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本の感想
2010年-2


「キドリントンから消えた娘」
「灰色の虹」
「翳りゆく夏」
コリン・デクスター
貫井徳郎
赤井三尋
「白銀ジャック」
「プラチナデータ」
「プレーグ・コートの殺人」
「殺意」
東野圭吾
東野圭吾
カーター・ディクスン
フランシス・アイルズ

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 「キドリントンから消えた娘」 コリン・デクスター

これも名作シリーズかな。

若い娘が失踪した事件をモース警部が捜査。
すべての関係者が容疑者となるが、捜査が進むうちに、すべての関係者の容疑が晴れてしまう。
これはもう犯人版「そして誰もいなくなった」?
実際に38章のエピグラフには「そしてそれから2人になった」と書いてある。

昼休みを終えて高校に戻る途中で姿を消した娘。
警察の捜索にもかかわらず消息不明だったが、失踪の2年後に突然家族の元に手紙が届く。
その手紙を手掛かりに再捜査が開始されるが、担当した刑事が事故死。
事件の背景には何が隠されているのか?
捜査はモース警部に託された。

娘の家族や友達、学校関係者を一人づつ取調べていくと、
さっそく怪しい事実を発見。
それを元に仮設を立て、容疑者を特定する。
これで解決かと思うと、新事実が出て来て犯行が否定される。
すぐに次の容疑者探し。また犯行仮説を立てる。

ずっとその繰り返し。
モースの仮説では、娘自身も生きていたり死んでいたりする。

この事件は本当に解決するのかと心配になった頃、急転解決。
なにかいきなり一件落着で、真相に付いていけなかった(笑)

とにかく真面目なのかドタバタなのかよくわからない(笑)
次々に仮説を立てて犯人を決め付けるけど、証拠はないしね。
強いて言えば、推理の迷走が楽しい一作です。




 「灰色の虹」 貫井徳郎

待望の貫井徳郎さんの社会派作品。
アクシデントの積み重ねで不幸のどん底に落ちていくところまではいつも通りですが、
そこから抵抗して復讐劇に・・・

殺人事件の冤罪で有罪になった江木雅史。
彼を有罪に落とし込んだ関係者が次々に殺されていく。

冤罪はなぜ作られるのか?
捜査する人間の思い込み、予断、偏見による捜査ミス、
証人の記憶違い、裁判での審議不充分。
思いつくのはそんなところですが、この本でも予想通りに進みます。

捜査や裁判に関わった人たちが、みんな少しづつ自分の仕事に真摯さを失っていた。
その結果、江木の無罪の主張は受け入れられず有罪判決が確定してしまう。

小さなミスが重なって大事故が起こるというのと同じ状況ですね。
意図しない小さな無責任の積み重ねで一人の人間が殺人犯にされてしまう。
そういう構成はわかるのですが、
それにしては人物をデフォルメし過ぎじゃないでしょうか。

特に伊佐山、あれではほとんど犯罪者。
証拠より自白、自分の印象を重視する昔かたぎの刑事という存在はあり得るけど、
そういう枠からも完全に外れてます。

目撃証人も安っぽい刑事ドラマのような設定。
刺激が欲しいという軽い男ではなくて
無意識に相手に迎合して相手が自分に求めている答えを作り上げてしまう。
悪意のない虚言という設定のが怖かったんじゃないでしょうか。

ところで、みなさんの江木雅史は、どんな印象ですか?
殺人の罪をきせられて家族も人生も失った不幸な人。
もちろんそれはまったくその通りなんだけど、
仕事中に突然上司に掴みかかるって、ふつうじゃないような気がしてしまうんですが。
おとなしいけど、切れるとなにをするかわからないタイプに見えました。

続きはネタバレです。


裁判官の妻の浮気相手が江木かと思ってました。
そうでないとすると、ずいぶん都合よく浮気してるものだと。

まあ、腐臭なんて書いてあればミステリーファンは、そういうことを予想しますよね。
貧しかったら、ものがないから腐らせないだろうし、
一応主婦なんだし。

だからそこはいいんだけど、殺害方法が謎。
おばさんは人を車道に突き飛ばしても姿が見えない?

ふつうのおばさんというのは犯罪には一番遠い存在かもしれないけど、
それでも誰かが何か言うんじゃないのかな?
そういう証言も捜査刑事が無視したってこと?

たしかに聞き込みで写真を見せて男という先入観を抱かせてるのかもしれないけど、
小説的には蛇足なのかもしれないけど、
ミステリーならちゃんと殺害方法を説明して欲しかったです。


◆  「翳りゆく夏」 赤井三尋

第49回江戸川乱歩賞受賞作にして、キムラ弁護士絶賛という本。

それなのに、実はあまり期待しないで読みました(^^;)
でも小説としては充分面白かったです。
ただ、乱歩賞だと思うとがっかりしますね。ごくごくふつうの事件小説です。

20年前に起こった乳児誘拐事件。
その犯人の娘が大手新聞社に記者として採用された。
その事実を週刊誌にスクープされたことから、
新聞社は独自に誘拐事件の再調査を始める。

誘拐犯である娘の父親は、事件当時に逃走の過程で共犯者とされる女性と共に事故死。
しかし、さらわれた赤ん坊の行方がわからなかったことから、
さらに共犯者がいる可能性も指摘されていた。


