悪その八 力持たぬ者
口上 浮世は回り持ち
@ 無事是名馬
A 人は見かけによらぬもの
B するは一時名は末代
C 造反有理
D 名を捨てて実を取る
E 習い性と成る
F 上を学ぶ下
G 人は悪かれ我善かれ
H 喉元過ぎれば熱さを忘れる
I 死は易うして生は難し
J 酒が沈むと言葉が浮かぶ
K 寄らば大樹の陰
L 迷えば凡夫、悟れば仏
口上 浮世は回り持ち
あっしら美しく生きようなんざぁ思っていない。
生きるってのはそんなきざなもんではないもんだ。
ささやかな夢のために
単純に人を騙し又騙され
小さなことなのに
すぐに生きるの死ぬのとわめき
たあいないもんにでも
はばからずに浮き浮きしたり沈んだりしたりする。
それが名もなく生まれ死んでいく
あっしらの生きる姿なんだ。
要するにあっしらは根っからの楽天家よ。
時にはお偉方に虐げられることもあるけんど
そんなものは気にするこたぁない。
お偉方はあっしらを虐げては悦にいる馬鹿もんだからよ。
@ 無事是名馬
組織の中のエリートが
思う様世の中動かしている気でいるんなら
そうさせとくがよいだろう。
奴らにゃ名誉もつけば金も入るその上に
下っ端をあごでこき使えるなんて
さぞや小気味がよいことだろう。
ところでどっこい下っ端は
己が無事さえあるならば
ひょいひょい組織は変われるし
その度組織の色になり
己の立場を決めずに延ばし
いつも流れに乗ることで
しぶとく生き残れるってことを
ちゃんと見抜いているんだ。
A 人は見かけによらぬもの
世の中しぶとく生きたい者に告ぐ。
学生でカンニングしなかった人はいない。
先生で嘘教えなかった人はいない。
運転手でスピード違反しなかった人はいない。
商売人で帳簿ごまかさなかった人はいない。
会社員で背任行為しなかった人はいない。
医者で必要以上に投薬しなかった人はいない。
弁護士で法律破らなかった人はいない。
作家で盗作しなかった人はいない。
政治家で公約反古にしなかった人はいない。
学者で真理否定しなかった人はいない。
故意であろうとなかろうと
こういう輩の人達は
それでも自分は「善良な」市民であると思っている。
B するは一時名は末代
虎は死に皮を残すのたとえから
人は死に名を残すのたとえが生まれ
その強迫の思いに耐えられず
無能な人でも名を残したがる。
人を導き社会に尽くし
国から勲章もらえぬのなら
するなら道に外れることをし
するなら法に触れることをして
たとえ御身が死んだとしても
悪名・汚名が残るなら
生きた証しが得られると
つい思ってしまう時がある。
いつしか罪が消えてゆき
悪人が社会の英雄になった例を思い浮かべるからである。
C 造反有理
社会的に恵まれた者が
そのおかげでのうのうと生活出来るのに
自嘲気味にこんな生活ではいけないと
ほざいたりしている。
少しもその生活から抜けでる気もないのに
そう言えば己の贅沢が
免罪されるとでも思っているのだろうか。
それでも何もしなければ造反されて
やがておっぽりだされるような地位の人なら
まあ許してもやろう。
それでも何もしないのにとがめもされず
相も変わらず威張っているような人なら
したたか打ちのめしてやりたいと願うのは
社会的に恵まれない者の当然の権利だろう。
D 名を捨てて実を取る
余りものがあれば当然全部頂戴する。
ただで恵んでくれるならなるべく高いものをもらう。
償ってくれるのなら出来るだけ高くふっかける。
そうだからと言って別段自分が貪欲だとは思っていない。
勘定書きが回ってくる頃にはさっさと退散している。
招待の宴席なら喜んで参加する。
どうしても寄付しなければならない時は出来るだけ少なくする。
それで名が落ちるのならそれでよい。
収入も少なく力もなく
それでも世間の荒波くぐり抜けていかねばならぬ庶民には
得をする機会がある場合には
それを最大限に利用して何が悪い。
損をする機会がある場合には
それを最小限に防いで何が悪い。
E 習い性と成る
最初から粗末な服を着ていたならば
それほど苦痛には思わないかもしれない。
最初からわびしい食事をしていたならば
それほどひもじくは思わないかもしれない。
最初から六畳一間のぼろアパートに住んでいたならば
それほど惨めには思わないかもしれない。
惨めさ何とか打ち払おうと
