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本の感想
2011年-1


「三つの秘文字」
「青い虚空」
「失踪家族」
S・J・ボルトン
ジェフリー・ディーヴァー
リンウッド ・バークレイ
「騙し絵の檻」
「暗闇の薔薇」
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ジル・マゴーン
クリスチアナ・ブランド
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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


「三つの秘文字」 S・J・ボルトン

私の好みではなかった。
上巻は面白かったんですけど、下巻になったら予想外の展開になってました。

バイキングの伝説が残る島で、その伝説に模した死体が発見される。
閉鎖的な島で起こる連続殺人という導入部は伝奇ミステリーみたいで引き込まれたのですが。

事件が起こるのはスコットランドの北東に位置するシェトランド諸島。
どこなんだろう?と思ったら、シェルティの生まれ故郷なんだそうです。
検索して写真を見てみたら、いかにも北海に浮かぶ島という荒涼とした風景で、
小説のイメージがなんとなくわかりました。

ヒロインは夫と共に夫の生まれ故郷であるシェトランド島に移り住んだ産科医トーラ。
トーラは新しい自宅の庭で、地中に埋められた女性の死体を見つける。
その女性は心臓が抉り出され、背中に古代文字が掘り込まれていた。
謎めいた死体を見たトーラは真相を知りたいと願うが、
警察をはじめ関係者はなぜか揃って事件をもみ消そうとする。

トーラの上司から事件を捜査する警官までが夫の幼なじみという狭い社会。
その中で余所者である彼女だけが事件の矛盾を指摘するが、
もちろん取り合ってもらえない。

同じく本島から来た余所者である女性警察官デーナと極秘に捜査をはじめるが、
今度はトーラとデーナも狙われる。
(しかし名前がみんな似ててわかりにくい^^;)

上巻は山奥の古い因習の残る村で起こる連続殺人のような緊張感があるのだけれど、
下巻になると物語は意外な方向へ進んで、アクションシーンが連続。
古典ミステリーと現代ミステリーが混ざったような小説でした。

ヒロインが医師とはいえ、医学的描写をあんなに細かく書き込まなくてもいいのに、と
残酷描写が苦手な私は思いましたが、それも今風なんですね。



種付けして子供を産ませて売る。
馬や犬ならふつうにやっていることなんだから、
人間でやろうとする人がいてもありえないことではないかもしれなけど、
日本人には理解できないと思う。

あんなに危険を乗り越えて、やっと脱出した島になぜ戻るのか??
ヘレンも一味かと思ってしまいました。

とにかく、どこにでも死体が埋まっている島に住むのはイヤだわ〜





「騙し絵の檻」 ジル・マゴーン

2つの意味で読者の推理の裏をかく仕掛けになってます。
だから推理しながら読まないと、一般の小説になってしまう。
そういう意味でミステリーマニア向きの作品といえるかも。

殺人事件の冤罪で終身刑に処せられたビル・ホルトは、
16年の服役後、やっと仮釈放を認められて出所する。
出所したホルトの目的は真犯人を探し出して復讐すること。
そのためにホルトは故郷に戻り、自分を陥れた人々に会う。

ミステリーとしては珍しくない設定だけど、
ちょっと違うのは事件は大企業の経営者一族の中で起こっているということ。
そういう意味では容疑者が限られたクローズドなミステリー。

ホルトが殺したとされたのは元会長の娘で現会長の妻アリソン。
共同経営者の孫であるホルトにとっては幼なじみで初恋の女性でもある。
そんな女性を不倫の末に殺したとされたわけで、
当然、真犯人も一族の中にいると考えられた。

容疑者のほぼ全員が同族で同じ会社役員という身分なので、
もう誰が誰なのか半分読み終わるくらいまで区別が付かなくて、
人物をいちいち確認しながら読んでいたから、けっこう面倒でした。

推理しながら読まないとつまらないと書いたけど、
人物の区別が付かないから誰がどこにいたかもわかりにくくて、
その推理が中途半端になってしまうのが難点。
だから2回目に読んだ時のほうが面白かったですね。

単純な事件を複雑に組み立てて、読者が単純さに気がつかないように
伏線を背景に埋没させて描くというのは、けっこう高等技術。

↑何を書いてるのかわかりにくいと思うけど、ネタバレで。

ネタバレ感想


読み終わってみると単純な事件なんだけど、順序が入れ替わっているから複雑になる。
事件としては、(1)轢き逃げ→(2)目撃者からの恐喝→(3)恐喝者を殺害→(4)恐喝者殺害の目撃者を殺
害となるけど、(3)(4)が逆になっているから、ややこしい事件になったわけですね。

最初の殺人が次に起こった殺人の目撃者を消すためのものだったとは。

何気なく書かれている交通事故が発端だけど、
これもアリソンの浮気相手というミスリードで勘違いしますね。

一番のヒントのは動機かな。
ホルトが関係者の一人ひとりに話を聞いていくと、
経営者一族の人間には誰にも動機がないことがわかる。
つまり誰もアリソンを殺してない。

ジャンは結局、本当にホルトを助けたいために協力してただけなのね。
何か裏があるはずだと期待して読んでたのに
そんなに都合よく有能な記者が現れるのはご都合主義と言われても仕方ないかも。