20年前に起こった誘拐事件を再調査していく過程は面白い。
再現ビデオのように描かれる事件当時の状況も緊張感がある。
でも、それ以外のところは中途半端な印象です。

当事者である娘と、その友人たちの性格がわかりにくい。
しかも、そのわかりにくさは「変わった性格の娘」で片付けられてしまう。

また、お手伝いの千代さん。
「お嬢さんの気持ちを解きほぐせる秘策」も予想とおりの内容。
まさかそういう話をするわけじゃないだろう?と思ったら、
そういう話しか言わなかった。これはびっくり。
あれで説得されるのは、よほど素直な人だけだろうと思うけど、
よほど素直なお嬢さんだったということです。

誘拐犯の娘が新聞社に記者として採用されたということは、
再調査のきっかけでしかないのだから本人を登場させる必要はないのでは?
若い女性を登場させなければ!というテレビ的サービスのような気がします。
そんなドラマ脚本的サービスが多いのも散漫な印象になる要因かも。

この小説にはいくつかの問題が含まれています。
・犯罪者の家族の問題
・犯罪によって子供を失った親の悲劇
・新聞社や報道の姿勢

でも、どれも中途半端で終わってしまう。
最初から最後まで「なあなあ」で終わる事件ですね。




 「白銀ジャック」 東野圭吾

単行本を数年後に文庫化するのではなく、最初から文庫本で発売される
「いきなり文庫」の新作。

シーズンに入ったスキー場に脅迫状が届く。
内容はゲレンデの下に爆弾を埋めたというもの。
爆弾の位置を教えることと引き換えに身代金3千万円を要求していた。

営業中のスキー場で如何にして身代金の受け渡しが行われるのか?
犯人にとって危険な身代金受け渡しが何度も繰り返される謎などもあり、
伏線も適度に張られているし、全体にスピード感があって面白いです。

とにかく気軽に読める1冊。
休日にゆっくり時間をとって読むというより、新幹線の中などで読むのにちょうどいいですね。

「水戸黄門」のようですが、だからこそ何も考えずに読めて、私は好きですよ。


◆ 「プラチナデータ」 東野圭吾

タイトルと帯の宣伝文句からガリレオ的な科学物かと思ったら
探し物と追跡でした。

謎の宝物(ここでは、あるプログラム)を探しながら敵と味方がチェイスを繰り返すという、サスペンスの王道ですが、それにしては緊迫感が足りないかもしれません。

国民のDNAを登録して犯罪捜査に役立てようとする法案が成立。
しかしDNA検索システムに重大な欠陥があることが判明。
システムの開発者がひそかに欠陥を修正するプログラムを作っていたのだが、その開発者が殺され、プログラムが行方不明になる。

実は事件全体の元となる、ある設定が苦手。
ミステリーとして扱いが難しい設定だと思いますね。
まあ、サスペンス小説だから、これもいいのかもしれませんが。
どうもしろいろと納得できないところが多かったです。

読みながらテレビ朝日の人気刑事ドラマを思い出したわ〜

ちょっとネタバレ

あくまでミステリーでの話ですが、多重人格は作者がどのようにでも設定できるので、どうしても解決編で肩透かしになる印象がありますね。
スズランの存在もきちんと説明つけて欲しかった。




プレーグ・コートの殺人」 カーター・ディクスン

横溝正史が、この作品に刺激されて「本陣殺人事件」を書いたという密室の古典。
HM卿の初登場作品。

かなりオカルト趣味が強い作品で、これはちょっと苦手。

事件が起こったのは幽霊伝説がある荒れ果てた屋敷。
その屋敷には中世の絞刑吏が埋葬されていて、
悪霊が取り憑いているという伝説がある。

その屋敷で降霊会が行われた。
除霊のために裏庭の石室にこもったのは心霊学者を名乗るダーワース。
しかし彼は石室の中で殺されてしまう。
それも絞刑吏が使っていたという剣で。

石室は入り口の他には鉄格子のはまった小さな窓しかなく、
入り口は二重に施錠されていた。
さらに石室の周りには発見者以外の足跡も残っていなかった。

心霊現象のような事件ですが、意外に現代的なトリックで解決します。
伏線も細かく張り巡らされていますが、さりげなくて、なかなか気がつかないかも。
読み終わったあとに、もう1度確認したくなります。

でも問題はとにかく暗いこと!
床板もはがれているような古い屋敷なので、灯りは蝋燭と懐中電灯だけ。
全体の構造もわからないし、誰がどこにいるのかもわからない。

登場人物のセリフのように、朝にならないとどうしようもない状況。
これこそ映像で見たい作品ですね。難しいでしょうが・・・

続きはネタバレに付き反転


マクドネル巡査部長の登場は唐突で、しかも、その言動が充分不審なので、
思わず登場人物リストを見返してしまったくらいなのですが、
共犯者とは思わなかった。
もう少し書き込みが欲しかったかな。




◆ 「殺意」 フランシス・アイルズ

「伯母殺人事件」「クロイドン発12時30分」と共に、
三大倒叙ミステリーと言われている作品。
「伯母」「クロイドン」は好きなんですが、これは苦手。

簡単に言えば、うるさい妻を殺そうとする浮気性の開業医の話です(笑)

倒叙ミステリーの面白さといえば、犯罪者の自己中心的な心理の破綻、
犯行の過程でのミスを探すこと、警察・探偵の追求と言い逃れる犯人の応酬、
そういうものだと思うけど、そのどれもが満たされていないような気がします。

異常心理と言ったって、登場人物が全員屈折してるから、
犯人もあまり破綻しないし・・・

退廃主義の小説家が、愛人との生活を自己弁護的に描く私小説だと思えば、
それなりに評価できるのかもしれないけど、私小説も苦手です(^^;)

ただラストは意外性ありです。そこはバークリーらしい。
このラストのため小説のようです。



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