悪その五 知拘る者
口上 知恵出でて大偽あり
① 人間は万物の霊長である
② 自画自賛
③ 人木石にあらず
④ 述べて作らず
⑤ 知識は力なり
⑥ 汝自身を知れ
⑦ 口と行いは一にせよ
⑧ 揚げ足をとる
⑨ 理屈と膏薬は何処へでもつく
⑩ 人の心山川より険し
⑪ 世の中は嘘八分に実二分
⑫ 専門馬鹿
⑬ 憎まれっ子世にはばかる
口上 知恵出でて大偽あり
もったいぶって言うならば
親の遺伝子のせいかも知れぬ。
神のなせるわざかも知れぬ。
実際は自分の努力もあったのだろうし
周りの環境も抜き出でてよかったのだろう。
とにかく自分は「頭」がよかった。
少なくとも「頭」がよいと人から言われた。
人間「頭」がよいのはよいことだ。
人は物知りだということで持ち上げてくれるし
それで尊敬されたりもする。
それで自分は偉いんだとつい思ってしまった。
時には余りにことが分かりすぎて
人に嫌われることもあったが
これだけは自分には分からなかった。
① 人間は万物の霊長である
人間は「知性」を持った生き物である。
同じ生き物だからと言って
他の生き物と一緒にされては困るのである。
人間は猿から進化したのだと
いかにも人間が動物であることに拘る
そんなえせ学者もいるようであるが
人間はあくまでも動物からは区別されねばならないのである。
「知性」とは自然を超越できるものなのである。
「知性」とは完全無欠なものなのである。
「知性」とは絶対に批判されてはならないものなのである。
その「知性」を持ったのが人間なのである。
だから人間は何をしても許され
又何でもできる存在なのである。
故に人間は神になっても不思議のない存在なのである。
② 自画自賛
人間は何と優れた存在なのか。
はるか彼方の大昔
人間は樹上生活出来なくて
森から追われ不自由忍ぶ
そんなサルの自画像捨てて
代わりに見つけた知恵使い
やっと生きれたものなのに
「楽園追放」の神話を作り
生きることに恰好をつけて
自らを「賢い人」と命名し
果ては地球の王者を騙り
祖先が覚えた屈辱を
ものの見事に打ち払ったのだ。
これぞ優れることの証しなのだ。
③ 人木石にあらず
単に知恵が働くだけで
「人」の証しは立てられないよ。
例えばサイボーグを考えよ。
例えば異星からきた生き物を考えよ。
彼らがいくら知恵を働かせても
人間様はそれを人とは見なさない。
それでは「人」であるとは何なのだ。
まず姿形が人の姿形をしていなければならない。
それに加えて
例えば狂人であったりしてはいけない。
例えば植物人間であったりしてはいけない。
人間様はそれを「人」だとは見なさないからだ。
少なくとも「人」だと見なしたくはないからだ。
故に「人」であるとは難しいことなのだ。
④ 述べて作らず
物知りは物知るだけで何もせずと
小難しい凡夫の輩はよく言うけれど
それは「有言実行」の美徳に災いされるからだ。
そんなものは泥まみれの世間の中でこそ
作られ持てはやされたりもしようが
高度な知的世界では不必要だ。
物知りはよく物知るだけで十分で
せいぜい物知ることを言うだけでよい。
物知りが言ったことに感銘し
それを実証しようとする凡夫の輩こそ
物知りの最もよきパートナーなのだ。
名選手必ずしも名コーチならずとはよく言うが
名コーチは名選手である必要はないのだ。
それが世間の真理と言うものだ。
⑤ 知識は力なり
世間のことは知らずとも
知識があれば裁判官になれる。
そしたら人を裁く立場におれる。
世間のことは知らずとも
知識があれば先生になれる。
そしたら人に教える立場におれる。
世間のことは知らずとも
知識があれば役人になれる。
そしたら人を治める立場におれる。
酸いも甘いも噛み分けて
人情の機微が分かったところで
何で人の上に立ち人を動かせるものか。
まったく「大学」ってところは有り難いところだ。
まったく「学歴社会」ってのは有り難い仕組みだ。
⑥ 汝自身を知れ
誰だってわが身のことは可愛いものよ。
ところが何でどうしてなのか
利他の心が要求されて
社会の美徳とされている。
ところが人の心は弱いと知るか。
どうしても自分に甘く他人にきびしくなるとかや。
どうしても自分のことは棚に上げ他人をこき下ろしてしまうとかや。
それらが普段の己と思っても
それらが苦痛の種になり
利己の心が揺れ動く。
