悪その七 力持つ者
口上 牡丹餅は棚から落ちて来ず
① 蟻の思いも天に届く
② 趣味を説明することはできない
③ 世間は張り物
④ 宝の持ち腐れ
⑤ 先んずれば人を制す
⑥ 情けは人の為ならず
⑦ 酒の中に真あり
⑧ 大込みは味うまし
⑨ 心の矢は石にも立つ
⑩ 英雄人を欺く
⑪ 腹は立て損喧嘩は仕損
⑫ 身の程を知れ
⑬ 大詐は信に似たり
口上 牡丹餅は棚から落ちて来ず
わしらがこの世で力あるのは
毛並みのせいでも閥のせいでもない。
文字通り人より学び人より働き
努力を重ね辛酸なめて
少しずつ少しずつ力を貯めたせいなのだ。
わしらがこの世で力があるのは
落ちもせず残されもせずにと思い
負けもせず笑われもせずにと思い
次々人を押し退けてきた結果なのだ。
おかげで組織を導き
人を指図できるようになったのだ。
わしらがこの世で力があるのは
言わば自力でそれだけのことをしてきたからなのだ。
断じて毛並みのせいでも閥のせいでもないのだ。
① 蟻の思いも天に届く
最初はそんなに力もなかった。
使命感に燃えて心も純粋だった。
ある日自分の力が意外にあることに気づいた。
自分の言うことに人は耳を傾け
自分の指示したことに人は従った。
それでも心では自分の実力はそんなにない筈だと思っていた。
それでもそんな思いの日々が続いてくると
自分は本当に力があるのだと思うようになった。
そしてそれだけのことをしてきたのだから
その力も当然のことだと思った。
自分のやってきたことは正しかったのだと思った。
いつしか自分のやることは正しいのだと確信するようになった。
そして自分のやることはすべて正しいのだと確信するようになった。
とうとう自分は偉い人間なのだと確信するようになった。
② 趣味を説明することはできない
地位とか金とかが偉くあるとか
偉くテレビとかに出るとかしたら
いわゆる名士と言われるのだが
それだけに社会的体面とやらが
「してはいけないこと」を押しつけてくる。
ところがどんなに名士と言われようが
趣味なき人では決してない。
もっとありていに言うならば
「してはいけない」悪趣味までも
一つや二つは持ってるものだ。
ところがなまじ名士になってしまうと
名もなき人間なら笑って済んでしまうようなことが
スキャンダル恐れてなかなかに出来なくなるのだ。
それが名士と言われる者の悲しいところだ。
③ 世間は張り物
いかにも名士だと思わせぶりをする人に
本当の名士はいない。
いかにも物知りだと知識を披瀝する人に
本当の物知りはいない。
いかにも正義の味方だと言い触らす人に
本当の正義の人はいない。
このこと世間でよくよく聞かされるが、
ところがどっこい誤りで
無能な人ほどそう思いたがる。
今の世は何事も宣伝しなければ
喰っていけないほどにあわただしい。
いかにも名士だ、いかにも物知りだ、いかにも正義の人だと
ぶりっこすればするほどに
世の中動かしていけるのだ。
④ 宝の持ち腐れ
多少は人より賢くて
多少は人より努力して
多少は人より知ってるそのせいで
人より「先生」などと呼ばれているが
その実ちいとも尊敬されないお方に忠告しよう。
それは人様の前でこれみよがしにへりくだり
知ってても言わぬ腐れ顔をするからだ。
世の中そんなに甘くはない。
人はそれを傲慢と見、
面従腹背の思いを持っていること知るべしだ。
だからほんとに偉い人を見倣い給え。
彼らはいつも決まって
わずかな知識でも最大限に利用して
ちゃっかり世の中指図しているではないか。
⑤ 先んずれば人を制す
本来は裁かれなければならぬのに
ちゃっかり裁く側に立ち回り
いかにも正義の味方の振りすることが大切だ。
悪いことをしたならば
多数の中に潜り込み
ひたすら逃げて隠れるのもよいことなのだが
先ずそれは弱い人のすることだ。
悪いことをしていても
自分でしたとは思わずに
どこかの誰かがしたかの如く
非難ののろしあげてぼやけさせ
ことの決着つけさせなくすることが
世の中牛耳るよい方法なのだと
気づくからこそ実力者とやらになれるのだ。
⑥ 情けは人の為ならず
せっかく力がありながら、
人様から嫌われてるってのは
情け心に気がつかないからよ。
力ある奴の悪いところは
己の力でやったんだから
独り占めにしてもいいんだと思いたがることよ。
情け心って言うやつは
