんでいるのは不安、不安なんだ/おまえを支配し、おまえに命令しているのは不安なんだ
俺はおまえに言う、不安は感情にすぎない/でっち上げ、だまし、混乱し、欺く不安
それは不安だ/おまえをもてあそんでいるのは不安なんだ。でも不安は感情にすぎない
おまえは自分の生に不安があるのか?/暗闇に不安があるのか?/朝を恐れているのか?/喧嘩に不安があるのか?/自分の愛に不安があるのか?/自分の心に不安があるのか?/そのときは自分が愛するものを殺せ、おまえの痛みを消せ!
おまえをもてあそんでいるのは不安、不安なんだ/おまえを支配し、おまえに命令しているのは不安なんだ/痛みは感情にすぎない/それはでっち上げ、だまし、混乱し、欺く/おまえをもてあそんでいるのは痛み、痛み、痛みなんだ/でも痛みは感情にすぎない」
※「不安」の意味を歌う。
「俺の名は懐疑、渇望、虚偽/俺はおまえの中にもいる/俺がどのように楽しんでいるのか見てごらん/俺はおまえたちの意志を、頭蓋骨を、信念を砕く/俺は人間の最悪の夢/おまえの目の中の不安
愚鈍な頭、乏しい精神/何も知らない暗い魂/ウソだらけ、妬みだらけ/俺はおまえにうんざりだ/かわいそうなやつだ
万事うまくいっている、すべてがよくなっている/俺たちが自分の血で歴史を書く/俺たちが歴史を書く、名誉だと思えよ/俺たちが歴史を書く、悪魔の作品を
権力への、憎悪への、暴力への意志は/おれの魂を生きかえさせる/俺の肉体に形を与える/鏡の中を見てみろ/それはむかつくかい/俺はおまえの中にもいる/おまえが見ているものを信じなさい
愚鈍な頭、乏しい精神/何も知らない暗い魂/ウソだらけ、妬みだらけ/俺はおまえにうんざりだ/かわいそうなやつだ
万事うまくいっている、すべてがよくなっている/俺たちが自分の血で歴史を書く/俺たちが歴史を書く、名誉だと思えよ/俺たちが歴史を書く、悪魔の作品を」
※オンケルツの歌の中でもっとも興味深いものの一つ。道徳に刃向かうだけでなく、歴史も自己のものにしようとする。
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