悪その六 情拘る者





                   口上 転んでもただでは起きぬ
                  @ 木の曲がりは直れども人の曲がりは直らぬ
                  A 正直者が馬鹿を見る
                  B 病は治るが、癖は治らぬ
                  C 身から出た錆
                  D 欲と道連れ
                  E 外面如菩薩内面如夜叉
                  F 負け犬の遠吠え
                  G 一度あることは二度ある
                  H 物は試し
                  I 力が正義
                  J 風に草なびく
                  K 善の裏は悪
                  L 一寸の虫にも五分の魂



  口上 転んでもただでは起きぬ

  サルより毛の数少ないために
  裸のサルだの言われたり
  羞恥や文化持つために
  パンツをはいたサルだの
  約束するサルだの
  言われるブームも起きたけど
  所詮こちとら木の上で
  住むこと出来ず落ちこぼれ
  森から追われたその挙げ句
  いわば退化しちまったサルなのさ。
  おまけに殺しはするは海汚すはで
  とうとう狂っちまったけど
  それでも自称賢いヒトと
  言う癖直らぬ性悪なのさ。



  @ 木の曲がりは直れども人の曲がりは直らぬ

  人間様が悪なのは
  もって生まれたさがのせい。
  つまりは早く生まれたために
  してはいけない歯止めの技を
  つい自然が忘れたためだ。
  それが何でへそ曲げたのか。
  知恵授けられて生まれたのだの
  可能性持って生まれたのだの
  いかにも善いことだけするかの如く
  つい思って己を忘れ
  したい放題、悪三昧。
  おかげで「汝自身を知れ」という
  神のお告げがいつまでも
  人の背中で泣いてる始末。



  A 正直者が馬鹿を見る

  何事もうまくいけば
  それは自分が努力したからですと
  告げて誇示する馬鹿は誰?
  何事もうまくいかなければ
  それは何かに邪魔されたからですと
  自己弁護する馬鹿は誰?
  あてにしたいと思った時に
  残念だが用事があるのですと
  おさおさ立ち去る馬鹿は誰?
  あてにもしていない時に
  いつでもお役にたちましょうと
  しゃしゃり出てくる馬鹿は誰?
  別にこの人達は根性が曲がっているのではないのです。
  根が正直だからそうなってしまうのです。



  B 病は治るが、癖は治らぬ

  別に外で遊ぶのが嫌ではないんだが
  どうもネクラに生まれたようで
  人と話すのが大の苦手なんだ。
  昔なら本を読んだり
  家の手伝いをしたりも出来たんだろうが
  贅沢癖がついたとでも言うか
  パソコン、ビデオ、オーディオと
  次々買ったもんだから
  いつしかそれを楽しむようになってしまったんだ。
  そこまではよかったんだけど
  おかげで気に入らない場面がくると
  つい「早送り」ボタンを押す習性がついてしまって
  リアルタイムにテレビを見る時なんぞも
  ついついそのボタンを押してしまうんだ。



  C 身から出た錆

  情けは人のためならず。
  そこまで打算が働いているわけではない。
  困った人がいると
  ついつい何かしてやりたい気が起こるんだ。
  それほどに純粋なんだ。
  それだけに身も心も助けてやりたいと思った人から
  にべもなく断られたり
  助けてやった人から感謝もされないとなると
  むしょうに腹が立ってくるんだ。
  やっぱり打算が働いているのかと
  反省の気持ちあるのも事実なんだが
  腹の立っているのも又事実なんだ。
  だから何もしなければそれなりにつきあっていけるものを
  殊更に敵を作って悩んでしまうんだ。



  D 欲と道連れ

  人が欲で動くのは生きるため。
  人が色で惑うのは子供作りたいがため。
  それを生き物の二大本能のせいだと言うのは
  あまりに人をこけにする話か。
  人はパンのみに生きるにあらずとか
  愛なき人との道連れは不幸だとか
  人はさまざまに体裁を整えて言うが
  もう二度と会いたくもないと思う相手からしか
  生きるすべを与えられなかったら
  それでも死んでもいいと思うだろうか。
  もう二度と会いたくないと思う相手しか
  この世にいなかったら
  それでも別々に過ごすだろうか。
  所詮人とは色ぼけ欲ぼけの好きものにすぎないのだ。



