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本の感想
2010年-1


「死の鉄路」
「夜行観覧車」
「一角獣の殺人」
「フレンチ警部と毒蛇の謎」
「はなれわざ」
F・W・クロフツ
湊かなえ
カーター・ディクスン
F・W・クロフツ
クリスチアナ・ブランド
「白い僧院の殺人」 
「追想五断章」 
「悪魔はすぐそこに」
「殺人者の顔」
「絹靴下殺人事件」
カーター・ディクスン
米澤穂信
D・M・ディヴァイン
ヘニング・マンケル
アントニイ・バークリー

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆  死の鉄路」 F・W・クロフツ 1932年

クロフツ未読シリーズ2作目ですが、これも微妙ですね。
なんというか…、2時間ドラマみたいでした。
轢死事件という衝撃的な始まり方から、サスペンス感溢れるラストまで、
ドラマにするなら見どころ満載といえるかもしれません。

不注意による事故と思われた轢死事件が作為的な殺人と判明。
そこから第二の事件までの二転三転する内容は面白かったのですが、
解決編がどうしても平凡な印象でした。

続きはネタバレしています。



事件を解決したのは結局ブレンダだなんて、
ヒロインミステリーのようではありませんか。
フレンチ警部も、もうちょっとしっかり捜査してくれないと(^^;)

私はブラッグが犯人だと思ったんですよね。
だからブラッグのアリバイ捜査が始まって、検証のために隣町までドライブをするあたりでは、
ワクワクと期待しました。
でも、あっさりアリバイが証明されて肩透かし。

それにあの鉄道工事の詐欺事件なんですが、
これがまたややこしい。
詳しい詐欺の方法は面倒なのですっとばしました。

全体に、もの足りない作品でした。





 「夜行観覧車」 湊かなえ

「告白」は途中で放り出した私ですが、これは面白く読みました。

高級住宅地の中の造成で余った狭い一区画に建つ小さな家。
周囲の大きな住宅とは明らかに違うその家では、
中学生の娘と母親の争う大声が毎日のように近所中に響き渡っていた。

しかし実際に事件が起こったのは、その家ではなく向かいの豪邸。
医者の父親と有名校に通う子供たち、
誰もが羨むような家庭で母親が父親を殺すという事件が起こる。

キレる子供と持て余す母親。
どっちも相手の方が悪いと思ってるから解決しない。
そして母子の対立の理由を理解できないために関わり方を間違え、
さらに混乱を大きくする父親。

母も子も、相手が自分の言い分を理解してくれないことが理解できない。
「この人は何を言っているんだろう?」という不可解に苛立つばかり。

母親と子供の、粘膜でつながっているようで他人より他人の関係。
しかし他人には決して踏み込めない妙に生物的なつながり。

登場人物の一人の言葉にもあるけれど、
女性にしか書けない小説であって、女性にしか理解できない小説かもしれません。

女性にとって子供と家(家庭という意味ではなく建物自体)は
自分の存在証明みたいなところがあるのかもしれませんね。
だから男性のみなさんは、子供の教育とか、引っ越し・新築問題で
いいかげんな返事をすると、家庭が崩壊するかもしれませんよ・・・




 「一角獣の殺人」 カーター・ディクスン

途中まではいろいろと大騒ぎが起こるドタバタ小説ですが、
解決編を読むと、実に細かく伏線が練られた小説ということがわかります。
ただし、推理に難点があるので本格ものとは言えませんが。

嵐で橋が落ち、閉ざされた古城で起きた不可能殺人。
しかもその城には怪盗フラマンドと、その怪盗を追う名警部ガスケが入り込んでいて、
さらに殺人方法はマザーグースの童謡に模した一角獣の角。
捜査するのは、これも嵐で緊急避難してきたH・M卿。

もうここまでで趣向が盛りだくさん。
序盤でお腹いっぱいという気分にもなってしまうんですが、
殺人が起きてからは、ちゃんとしたミステリーになります(笑)

その殺人には目撃者がいて、殺される瞬間も複数の人間が見ていたのだが、
被害者に近づいた人物は一人もいなかった。
しかも近くには隠れる場所もない。

しかも被害者の身元も、わからない。

それというのもフラマンドもガスケも変装の名人なので、
誰もが自ら名乗っている人物である保証がないという状況になっているわけです。
誰にも見破られない変装名人というのもすごいけど…

伏線がきっちり書き込まれていると書きましたけど、
トリックや捜査は適当なところもあります。
だからフランスを舞台にしてるらしい(笑)


