悪その四 年少ない者





                   口上 子供は大人の父である
                   @ 子供と馬鹿は嘘が言えぬ
                   A 蛇の穴へ蛙を投げ込む
                   B 親父の夜歩き息子の看経
                   C 親馬鹿子馬鹿
                   D 一代身代後継げず
                   E 花はその主の心の色に咲く
                   F 憂えあれば喜びあり
                   G 仏の真似はすれど長者の真似はならぬ
                   H 頭隠して尻隠さず
                   I 目から鼻へ抜ける
                   J 悪い所は似易い
                   K 大河は手で塞がれぬ
                   L 目には目を、歯には歯を




  口上 子供は大人の父である

  たしかにおいらは子供だけれど
  大人のすること皆出来るんだい。
  大人が嘘をつくように
  子供だって嘘くらいはつけれるわい。
  大人が見栄を張るように
  子供だって見栄くらいは張れるわい。
  大人が喧嘩をするように
  子供だって喧嘩くらいは出来るわい。
  子供が大人のすることを
  真似しているように見えるけど
  本当のことを言うならば
  おいらのような子供らが
  生きてくために楽しむことを
  大人が真似しているんと違うんかい。



  @ 子供と馬鹿は嘘が言えぬ

  初めて心から楽しんだのが
  指先一つで遊べるインベーダーゲーム。
  次々現れる敵に憎しみをこめて
  「馬鹿たれ!」
  「くたばれ!」
  「ぶっ殺すぞ!」と叫ぶ。
  とたんに音調が変わって
  画面から敵の姿が飛散り消える。
  「ヤッター」と勝ちどきの声。
  その快感。
  その簡単さ。
  敵をやっつけるのに涙は要らない。
  キーボードを叩くだけでよい。
  そしたら子供も英雄になれる。



  A 蛇の穴へ蛙を投げ込む

  昔の子供は何したか。
  トンボの羽をむしり取り
  飛べよ飛べよとはやしたてたんだって。
  蛙の尻にストロー差し込み
  パンクするまで腹膨らましたんだって。
  畑で雲雀の巣見つけ
  グチャグチャ踏みつけ面白がったんだって。
  そんな子供が大人になって
  設けた子供が今何してるかだって?
  まあベンチで眠る浮浪者見つけては
  棒で叩きのめしたり
  ゴミ袋に捨てられた子猫見つけては
  ガソリンぶっかけ焼き殺したりは
  朝飯前のこったろう。



  B 親父の夜歩き息子の看経

  親と子とのしがらみは
  親を悩ませ子を悩ませて
  永久になくなることないけれど
  今日この頃の親の身勝手さどうなんだ。
  子のために親が犠牲になってこそ
  自然の摂理というものなのに
  変な道徳まかり出て
  親のため子が犠牲になることよいとされ
  親ならぬ親までにも孝養押しつけやがる。
  親、親、親と言うけれど
  たかが生んだと言うそれだけで
  親の資格が出来るわけではないもんだ。
  それなりに親してくれてこそ
  子も子なりの演技出来ると言うもんだ。



  C 親馬鹿子馬鹿

  今の親は甘いもの。
  自分が勉強しなかった
  その報いの冷や飯喰いで
  子にだけは「いい」学校に
  行かせたいと思うのだろう。
  おかげで子供は大助かりよ。
  勉強、勉強と言いさえすれば
  親は何でも認めてくれる。
  外に行きたければ友達と勉強するためだと言えばよい。
  小遣いほしければ勉強道具が買いたいと言えばよい。
  オーディオ持ちたければ勉強疲れ癒したいと言えばよい。
  それで「いい」学校に行けなくとも
  親の頭のせいにすれば
  きつく咎められることはないもんね。



  D 一代身代後継げず

  親の頭がいいからって
  子供もいい頭継ぐと思ってもらっちゃあ困るよ。
  親の顔きれいだからって
  子供もきれいさ継ぐと思ってもらっちゃあ困るよ。
  親の一番嫌なのは
  子供は親に似る筈と
  独り合点に決め込んで
  子供の人格無視することだ。
  それじゃあ親が大酒飲みなら
  子供も大酒飲みになってもいいんかい。
  親が極道しているんなら
  子供も極道してもいいんかい。
  そりゃあ困ると言ったって
  それこそ親の勝手と言うもんだ。



