悪その九 人支配する者





                        口上 働く者に貧乏なし
                      @ 物は言いよう
                      A 彼の声で蜥蜴食らうか時鳥
                      B 武士は戦略坊主は方便
                      C 政を為すは猶沐するがごとし
                      D 魚心あれば水心
                      E 大木の下に小木育つ
                      F 小股取られても勝つが本
                      G 頭の濡れぬ思案
                      H 目的のためには手段を選ばず
                      I 腕を喰うて口を肥やす
                      J 世の中は相持ち
                      K 馬鹿に兵法無し
                      L ごまめの歯ぎしり



  口上 働く者に貧乏なし


  我輩の夢は政治家になることだったんじゃ。
  人のため社会のため国のために尽くしたいと心底思ったんじゃ。
  政治家になるにはどうすればよかったか。
  昔は知恵ある人が政治家になると言われたもんじゃ。
  その知恵は我輩にはなかった。
  昔は名門の人がなったもんじゃ。
  その貴い血は我輩には流れておらなんだ。
  幸いだったのは今が自由主義の世の中であったことじゃ。
  下賎の者でも金さえあれば何でも出来たんじゃ。
  我輩は政治家になるために必死に稼いだもんじゃ。
  そして我輩はその稼いだ金でとうとう政治家になったんじゃ。
  これで人のため社会のため国のために尽くせると思ったんじゃ。
  それで裸になってもよいと思っていたんじゃ。
  ところが何と我輩はますます稼ぐこととなったんじゃ。



  @ 物は言いよう

  そりゃあ何と言ったって
  命令されるよりは命令する方がよいわなさ。
  人が人に命令するってことが
  どれだけ快感与えることか。
  ところが民主主義の世の中では
  相手の同意なしにはなかなか命令できないんだね。
  金で動かせる場合は簡単だが
  問題なのはそうでない朴念仁の場合さ。
  言いくるめるってのが大変なんだね。
  言葉を選び選び
  しかも相手の欲心かきたてかきたて言いくるめていく。
  おかげで言葉の魔術師にでもなったような気分だが
  どっこい手におえないのがいたね。
  それがあの「官僚」っていう奴さね。



  A 彼の声で蜥蜴食らうか時鳥  2011/10/1に再掲

  大局観なければ世界の政治家になれない。
  社会正義観なければ世界の政治家になれない。
  時代の流れつかめなければ世界の政治家になれない。
  国際感覚なければ世界の政治家になれない。
  まあそれは夢としても
  奉仕の気持ちなければ並の政治家にもなれない。
  誠実さなければ並の政治家にもなれない。
  決断力なければ並の政治家にもなれない。
  庶民の声に耳傾けなければ並の政治家にもなれない。
  ところがどこでどう間違えたのか知らないが
  金儲けうまくなければ政治家になれないし
  官僚に従わなければ政治家になれないし
  どこかの利益代表できなければ政治家になれないし
  公約に拘っては政治家になれないのだ。



  B 武士は戦略坊主は方便

  例えば徳に拘る先生なら
  不正入試に加担してばれたら
  資格を問われてすぐ辞めさせられる。
  例えば真実拘る研究者なら
  データを改ざんしてばれたら
  資格を問われてすぐ辞めさせられる。
  このようにおよそ職業持つ者には
  「絶対してはならない」ことが必ずある。
  ところが政治家だけは方便あって
  資格は色々あったとしても
  「絶対してはならない」ことなんてない。
  嘘つくもよし金集めるもよし
  すべて民のため国のためと申し開きをすれば許される。
  それが政治というものなのだから。



  C 政を為すは猶沐するがごとし

  人と人との集まりが
  単に烏合の衆でなく
  組織なる立派な仕組みで維持されてるために
  すべての人を満足させるわけにはいかないよ。
  いくら民主主義の世の中でも
  組織の中で生きてる限り
  組織の存亡大事とされて
  そのため犠牲者出るのもやむをえないだろうよ。
  そうなると事為す人と事為さざる人との間には
  決定的な違いがなければならないよ。
  「勇気」と「決断力」と「非情さ」
  それが組織を治める人には不可欠の資質なのよ。
  「公平さ」なんてものは
  結局組織を治められない人の戯れ言にすぎないのよ。



  D 魚心あれば水心

  確かに世の中便利になった。
  人が連絡取ろうと思い
  文書にすればファックスあるし
  口頭にすれば電話がある。
  いくら道理通る世の中でも
  人にものを頼むのに
  手紙一つで済ませたり
  電話一本でけりつけさせてよいものか。
  人の心が動くには
  やはり熱意と誠意が大切だ。
  手紙や電話の奴よりはまずは挨拶しにくる者に
  手ぶらで頼む奴よりも菓子箱手挟み日参する者に
  用件陳述する奴よりも手をつき陳情する者に
  話を聞いてやるのが筋と言うものだ。