ネタバレしてます。反転させて読んでください。



肝心の怪盗フラマンドが、変装してたわけでもなく隠れていたというのは、
推理小説としてはがっかりでしたね。見せ場がないじゃないですか〜(笑)
まあ本格物じゃないからいいんですが。

凶器の『無痛畜殺機』も、わかるはずないですよね。
ヒントもないし(ヒントあってもわからないだろうけど)。
でも、すごいものを持ち歩いてる犯人だわ〜

『囁きの回廊』も都合のいい設定。
お城に抜け道は付き物だからいいんですが、
とりあえず、お城というのは陰謀には便利なものですね。





 「フレンチ警部と毒蛇の謎」 F・W・クロフツ

最後の未翻訳作品だったそうです。
なぜ未翻訳だったのかわかりませんが、まあ、最後になるだけの内容かもしれません。
全体に中途半端な印象が残りました。

前半はある種の倒叙もので、犯人側の心情が描かれ、
解決編はフレンチ警部の捜査が中心。

ということで、事件が起こるのは全体の半分近くが過ぎてから。
気の短い人は飽きるかもしれません。

倒叙部分も捜査が描かれる部分も省略が多いので、
推理としては、あまり楽しめませんでした。
推理小説というよりは平凡なふつうの社会人が追い詰められて、
道を外していく過程を描いた小説と言った方がふさわしいかもしれません。

平凡なふつうの人が殺人事件を起こしたらどうなるのか、という話。

続きはネタバレ


殺人実行犯であるキャッパーの行動、あるいは自供がいっさい書かれていないので、
実際になにが行われ何が起こったのか謎のまま終わる。
フレンチが殺人であることを確信したきっかけになった捕獲用具はどこへいったのか?
ジョージはたしかに小包に入れたはず。
ミスで忘れたなら、そう書いてくれないとすっきりしない。

ドアノブの仕掛けは、設計図付きで詳しく書かれても、
よほど工作に詳しい人でないとわからないでしょう。

キャッパーもすべての罪を負って自殺するとは、悪人ではなかったということなんですね。





◆ 「はなれわざ」 クリスチアナ・ブランド

これはまた挑発的タイトルとでも言うのでしょうか。
トリックの「はなれわざ」というより、推理小説としての「はなれわざ」ですね。

このトリックはいくつかの前例があるし、ミステリー作家が1度は挑戦するトリックともいえるけど、これだけ長いのは、やはり"はなれわざ"

クリスチアナ・ブランドの作品は容疑者が限定されるクルーズド・サークル的な作品が多いということですが、この作品も一応、孤島もの。
ただし、完全に閉ざさた孤島ではなく、そこは観光地でもある密輸と海賊の島。

イタリアの孤島を訪れたイギリスの観光ツアー。
彼らが滞在する島のホテルで、そのツアー客の一人が殺される。
容疑者はツアーの中で被害者と交流があった6人。
しかし、犯行時刻にはその全員が浜辺や海に出ていて、
ツアーに参加していた警官に目撃されていたという不可能犯罪。

ホテルには他の観光客がいるし、島の住人もいる。
もちろん警察もある。

でも、この警察がいいかげんな捜査しかしない警察で科学捜査は一切なし。
指紋はとらない、血痕は調べない、凶器もアリバイも関係ない。
印象だけで犯人が決まる、恐るべき警察。

そんな中で容疑者ともされるツアー客の面々は、かばい合い、
疑い合い、島から出るために推理を続けます。

人物描写が詳しくて長いので飽きそうになりますが、
それこそがポイントなので注意深く読みましょう。

続きはネタバレで



逆バージョンの入れ替わりは仮説として検討されているので、
完全にアンフェアとまでは言えないけど、フェアでもない。

144ページ「ルーヴァンはいつまでも怒っている性質ではなかった」
のような記述はちょっと微妙。

冒頭の着陸シーンが最後の決め手につながるところは気がつかなかった。
高所恐怖症は重要な伏線だけど、すっかり忘れてました。

ルーヴァンの性格が事件の前後で変わっていることは再三書かれてるけど、
殺人事件があったら誰だって動揺すると思ってしまいますよね。
でもたしかに動揺しても服装のセンスは変わらないとは言えますね。

ツアーメンバーは短い付き合いだからごまかせても、
イギリスに帰ってからは、どうするつもりだったんだろう?






