[心、怒る

                                   怒
                                       @いかる。おこる。
                                    Aいかり。
                                    Bいからせる。
                                    Cあれくるう。げきする。
                                    Dいきおい。
                                    Eつきでる
                                             (角川 大字源より)


 怒−前口上

70才になったら医療費無料になると信じ
仕事に就いた若い時があった。
百年安心の年金制度を信じ
己の老後に安んじていた頃があった。
だが政治家は勝手な理由つけ反古にしていった。
凡庸な政治家もいるものだと
現役の頃には寛容であったが
年金生活後の消費税UPの際に
政治家自身も身を切る覚悟が必要と
議員定数削減できるまでは歳費一部をカットしたのに
削減できないままに歳費を元に戻してしまった。
テレビの前での党首の約束信じた視聴者の中に
政治家は大言壮語する嘘つきだったのかと
突き出る感情押さえきれなくなった私がいた。


 怒@

久しぶりに入院生活送った。
地方小都市の総合病院である。
大病煩った時にお世話になったので懐かしかった。
検査入院なので周りを見る余裕があった。
が、来てみて驚いた。
5年前は病室が満員だったのに
この時はどこでも半分以下。
産科を始め小児科もなくなっていた。
聞けば医者が集まらず
病院も縮小計画にあるという。
何故医者が来ないのか。
医者という個人の品格の問題か。
医者を養育し生み出すシステムの問題か。
過疎地の人間として腹立たしさ覚えた最初だった。


 怒A

私の住む過疎地には医者がいなかった。
己が病気持ちといこともあり
地域医療守るシンポジウムを知って参加した。
医療崩壊の声かまびすしい中で
何とかしようと立ちあがったNPOの企画であった。
医療関係者も参加していた。
ご多分に漏れず議員や行政マンも参加していた。
医療技術は進歩したのに
医療行政が破綻しているこの日本で
地域医療に携わる人たちの犠牲的精神に甘えて
コンビニ受診する住民の意識も問題ありとの話は
ある部分では説得的であったが
過疎地をおそう日本の医療制度のあり方に
言いしれぬ怒りを覚えたのも事実だった。


 怒B

学校で生徒が生徒に暴力振るえば遊び。
家庭で親が子供に暴力振るえば躾け。
スポーツで先輩が後輩に暴力振るえば扱き。
美しい日本語に唯一腹立たしいのは
このように言葉を言い換えて糊塗できること。
腕力持ち権力持つ者に人を思いやる気持ちあれば
暴力振るっておいて遊びとは言わないだろう。
躾けとも扱きとも言わないだろう。
暴力振るっても平然と遊びと言える神経。
又平然と躾けとか扱きとか言える神経。
この神経が生まれたのは
自分を利し守るためなら何してもよいとする
戦後民主主義教育のもたらす
権利意識のもたらす以外の何ものでもなかった。


 怒C

自分が排出したゴミの焼却施設でさえ
自分の家の近くに建てられるのはご免と
怒り狂う日本国民が多くなる中で
最低でも県外といった民主党政権下の元首相の願いも
受け入れる他県とてなく思いつきの戯言とされ
震災後のがれき処理の受け入れ先でさえ
「きずな」を喧伝する割には殆どの県にはなく
かくて総論賛成各論反対の手法で
見事に自己の権利を主張できるようになった日本の国民。
個々の言い分はそれなりにあるのだろうが
羮に懲りて膾を吹くのたとえで
滅私奉公の日本はご免との反動の怒りが
国は何しているのだとあてにするだけの
亡国的で自己中の民を生んだ。


 怒D

年収二百万円にも及ばぬ非正規労働者が
今の世の中ごまんといるのに
大きな組織の正社員や労働組合員、それにお役人や政治家が
表面では貧しい庶民の味方のポーズ取りながら
ビシッとしたスーツ着こなして
口舌垂れているのを見ると無性に腹が立ってくる。
こうしたエリート達は自らの才能と覇気誇示して
今のぬくぬくとした環境にあるのは当然と思っている。
貧しいのは個人の資質に問題があるとの理由付けは
20世紀になって否定されたはずなのに
21世紀になって頭をもたげてきたのは
弱肉強食の格差社会になったからなのか。
テレビや新聞で正義の味方よろしく語っているのは
強者による強者のためのサロン話でしかないのある。


 怒E

働く者の権利を守る組織の労働組合。
今になって思えばこの組織
同じ働く者の仲間でありながら
派遣社員やパートや非常勤といった非正規雇用者を
これまで真剣に考えて来なかったばかりか
時には経営者張りの敵対行為も取ってきた。
今や正規雇用者の集まりの労働組合は
間違いなくも権力者の側。
完全に無権力の非正規雇用者の上に胡座をかきながら
そのくせ労働者の権利だのと昔ながらの怒声を張り上げる。
民間ならばそれでも会社が潰れれば
非正規雇用者同様に解雇されれもするが
煮ても焼いても食えなくなっているのは
破廉恥罪以外には絶対に解雇されないお役人の労働組合だ。