  E 花はその主の心の色に咲く

  学校の先生汚いよ。
  生徒に遅刻するなと言いながら
  そのくせ自分は遅刻する。
  親の心も汚いよ。
  子供に早よ寝と言いながら
  そのくせ自分は夜更かししてる。
  思うに大人は汚いよ。
  子供にルールを押しつけて
  そのくせ自分は破ってる。
  それに何より汚いのは
  自分で悪いことしてながら
  大人はいいんだと言いくるめることだ。
  だから子供は怒られても
  謝る気など起こらないんだ。



  F 憂えあれば喜びあり

  生まれた時は神童で
  幼児になって天才で
  学校に行っては秀才で
  喜んだのも束の間で
  大人になって凡人の人生歩いた人多い。
  期待されずに生まれ出て
  餓鬼大将には虐められ
  賢い人には馬鹿にされ
  憂えたのも束の間で
  社会に出てから出世した人生歩いた人も又多い。
  よく言われるのも大人の都合
  悪く言われるのも大人の都合なんだと言うことを
  大人は知らないだろうけど
  子供はちゃんと知ってるもんよ。



  G 仏の真似はすれど長者の真似はならぬ

  いい子になれよと大人は言うが
  その「いい子」ってのは何なんだい?
  初めの内は分からずに
  仏のような顔をして
  ただただ「うん、うん」うなずいてたが
  その内大人の言うことに
  従うことだと分かってきた。
  そしたら大人に喜ばれ
  「いい子、いい子」と頭を撫でられ
  ご褒美たくさんいただいた。
  ところがもっとご褒美もらおうと
  大人のすること真似してみたら
  今度は「非行」と嫌われて
  しまいにゃ頭までも叩かれっちまった。



  H 頭隠して尻隠さず

  大人は隠してるつもりだけれど
  鼻から子供は知っている。
  大人は子供を見くびるけれど
  頭から子供は出来ている。
  大人は禁じているけれど
  一から子供はやっている。
  大人のやること何もかも
  ちゃんと子供はご承知さ。
  隠しているから知らないふりを
  見くびるからこそ出来ないふりを
  禁じているからせぬふりを
  仕方がなしにしているだけよ。
  それで子供をしつけたなどと
  思う大人は大馬鹿よ。



  I 目から鼻へ抜ける

  子供とて大人の品性知ってます。
  子供から「おじん」、「おばん」と言われたり
  「くそじじ」、「くそばば」と言われた時に
  「この餓鬼」と目つり上げ怒るのならば
  そう言われるってことを
  見越して子供は言ってるのです。
  子供とて大人の実力知ってます。
  子供からもの乞われなかったり
  催促されなかったりしたならば
  そうしても答えてくれるような大人でないと
  見越した上でしないのです。
  何が立派で何が得かについてなら
  いちいち考えちゃあいないけど
  子供ほどちゃんと見抜いているものなのです。



  J 悪い所は似易い

  大人がタバコを吸ってるんなら
  子供がタバコを吸って何が悪い。
  大人が酒を飲んでるんなら
  子供が酒を飲んで何が悪い。
  大人がギャンブルしてるんなら
  子供がギャンブルして何が悪い。
  大人がエロ本買ってるんなら
  子供がエロ本買って何が悪い。
  年少ない者の体が心配だからとか
  年少ない者の心に悪影響与えるからだとか
  いかにも子供のためのような振りをして
  そのくせ大人にだけは許しておいて
  子供にすること禁じるなんて
  それは大人の勝手と言うもんだ。



  K 大河は手で塞がれぬ

  子供でも情報社会に住んでいる。
  大人が流す情報を子供が知らぬ筈はない。
  今の情報システムで
  大人が手にする情報は
  等しく子供も手に入れられるんだ。
  大人の勝手はいつものことで
  欲にかられて商品作り
  子供が買うのも承知の上で
  「十八才未満はお断り」の張り紙作り
  それ貼りゃ免罪されると思ってる。
  「タバコの吸いすぎには注意しましょう」が
  喫煙家には関係ないように
  こんな張り紙子供にとれば
  「お買い得の品物」と言ってるようなもんなんだ。



  L 目には目を、歯には歯を

  大人大人と威張るな大人。
  その内年取り皺増えて
  働く力もなくなれば
  世話されるのは目に見えている。
  ましてやこれから迎えるは
  高齢化社会だとも聞いている。
  今の子供は身勝手で
  実の親さえ世話せぬと
  言われているが迷惑だ。
  昔と今では社会が違う。
  脅かすわけでは決してないが
  今の子供の納める金で
  大人の生死が決まるってことを
  今の大人はよく知るがよい。


  TOPへ 悪の詩・目次へ 戻る 次へ