◆  「暗闇の薔薇」 クリスチアナ・ブランド

この本を読み終わったのが、3月10日。
11日の夜に感想を書くつもりが、あの地震でそのまま。
気がついたら半年近く過ぎてました。

1979年発表のクリスチアナ・ブランドの最後の作品。
まさに集大成というにふさわしい傑作。

なんといっても象徴的なのは、冒頭に書き込まれている宣言。

「以上の九人の中に、殺人の被害者と犯人がいる。
この殺人に共謀はないものとする。」


読者への挑戦であり、フェア宣言。
そして、それにふさわしい正攻法の本格もので、謎解き派には堪えられない作品です。

嵐の晩、元女優のサリー・モーンは正体のわからない追跡者から逃れるために
車をとばしていた。
しかしその途中、強風で倒れた木に道をふさがれてしまう。
そこへ反対側から走って来て同じように行く手をふさがれた車が現れる。
先を急ぐ二人は、お互いの車を交換。
サリーは無事に家に戻ることが出来たが、翌日、車の中から死体が発見される。

序盤のさりげない描写が、すべてラストの謎解きにつながってくる。
手品のような伏線、ヒントの出し方。
読み返しながら1つ1つ確認したけど、本当にあれもこれも
きちんと書き込まれていました。
その整合性は見事

関係者をひとりづつ容疑者に仮定して犯行の仮説を立て、実行不可能な関係者を振り落としていくというブランド流の推理展開は、この作品でも継続されています。
ただ犯行の可否を判定するのが、精神不安定&挙動不審のヒロインなので、
やや妄想的仮説になっていますが。
ある意味、過去の自作へのオマージュかもしれないと推察したりもしますね。

ひとつ難点をいえば、ヒロインの性格かな。
常に自分が話題の中心でいないと耐えられないタイプ。
そのためには平気でウソもつく。それで中盤はかなりイラつきます(^^;)
でもこのヒロインのキャラクターがなければ成立しないミステリーなんですね。

以下はちょっとネタバレ


サリーの性格は最後まで読めば同情する境遇なんですが。

ヴァイ・フェザーの噂話の中に登場人物の謎がすべて語られていたところは見事。

サリーの発言の中のヒント。
・尾行者のルフィのものと同じ型、同じ馬力の車
・ルフィのように白い顔
・捕まえようと助手席から差し伸べられた血まみれの手と赤い手袋
・なくした定期券
・アンジェリコの噂話





◆ 「青い虚空」 ジェフリー・ディーヴァー

世界に数人しかいないという天才的ハッカーとハッカーの対決。

原題は「THE BLUE NOWHERE」
BLUEは電気を意味し、NOWHEREは実体のない場所を意味するそうです。
つまりBLUE NOWHEREはコンピュータが作り出す世界。サイバースペース。

ふつうの人たちは、そこで日記を書いたり買い物をしたり情報交換をする。
でもその裏ではクラッキングと防衛との激しい戦いが続いている。
ただ、誰でもネットに接続すれば不正アクセスの脅威にさらされるわけだから、
まったく関係のないことでもないけどね。
事実、ここに描かれる事件の被害者は一般的ネットユーザーなのだから。

冒頭の5ページに渡る用語解説に挫けそうになりましたけど、
2001年の作品なので、だいたいの用語は理解できて助かりました。
最新の技術情報があったらお手上げだったでしょうね(笑)

クラッキングにより引き起こされる殺人事件ということで、
部屋から一歩も外に出ないで事件を起こすのかと思ったら、
この犯人は、ふつうの犯罪者のように現場に出向くんですよ。
変装はするは格闘はするはで、ほとんどチンピラと変わらない。
なぜか肝心なところはアナログだったりするのです・・・

だから戦いの場はコンピュータの中でも基本戦術は戦闘。
相手の作戦を読み、その裏をかく。
ちょっと三国志のようで、基本は戦記ものみたいな感じですね。

登場人物も典型的アメリカミステリー。
おなじみの設定が多いから、そういうところも安心して読めます。
設定はネット世界でも、内容はハリウッドの警察ものです。

余談ですが、プログラムが書けるというのは面白いんでしょうね。



 「失踪家族」 リンウッド ・バークレイ

海外ミステリーとは思えないほど読みやすかった。

前回の「キドリントンから消えた娘」は、娘が消えたミステリーだったけど、
今回は娘だけが残される事件。
分厚い文庫ですが、1行目からストレスなく物語にひき込まれて一気読みでした。

ある朝、14歳のシンシアが目覚めると家族が全員消えていた。
いなくなったのは両親と兄の3人。
家の中は前夜のまま片付いていて、犯罪を思わせる証拠はどこにもない。
シンシアも夜中に不審な物音などは聞いていない。
変わったことといえば、シンシアが前夜ボーイフレンドと夜中まで遊んでいて、
父親に強引に連れ戻されたことくらい。

一番の謎は、なぜシンシアだけが無事に残されたのか?ということ。
そのためにシンシアは、ずっと彼女が家族の失踪に関係しているという憶測に
傷つけられていた。

時は過ぎて25年後、
結婚して夫と娘と暮らすシンシアは自身の過去に決着をつけるために
テレビ番組に出演、事件についての情報を求める。
しかし番組放送後から、シンシアの周りでおかしな事件が起こり始める。

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挿入されている謎めいた会話が、過去なのか現在のことなのかもわからないし、
シンシアの言動も不安定で、読者もシンシアを信じていいものかどうか
不安を感じながら読み進めることになります。

さらに25年後に初めて語られる関係者の新証言もあって、
謎と謎解きが繰り返されていくうちに、新たな殺人事件が起こる。
そんなサスペンス的な盛り上がりもあって、本当に見事に組み立てられた小説でした。

続きはネタバレで

こういう小説の難点は、解決した後に、
「あ〜やっぱり」になってしまうところなんですよね。

真相がわかってみれば、ありがちな二重生活で、
イーニッドが単純に殴りこんでいればワイドショーレベルで終わり。

それをこれだけ不思議な事件に仕立てた作者が見事ということでしょうか。


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