そんなになくてもいいもんなんだ。
もうけた金ならその万分の一を人様にやればよいのよ。
得られた力ならその万分の一を人様のおかげと言えばよいのよ。
そうしたら人様からはありがたがられるのよ。
そうしたら人様からはあがめられるのよ。
世の中動かせるのはそういう人なのよ。
お偉い方ってのはそういう人のことなのよ。
⑦ 酒の中に真あり
「今日は無礼講でいこう」などと
お偉い方が言う時は
そのまま信じちゃあいけないよ。
酒が入って挙げ句には
羽目をはずしてずっこけても
お偉い方が喜ぶような
酒飲みするならまあ許されようが
お偉い方の傷つくような
ことを弾みで言ったとしても
お偉い方はよく覚えてる。
素面の時にどれほど有能でも
お偉い方の言うこと信じたおっちょこちょいが
どれだけ出世街道から外されていったか
それは現にお偉い方となった者が一番知っている。
⑧ 大込みは味うまし
なんてたって言ったって
大きなことは一番いいってことよ。
一人を殺せば罪人だけど
万人殺せば英雄と
言われる事例が山とある。
なんてたって言ったって
大きなものはうまみあるってことよ。
個人と賭すりゃ捕まるけれど
国と賭すりゃ咎めはされず
よき市民でいられるものよ。
所詮小悪党という者は
大言壮語ではったりかまし
していることと言ったなら
大樹の下での手慰みなんだよ。
⑨ 心の矢は石にも立つ
「偉そうにしている」とか
「横柄にしている」とか
何も出来ずに冷や飯喰っている人の
ひがみ根性ほど醜いものはない。
悪いことをするでなく
与えられた仕事を必死に頑張り
あまたの矢をかいくぐったはてに誕生するのが
現代のエリートというものだ。
今の世は誰だって金持ちになれる。
今の世は誰だって権力持てる。
従って誰だって名誉持つことできるのだ。
それなのに金持ちになったのは悪いことをしたからだの
権力持ったのは悪知恵働いたからだの
そんな世迷事はいい加減にしてもらいたいものだ。
⑩ 英雄人を欺く
万骨枯れて城が立つ。
古今東西人の世で
歴史に名を残した人ほど
人を踏み台にしたとは常識だ。
善いことであれ、悪いことであれ
己のためであれ、人のためであれ
人に影響与えるには
好むと好まざるとに関わらず
人をものと思わねばならぬ。
利他だの、愛だの、思いやりだの
そんな殊勝な言葉にとらわれるとは
それは何もできないということなのだ。
そんな聞こえ良い言葉とは
人を踏みつけにした後の戯れ言にすぎぬのだ。
⑪ 腹は立て損喧嘩は仕損
良きにつけ悪しきにつけて初めから
意志強固であるのは良いことだ。
特に大事は断る意志だ。
その意志を貫く気構えあるならば
どんな障害あろうとも
力持つ者の理屈は後からついてくる。
腹を割り真摯に頼みにきたならば
「なぜもっと早く言わなかったのかね。」
「今からじゃあ遅すぎる。」
少し弱気になったなら、
「きみのいう条件なんて甘すぎる。」
「こちらの言うことすべて聞くなら考えよう。」
それで相手が腹を立て
暴力使えばこっちのものだ。
⑫ 身の程を知れ
然るべきのことをし
然るべきの評価を受けたからこそ
今の権勢が打ち立てられたのだ。
別におべっかまで使ってくれと言うのではない。
それなりに存在の重みを感じてくれて
立ててくれてもよさそうなものではないか。
それなのに何も知らぬ輩が
無礼にも腹の立つことをしてくる。
殊更に批判がましいことをしてみたり
殊更に無視する態度に出たりする。
そうなるとこちらのプライドが許さなくなってくるんだ。
今まで持っていた権威と権力を使って
「どうだい、俺の偉さ思い知ったかい」とばかりに
叩きのめしたくなってしまうんだ、つい。
⑬ 大詐は信に似たり
学長が何で偉いのか。
知識振り回す偽善者の親玉でいられるからだ。
将軍が何で偉いのか。
殺しの好きなサディストの親玉でいられるからだ。
社長が何で偉いのか。
欲どしい泥棒の親玉でいられるからだ。
大臣が何で偉いのか。
見栄っぱりのたかり屋の親玉でいられるからだ。
家元が何で偉いのか。
無能な芸術家の親玉でいられるからだ。
門主が何で偉いのか。
弱者絞る詐欺師の親玉でいられるからだ。
われわれが菩提と仰ぐ人よく見れば
すねに傷持つ輩見事束ねているだろう?
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