そこで己を知った賢い人は
「私は自分に甘く他人にきびしい人間です。」
「私は自分のことは棚に上げ他人をこき下ろす人間です。」
怖めず臆せず言ったとかや。
⑦ 口と行いは一にせよ
いつも正義をかざす人に
いつも誠を掲げる人に
いつも平和を唱える人に
ろくな手合いはおらぬと馬鹿にするのは
いつも不言実行の美徳を口にしているからだ。
少なくとも不言不実行であることで
いつも己が許されているからなのだ。
いつも正義をかざす人は正義を行なって当たり前。
いつも誠を掲げる人は誠を尽くして当たり前。
いつも平和を唱える人は平和を求めて当たり前。
逆に正義を行なわなければ
逆に誠を尽くさなければ
逆に平和を求めなければ
ぼろくそに言われることぐらいはよく知っている。
⑧ 揚げ足をとる
世の中いつも単純ではありません。
人の心もいつも単純ではありません。
表もあれば裏もあるのです。
本当と嘘の境もはっきりしません。
だからこそ人は揚げ足とれるのです。
人が揚げ足とれるのは
相手の弱みを見抜いたからなのです。
それは賢いからこそ出来るのです。
揚げ足とられてより怒ってくるなら
それはもっけの幸いです。
それは相手に勝ったということなのです。
揚げ足とるのは馬鹿には出来ません。
それは賢い人のすることなのです。
だから世渡り上手と言われるのです。
⑨ 理屈と膏薬は何処へでもつく
頭がよくて公平で
人の身になり柔軟で
物わかりがよくて寛容であると言う
そんな人がいるとするならば
理屈抜きにそれは何もできない人間と言うことだ。
人間何かをしようとする時は
とにかくエゴイストにならなければならない。
理屈なんかは後でいくらでもつけられる。
所詮理屈というものは
人の気持ちの奴隷のようなもの。
たとえ同じことであったとしても
右におれば右におったから悪かったのだと言うし
左におれば左におったから悪かったのだと言う。
理屈とはそういう類のものなのだ。
⑩ 人の心山川より険し
殺したくて人を殺すのは確かに悪い。
欲に絡んで人を殺すのは確かに悪い。
憎しみの余り人を殺すのは確かに悪い。
かっとなって人を殺してしまうのは悪い。
弾みで人を殺してしまうのは悪い。
酔っぱらって人を殺してしまうのは悪い。
車で人を殺してしまったことになったのは悪いことだ。
喧嘩の仲裁で人を殺してしまったことになったのは悪いことだ。
遊んでいて人を殺してしまったことになったのは悪いことだ。
身を守るために人を殺してしまうのは悪いことだろうか。
助けるつもりで人を殺してしまうのは悪いことだろうか。
戦争で人を殺すのは悪いことだろうか。
人を殺すのは必ずしも悪いことではない。
人を殺すのが許されることだってある。
⑪ 世の中は嘘八分に実二分
苦し紛れに嘘ついて
一応その場は許されて
その嘘次には本当にされて
又苦し紛れに嘘をつく。
そうして嘘を重ねる内に
最初の真実何だったのかと
思うことすら忘れてしまい
苦し紛れの嘘だったけど
実は真実だったのだと
思い直して覚悟をきめて
嘘の中にも真実あると
見るは知拘る者なればこそ。
所詮人というものはどれだけ嘘をつけるかで
その人となりが決まるのだ。
⑫ 専門馬鹿
知性のかけらもない馬鹿が
親の財産受け継いで
決まって贅沢三昧しているのを見ると
世の中不合理と思う。
知性のかけらもない馬鹿が
顔がきれいと言うだけで
いつも異性にもてているのを見ると
世の中ゆがんでいると思う。
知性のかけらもない馬鹿が
おべっかだけがうまいため
往々上司でふんぞりかえっているのを見ると
世の中矛盾していると思う。
人間とは何か。
まさに知性的動物ではなかったか。
⑬ 憎まれっ子世にはばかる
無知蒙昧で厚かましく
人と接している人を見ると腹が立つ。
品性下劣であけすけに
人と話している人を見ると腹が立つ。
軽薄短小で何はばからず
ことを起こしている人を見ると腹が立つ。
直情径行で横柄に
ことに当たっている人を見ると腹が立つ。
人間に知性というもの備わることが
何で彼らは分からぬのだろう。
まして彼らが世間の中で
疎んじられてるのならともかくに
幅利かせ所得がある様見るにつけ、
知性愛するだけにより一層腹が立つ。
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