  E 外面如菩薩内面如夜叉

  憎んでいるのについ好きだと言ってしまう。
  悲しいのについ嬉しそうにしてしまう。
  腹が立つのについ許してしまう。
  気が弱いのについ思い切ったことをしてしまう。
  なるようにしかならないと思ってもついいい方に思ってしまう。
  諦めたと内面思ってもつい又試みてしまう。
  情けないと思ってもついプライドだけは保っている。
  恥ずかしいと思ってもつい喜んでしまっている。
  人の気持ちと思いほど
  当てにもならず信じも出来ず
  その上災いもたらすものはない。
  それでも人生諦めず
  何かを求めてさまよい歩く。
  だからこそ人は図々しくも生きれるのだろう。



  F 負け犬の遠吠え

  より以上のものを求め
  最高のものを手にし
  それをずっと守って生きていたい。
  これは人間の持つさがなのだ。
  そのためには勝つための知恵を絞り
  そのためには負けぬための手段を講じ
  そのためにはあらゆる邪魔者を排していくのは
  これも人間のさがと言えまいか。
  ところが人間の何がそうさせるのか。
  「枠」とか「限度」とか勝手に設け
  それらを許さぬ馬鹿がいて
  こちらが悪けりゃあ叩けばよいものを
  そうも出来ずに
  ぐちぐち言葉を並べたてているだけなんだから。



  G 一度あることは二度ある

  「もう二度とはいたしません」って言葉
  信用してたらえらい目にあうよ。
  まあ前科一犯なんてのは
  お目にかかったことはないわさ。
  犯罪犯す奴ってのは
  一度脳に傷がついてしまっているのさ。
  これは人も国も同じことだわさ。
  ある国は化学兵器使ったんだ。
  だから又使ってもおかしくはないんだ。
  ある国は核兵器を使ったんだ。
  だから又使ってもおかしくはないんだ。
  又ある国は武力侵攻したことがあるんだ。
  だから又武力侵攻してもおかしくはないんだ。
  どんな大義を言うか知らんがね。



  H 物は試し

  刀は何のためにある。
  例えば身や物守るためだとか
  例えば武士の魂とするためだとか
  言っても所詮は人切るためだ。
  軍隊は何のためにある。
  例えば国や物守るためだとか
  例えば平和を維持するためだとか
  言っても所詮は戦争のためだ。
  切れない刀は刀でない如く
  戦争しない軍隊は軍隊でない如く
  そういうものを持ったなら
  一度その力のほどを試してみたいと思うのは
  これ又何がなんと言っても
  人情というものだ。



  I 力が正義

  何と言っても戦争は
  人と人との殺しあい。
  どんなに大義を唱えていても
  どんなに正義を謳っていても
  勝てば官軍、負ければ賊軍。
  力持ち勝った方での人殺し
  どんなに残酷だったとしても
  大義のためのことだから
  良いことしたとほめられる。
  逆に力なく負けた方での人殺し
  敵と思い身を守っても
  正義の御旗を取られたために
  その残忍さを暴かれる。
  あぁ、勝ちたや、勝ちたや、戦争は。



  J 風に草なびく

  会社の命令とあれば
  人を騙すになんとも思わぬ。
  法を破るになんとも思わぬ。
  それが社員というものさ。
  国が命ずることならば
  人を殺そと心がなびく。
  侵略しようと心がなびく。
  それが国民というものさ。
  組織におって組織で喰って
  生きていくのが人間ならば
  当然悪もなさねばならぬ。
  それが嫌なら組織を出でて
  聖人暮らしをすればよい。
  情拘る者の惨めさすぐに分かるだろう。



  K 善の裏は悪

  人の性が善なのか
  それとも悪であるのかと
  詮索してもどうだと言うのだ。
  人間様がそれを兎や角言えるのかい。
  この世が乱れりゃ世も末と
  「悪」、「悪」、「悪」と言い触らし
  挙げ句に巨大な力を願い
  この世が落ち着きゃ得々と
  「善」、「善」、「善」と持ち上げて
  挙げ句に怠惰を貪る始末。
  いずれにしても人間どもは
  「ヒューマニズム」に酔いしれて
  わが欲ばかりを追い求め
  地球をもてあそんでるに変わりはないよ。



  L 一寸の虫にも五分の魂

  可も不可もない人間の
  そのまま生まれそのまま死にゆくその間の
  ただ何となく在って思って行なってきた毎日に
  良かったのだの、悪かったのだのと
  烙印を押したがる人は誰なのだ。
  一寸の虫の私でもこれだけのことをしました。
  五分の魂の私にでもまだまだ出来ることがあります。
  ですから私の存在理由はあるのです。
  人は己が獣でない証しを立てるために
  他人にはもとより己に対してまでも
  時には食べたり排泄している時でさえも
  何かを目論もうとする。
  それは今も生への執念が残っているからなのだろうか。
  それとも涅槃ででも存在理由を持ち続けたいからなのだろうか。


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