 怒F

このごろ見るに耐えられず怒りたくなるのは
マスコミ特にテレビの非常識。
その中でもとりわけワイドショー番組。
おどろおどろしい言いっぷり。
ただ人から聞いただけの話を
まるで自分で調べてきたような言いっぷり。
素人でも出来るようなコメンテーターの発言。
思い違いかわざとか知らないけれども
多くなった間違った報道。
それをこともなげに訂正して糊塗する態度。
これは出演者の問題というより
テレビ企画する側の資質の問題だろう。
初めの頃は無批判に視ていたが
次第に非難するようになってきた。


 怒G

東日本大地震がもたらした原発事故。
政府や企業が作った安全神話がこれほど
メッキ剥げたように崩れるとは思わなかった。
それをメディアによって知らされたのは感謝する。
が、日頃あれほど事実を伝えること唱いながら
待ちの姿勢で権威筋の与えた情報を
そのまま伝えたのには腹が立った。
事実を伝えること大事というのなら
時には危険を顧みずに行わなければならないのに
常に安全地帯の中からの報道だった。
だから本当に事実が伝えられたのは
やはり大分後になってからだった。
日本のメディアもお上頼りでしかなかったのかと
怒りたくなるような原発事故報道だった。


 怒H

結局は官僚の台本通りと評判の民主党政権下で
初の大臣任命ではしゃいで滑ってしまったところの
名前の記憶すら薄れた大臣の
被災民ないがしろにした「放射能云々」の発言。
その発言の趣旨を少しの確かめることもなく
人づての言葉をさも事実であるかの記事にして
その大臣の馘に導いたマスコミもマスコミだ。
政治家の存在の軽さは自明のこととして
マスコミによる正義の仮面つけた独善の押しつけも
権力側の情報提供を鵜呑みにするようになってからは
怒りっぽくなったせいか鼻についてきた。
精査ないまま情報とって世の鑑み僭称する傲慢さは
一昔前の権力を糺す姿勢のかけらも見いだせず
人の怒りを買うほどまでにに堕落している。


 怒I

私がマスコミに怒り覚えるようになった原点は
戦時中あれほど戦意高揚したのに
戦後はアメリカ軍に対して手のひら返したことにあった。
鬼畜米英が突如アメリカ様々になったのである。
進駐軍の横暴にに対してペンでも軟弱だった。
怒り決定的にした最適の例は西山事件。
沖縄返還で秘密の確約があったことを暴いた記者に対して
マスコミは命を賭して支持しなかった。
権力による個人的な問題へのすり替えだけに食いつき
真実に迫ろうとする努力を意図的に怠った。
大きな権力の前では従順で
小さな権力に対しては安全地帯で煽るマスコミとなっていた。
今でもいかにも正義ぶって反権力のポーズ見せるが
その体質はずうっと変わってはいない。


 怒J

第2次世界大戦で原爆落とされ都市空爆されて
完膚無きまでにアメリカに打ちのめされた日本は
今日に至るまでアメリカに怒ることが出来なかった。
日本は形の上では民主主義の独立国家であったが
実質はアメリカの50番目の州だった。
治外法権の基地を維持管理費付きで提供し
アメリカの忠実な番犬役を果たしてきたのは
霞ヶ関の官僚とメディアであった。
口では日本国家のため、社会正義のためと
いつものお題目唱えるが
実際はアメリカから情報を提供してもらっていた。
そのくせ己の権力の保持にはなぜか熱心だった。
アメリカの意向に逆らい怒る日本国民の何人も
官僚とメディアのリークや世論操作で潰されていった。


 怒K

第四の権力であるマスメディア。
そこに従事する人や組織が
権力者にふさわしい倫理性や見識持っているとは
少なくとも今の日本では考えにくい。
元々権力を持っているとの自覚がないのか
それとも視聴率や購買量第一主義の経営感覚に
毒されてしまったからなのか
無責任と思える記事や報道が多くなった。
批判精神はあけ足取りだけの顔のないものになっているし
公共精神は自社や自利のためには捨てるを恥としない。
その上に世論導くはわれらばかりと勢い盛んに
受け手馬鹿にした報道を性懲りもなく繰り返している。
このマスメディアの独りよがりは「従軍慰安婦」の誤報で
おおかたの日本人の怒りを頂点に導いた。


 怒L

国が加担している出来事は
なかなかに犯罪行為とは認定されない。
個人的次元で起こした出来事は
過失でも社会に迷惑をかけたということで
犯罪行為として認定され罰を受ける。
時には何もしないのに冤罪まで負わされる。
今回の福島原発事故。
個人には情報が閉ざされ虚偽報告される、
個人の体が将来にわたって傷つけられる、
個人の住まいが強制的に移動させられ違反すれば罰を受ける、
それで個人の収入源絶たれ生活への不安は絶大である。
だのにその原因作った組織や人間の行為が
犯罪であるとの憤怒に突き出た発信がないのは
いったいどうしてなのか。


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