習って覚えて力がついて
やっと今の生活楽しめるのだ。
今更ぼろ服着るなんて
今更粗食に甘んじるなんて
今更わびしく住むなんて
たとえ人のため国のためと言われた時も
きっぱり断って何が悪いと言うものか。
F 上を学ぶ下
借りる時には慇懃で
貸す時には横柄なのは
何も銀行の常ではない。
その心は名もなき庶民にも宿っている。
敵にも売り
味方にも売るのは
何も兵器産業の常ではない。
その心は下々の商売人にも宿っている。
強きに弱く
弱きに強いのは
何も官僚の常ではない。
その心は善良な市民にも宿っている。
それ故義憤で身を震わせるのよりも
こういう手合いのやり方見習う心がより大切だ。
G 人は悪かれ我善かれ
デブよりもスマートな方がよい。
ネクラよりもネアカの方がよい。
仲間外れにされるよりも仲間と一緒にいる方がよい。
仲間に虐められるよりも虐める方がよい。
勉強で劣等生よりも優等生の方がよい。
駆けっこでビリになるよりも一等の方がよい。
先生から疎まれるよりもえこひいきされる方がよい。
先生から悪く言われるよりも善く言われる方がよい。
勉強押しつける親よりも遊ばせてくれる親の方がよい。
何も買ってくれない親よりも何でも買ってくれる親の方がよい。
正直にして損するよりも嘘をついて得する方がよい。
苦労して無駄に終わるよりも楽して望み得られる方がよい。
そう願うからこそ人間なのだ。
そう思うからこそ生きれるのだ。
H 喉元過ぎれば熱さを忘れる
「つい出来心でやりました。」
「思わずやってしまったのです。」
「そんなつもりはなかったのです。」
こんな言い訳出た時は
許してやるのも結構だが
それでは何もならないことを
許してやる奴ご存知か。
つい出来心だから忘れて何回もやるのです。
思わずやるから又やるのです。
そんなつもりでないから懲りずに繰り返すのです。
だから「もう二度とやりません」とほざいた時は
二度目もあるということを
こんな言い訳よくする人は
いつも知っているのです。
I 死は易うして生は難し
無能な人が年重ねれば
気になる言葉は「停年」か。
科学の進歩と言うべきか
それとも平和の恩恵受けたのか
人の寿命が総じて延びて
停年なってもあと二十年
とにかく生きていかねばならなくなった。
ところが今を生きるは難しく
命が何より尊ばれ
死ぬこと悪だと蔑まれ
したいこと出来る仕組みになってはいない。
それならば生きてて何もしないなら
死んでもいいのでないのかと
真面目に思う馬鹿が出る。
J 酒が沈むと言葉が浮かぶ
日頃は真面目で口下手なんだ。
言いたいことも言えないんだ。
酒飲んだ時ぐらい
言いたいことを言わしてくれよ。
泣いて怒って愚痴吹いて
力持たぬ者の気持ちわかってくれと
言った挙げ句に又飲んで
意識失い言葉が乱れ
人のひんしゅく買ったとしても
それはそれで十分ガス抜きされているんだ。
それで出世できなくてもいい。
それで肝臓やられるのもいい。
酒飲んだ一時だけでも人に影響与えるなら
それはそれでいいではないか。
K 寄らば大樹の陰
政治の世界のみならず
人とは群れあう動物だから
会社におっても閥がある。
閥作り会社を動かせる者はよい。
たとえ一時の冷や飯喰っても
覚悟の上だからしょうがないだろう。
さて力なく覚悟を持たない者はどうなのか。
寄らば力のある方になびき
それからそれを裏切って
又力のある方になびくだけ。
無節操と言われ、風見鳥と呼ばれてもよい。
力持つ者には力持つ者の生き方があり
力持たぬ者には力持たぬ者の生き方がある。
それをとやかく言えるのは神様だけだろう。
L 迷えば凡夫、悟れば仏
金持ってる人はどこか悪いことをしている。
地位高い人はどこか悪いことをしている。
無欲な人や清廉潔白の人が
金稼ぎ地位極められた時代が
いつどこにあったと言うのだろうか。
それなのに金持ってる人は偉いとか
地位高い人は偉いとか
無意識に決めつけてしまうのが凡夫の常だ。
所詮凡夫も凡夫なりに
金とか高い地位に拘る気持ちを
死ぬまで捨てきれないのかもしれない。
それならば人間なんてそんなものだと
逆悟りをすることで
しぶとく生きていくのが一番かもしれない。
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