◆  「白い僧院の殺人」 カーター・ディクスン

古典ミステリー名作中の名作の再読です。
10代の頃に読んで衝撃を受けた1冊。
H・M卿もの。


ロンドン郊外の古い屋敷、その別館で女優が殺されていた。
別館は池の中州に建つ館で、高く石を敷き詰めた歩道で外界とつながっていた。
遺体が発見された時、雪に覆われたその歩道には発見者の足跡しかついていなかった。

たしか中3くらいで読んだ作品です。
本当に久しぶりの再読だけど、また騙された(^^;)

足跡をつけずに出入りした犯人については、登場人物たちが様々な推理を発表します。
このトリック、これもミステリー好きなら、ほとんど知っているものばかりではないでしょうか。
でも当然、そのどれも当てはまらないわけですね。
真相はちょっと肩透かしかもしれないけど、充分意外です。

王も滞在したという古い屋敷の謎めいた雰囲気、
(廊下の電灯を消すと真の闇になる屋敷ってすごいわ)
不可能犯罪と、論理的、かつ合理的結末。

本格推理のすべての要素が、集約されている作品ではないかと思いますね。
作者の意図、詐術、伏線、仕掛け、犯人、いろいろな要素が詰め込まれています。

続きはネタバレ感想です。


白い僧院に到着する前の関係者の紹介は、ベネットが語るだけなのでわかりにくかった。
でもそれが伏線なんですよね。

「雪は1cmほどしか積もっていなかった」
でも凶器のラジエーターキャップが取り替えられてることは気が付かないですね。

ルイーズ本人が最後のほうまで登場しないのは、なにかトリックがあるのかと思ったら、
単に精神不安定なだけだったんですね。





◆  「追想五断章」 米澤穂信

米澤作品は4作目。
以前に読んだ3作は、どれも既存のミステリのパターンに当てはまらない意外性に富んだものだったけど、この作品も期待を裏切らない出来でした。


古書店でアルバイトをしている菅生芳光は、店を訪れた女性客から、ある依頼を受ける。

それは、その女性の父親が書いた5編の小説を探して欲しいというもの。
5編の小説は主に同人誌に投稿されたもので、すべてがリドルストーリー。
そして女性の手元には結末の1文だけが保存されていた。

菅生が、その父親を知る人に話を聞くうちに、
5編の小説は過去のある事件に関係するものだということがわかる。


最近、国内ミステリーを読み始めると眠くなって困っていたのですが、
この本は謎めいた冒頭から引き込まれて、久しぶりに一気読み。

挿入されているリドルストーリーが面白いんですよ。
そして隠されていたラストの1文も、また謎めいている。
この小説にはいったい何が隠されているのかと、最後まで引き込まれました。

余計なエピソードは最小限に押さえられて、
すっきりまとまっているところも読みやすい1冊。

以下はネタバレ感想です。



プロローグが書き込まれているので、事件の謎解きは予想出来るし、
そのとおりに終わるわけですが、なんといっても5編の短編が面白い。

はじめに可南子から示された最後の1文は、たしかに結末にはなっているけど、
そのままだと、どうも謎が残ってしまう。

そこがすっきりしないところだけど、
その文を他の作品のラストに当てはめると、伏線ともぴったり一致して収まる。

眠っている少女が地獄に堕ちないのが不思議なほど罪にまみれてるなら、
火の中から現れるはずだし、一緒に殺されることを望んでいた被告の妻が嗚咽するなら
夫は一人だけ殺されたことになる。このあたりも見事な展開でした。

でも実は、可南子の手元にあったラストの文章を繋げると、
それが事件の解決になると思っていました。
そう予想した人も多いのではないでしょうか。






◆  「悪魔はすぐそこに」 D・M・ディヴァイン

面白かった〜!
まだこんなにすごい作家が埋もれていたんですね。
1966年の作品ですが、翻訳されたのは2007年。
私には「ウォリス家の殺人」より、こちらの方が好みでした。

事件は、大学内のスキャンダルに関係する連続殺人。
ハードゲート大学のハクストン博士は横領の疑いで大学を逐われそうになっていた。
しかし博士は大学で過去に起こったあるスキャンダル事件の真相に関する証拠を握っていると言い、自分を追い出せば、その証拠が明るみに出ると脅していた。
そんな折、大学の書類を調べていた事務職員が襲われ、さらにハクストンは自宅で
ガス中毒死する。

現在起こっている事件の謎が解明されるごとに、過去の事件の謎が深まる、
8年前に何があったのかという興味と、失われた書簡を探すという宝探しの要素、
謎を解いて扉を開けると、また次の扉が現れるというようなゲーム的面白さがありました。

不満と言えば、捜査や探偵役の推理が偏っていること、
警察は真相からほど遠い仮説を追うばかりで、肝心な証拠が何も見つからないこと、
わかりきった確認を後回しにしていることなんどですね。