  E 大木の下に小木育つ

  人とは祭の好きな動物だ。
  やがて祭は政治となって
  まじめな世界で生きだした。
  ところで人は一人で住めぬ。
  徒党をなして群れたがり
  民のためとは名ばかりの
  人を治める味しめた。
  小さな力で角だすよりも
  大きな力の木の下で
  得することが多いと知れば
  たとえ陣笠かぶっても
  文句の一つも言ってはならぬ。
  そんな政治家なればこそ
  儲けつつええ恰好もできるのだ。



  F 小股取られても勝つが本

  政治家になるにはどうしたらよいか。
  政治家は経済に精通してなければなれない。
  政治家は人の心理が分かってなければなれない。
  政治家は高いビジョンを持ってなければなれない。
  政治家は教養あふれてなければなれない。
  政治家は清廉潔白でなければなれない。
  だがこれだけの資質を備えていても
  政治家にはなれないのが今の世だ。
  「選挙」なる妖怪相手に取らなきゃならない。
  そんな「選挙」に勝つためにゃ
  運動しなければならない。
  自己ピーアールしなければならない。
  従って「選挙」に勝つには
  己の本当の資質を裏切らなければならない。



  G 頭の濡れぬ思案

  本当は高所大局の立場に立って
  お国のために尽くしたかったんだ。
  そのためには勉強もした。
  外国との交渉もよくやった。
  すべての人に等しく幸せになるように政策も考えた。
  それで新聞にも載るくらいの活躍もできた。
  ところが地元の人達は何もしてないと怒っている。
  そう言えば地元の葬式に顔を出していなかった。
  地元に特急の停車駅を作る思案をしてやらなかった。
  後援会の子弟の就職の世話をしてやらなかった。
  そのせいか「あの人はお高くとまっている」と言われた。
  そして「今度の選挙には入れてやらないよ」と言われた。
  で、政治家は落選したらただの人なので
  お国のためよりも地元のために尽くそうと宗旨替えをした。



  H 目的のためには手段を選ばず

  民主主義の世の中と
  言われるからには仕方がない。
  とにかく議員となって威張るには
  選挙と言う名の洗礼を
  受けねばならない以上には
  何が何でも勝たねばならぬ。
  見知らぬ民には握手で熱意を示そう。
  情にもろい民には泣いても見せよう。
  たかりにくる民には金で選ばせよう。
  腹が立っている民には土下座もしよう。
  そのために晒した恥など目ではない。
  そのために使った金など目ではない。
  ひとたびバッジを手にしたからは
  見返り間違いないのだから。



  I 腕を喰うて口を肥やす

  政治家はどうして嘘をよくつくかだって?
  そりゃあ大義を守りたいからよ。
  守れなきゃあ政治家のバッジが泣くよ。
  政治家はお国にお仕えしているんで
  人様にお仕えしているわけではないんだ。
  政治家も公僕だって?
  偉そうに言うんじゃないよ。
  己の欲が満たされないからと言うんで
  口とがらせ文句持ってこられちゃあ困るよ。
  政治家だって人間なんだから
  たまには欲得で動くことだってあるよ。
  だから他人様の欲に付け込んで
  あがりをかすめ取ることだって
  時にはあると言うもんだ。



  J 世の中は相持ち

  政治家は世の中のために動いているのだと
  初めから信じなければよいのだ。
  政治家は皆のために尽くしているのだと
  まっ正直に思わなければよいのだ。
  でも世の中のために働いているのだと言わなければ
  皆のために尽くしているのだと言わなければ
  人支配する者となれないことを知ってしまった以上
  ついついそう言ってしまうんだ。
  だからお溢れにあずかろうとする欲持って
  騙されるのを承知で託した政治家が
  利益をもたらしてくれれば
  心から「大政治家」と呼んでくれい。
  利益をもたらしてくれなければ
  心から「大嘘つき」と呼んでくれてもいいから。



  K 馬鹿に兵法無し

  政治とは人の幸せ導くことだけど
  所詮人を支配するのに他ならない。
  そのためには確固たる信念と強い野心がなければならぬ。
  だから大衆というものは
  無知で無能で無責任で
  その上力に弱いものだと思わなければならぬ。
  大衆の声を聞いてやっておりますと思わせるためには
  形だけの「公聴会」や「諮問委員会」を開くだけでよい。
  馬鹿な大衆が反対しているようなら
  まずは既成事実を作り
  後はなし崩しに浸透させていけばよい。
  大衆が動揺しているなら
  飴と鞭の両面作戦で迷わずつっ走っていけばよい。
  それが出来てこそ初めて優れた政治家と言われるのだ。



  L ごまめの歯ぎしり

  やれ私利私欲に走っているのだの
  やれ会議で居眠っているのだのと
  国民のみなさんやマスコミの方は言うけれど
  議員バッジというものは
  つけたくても自分勝手につけられるものではないのだ。
  選挙という有り難い洗礼を受けて初めてつけられるのだ。
  言わば咎めるみなさん方が
  もともと無知無責任であったのか
  それとも欲の夢想に走ったのか
  議員バッジをつけさせたのだ。
  それを心底恥じたと言うのなら
  この次選挙が来た時に
  入れてくれなくてもいいのだよねと
  むしろこちらの方が言いたいくらいだ。


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