続きはネタバレ



倒叙物(というのも最後まで読み終わってわかるわけですが)と
探偵役の調査が交互に描かれる複雑な構成。

手紙を焼いた母について「僕をかばうためだろう」と言ったのは真実だったわけですね。
でも衝突を避け真実から目をそらすのががピーターの性格だと思っているから、
ピーターの発言こそが誰かをかばっていると思ってしまう。上手い。

でも、せっかく遠くまで重要な証拠となる書類を捜しに来たのに、
翌日に延ばすところはかなりあやしいと思ってしまいましたが。
まして嫌疑がかかっているのは婚約者。
ふつうなら一刻も早く読みたいと思うはず。

ヴェラについては、調査書類が残されてるのに調べようとしない警察はおかしい。







 「殺人者の顔」 ヘニング・マンケル

解説によると、スウェーデンで人気No.1の警察小説だそうです。
スウェーデンの小説ははじめて読みますが、
最初の感想は、どんな国も同じような問題を抱えているということでした。

推理小説ではなくて、警察小説です。
もちろん小説のレベルは高いのですが、犯人逮捕で事件が終了してしまい、
すべての謎が論理的に解決されるわけではないので、
なんとなくモヤモヤしたまま終わってしまった気がします。

小説としては、とても面白い。
凶悪事件の発生と警察の対応、次々に起こる新しい展開、
とてもスピードのある展開で、まさにドラマか映画を見ている気分。
(当然、すでにドラマ化されているんですね)

捜査を主導するのは、妻と娘に捨てられたさえない中年刑事。
万国共通、小説の警官は家庭問題で悩む・・・

作家としては一流ですね。なにしろ登場人物を確認するためにページを戻るという作業を1度もしなかったんですから。

海外ミステリーは名前とキャラが一致するまでに時間がかかるので、
クリスティ作品でさえ、名前を覚えるまで何回か前のページを確認することがあるのですが、この作品ではそれがなかった。
つまり登場人物の特徴を、最初の1段落で印象付けることが出来ているというわけです。
そこは読みやすかったです。

続きはネタバレ


残酷な拷問は、金のありかを聞き出すためだけのものだったということ?
年寄り夫婦だから、そこまでやらなくてもと白状すると思うけど。

なにか憎悪を掻き立てることがあったのか?

老女の首を絞めたのは誰??
馬の餌をやったのは誰?
犯人が金を探していて、偶然に馬の目の前に干し草を投げたというだけで解決?

隣の夫婦が1月5日の午後、殺された老人は家にいたと言ったのは勘違いというだけ?

いろいろ疑問が残るのですが・・・





◆ 「絹靴下殺人事件」 アントニイ・バークリー

バークリーの4作目で、「毒入りチョコレート事件」の前年に書かれた作品。
「最上階の殺人」が8作目だから、今のところ新しい作品から遡って読んでることになるわけで、キャラクターシリーズでもあるし、やっぱり発行順に読んだほうがわかりやすいかもしれないですね。

ロジャー・シェリンガムは新聞に連載しているコラムの読者から手紙をもらう。
それは消息のわからない娘を探して欲しいという依頼。

その娘は家計の苦しい家を出てロンドンで働いていたが、
急に音信がなくなり家族は心配していた。
同封されていた娘の写真を新聞社の人間に見せたところ、
彼女がコーラスガールとして舞台に立っていたことがわかる。
そして娘の芸名から、彼女がストッキングで首をつって自殺していたことが判明。

この結果を、娘の家族にどう伝えようか悩んでいる時に、
同じ方法で自殺した娘が複数いることがわかった。
連続する若い女性の自殺の影に、共通する人物の存在を感じたシェリンガムは独自に調査を始める。

これは先に読んだ2作とは違って、推理ゲームのような論理の遊びではなく、
探偵としての行動がメイン。

仮説の検証がなくて、いきなり行動に移るところや、
証拠はあまり重要視せずに、行動で犯人を追い詰めて行く過程はあまりにふつうで、
なにか物足りなさを感じてしまいました。

続きはちょっとネタバレ



無差別連続殺人で1つだけ他の事件と性格が違うものがあれば
それがポイントとなることはミステリーファンなら周知。
この作品では、伯爵令嬢レディ・アースラ事件。

木の葉を隠すなら森の中という理論から言えば、アースラの関係者があやしい。
そこまでは定石だけど、動機は快楽殺人だったとは驚き。

最後の実験は、いくらなんでもやり過ぎでしょう。
それに、これで犯人が自白するというのもわからない。






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