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最近読んだ本
2008年-3


「毒入りチョコレート事件」
「スタイルズ荘の怪事件」
「おそろし」
アントニー・バークリー
アガサ・クリスティ
宮部みゆき
   

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 「毒入りチョコレート事件」 アントニー・バークリー

古典名作シリーズ(^o^)

学識ある著名人が集まって殺人や毒物をさかなに語り合う犯罪研究会。
そこに持ち込まれた毒殺事件をメンバーが独自に調査。
それぞれの推理を発表したあとに、批評し合うことになった。

最初、安楽椅子探偵ものかと思ったんですが、このメンバーは聞き込みをしたり、証拠を集めたり実際の調査もしてしまうんですよ。
素人がそんなことして大丈夫なのかと思うけど、要はロンドンの上流階級という、誰もがどこかで誰かにつながっている狭い世界の話なので許されてしまうようです。

事件を持ち込んだのが現職の警部という事情もあるだろうけど。
そこには別の意味も・・・

その毒殺事件とは、試供品のチョコレートに毒が入れられていたというもの。

ロンドンの由緒あるクラブに所属する人物・ユーステス卿、彼の元にメーカーから新作のチョコレートが送られてくる。試食して感想を書いてほしいというもの。

しかし新作チョコレートのモニターになる気はないユーステス卿は、たまたまクラブに居合わせたベンディックス卿にそのチョコレートを譲る。
ベンディックス卿は妻にチョコレートを渡す。
食べたベンディックスの妻が死亡。
チョコレートから毒物が検出。

事件のあらましを聞いた研究会のメンバー6人は独自の調査を行い、一晩に一人づつ推理の結果を発表することになった。少ない手がかりから8つの解釈と6人の犯人が指摘される。

この単純で関係者も少ない事件に8つもの解釈があることに驚き。
読んでいるとどれも納得するものばかり。
しかし、そんな説得力のある解決も次の日になると他の会員によって覆されてしまう。

推理と、それに対する反論が展開されるのだけれど、証拠がすべて開示されてるわけではないので、読者は傍観者でしかないのが残念。
冷静に考えると、何も証明されてないわけですしね。

そういう意味ではやや消化不良気味の読後感でした。

以下はネタバレ。反転させて読んでください。



アリシア・ダマーズは毒入りチョコレートの小包を友人に託して送ったということだけど、その友人は差出人がアリシアの名でないことを疑問に思わなかったのかな?

この小包の行方は疑問が残るところなのだけれど、それを突き詰めようとするところでアリシアが退席してしまってチタウィックの論証も終わるので、尻切れの印象になってしまうんですね。

最初からずっと気になっていたのは、
ユーステス卿はチョコレートが好きかどうかということ。

それによって事件の真相はかなり違いますよね。
最初に確認されるべきことだと思うけど、誰も確認してない。

最後の方になってアリシア・ダマーズによってユーステス卿はメイスン社のチョコレートボンボンが好きだったということが語られるけど、もっと最初に証明してほしいことでしたね。






◆ 「おそろし 三島屋変調百物語事始」 宮部みゆき

タイトルに百物語とあるとおり、ふしぎ話の連作もの。

怪異もの、情念ものと語られて、最終話の「家鳴り」で一応の解決となります。

聞き手となるのは17歳の娘・おちか。
川崎の旅籠の娘だが、ある事件の当事者となり、自分の心から逃げるしかない生活を送っている。
おちかの叔父である三島屋夫婦は、そんなおちかの心を救うために
同じように心に重荷を持つ人を集めて、話を聞かせることを考えた。

こうして三島屋を訪ねる人々が語る話が1編づつ収められてるわけですが、
怪談という意味での怖い話ではないですね。
人の心の闇、情念や執念の恐ろしさが主になってます。

そういう意味でおそろしい話だと思ったのが「邪恋」と「魔鏡」。

「邪恋」では、主人公とも言えるおちかが関わった事件のあらましが語られ、
「魔鏡」は、ある一家の崩壊の話。
特に「魔鏡」の親が私には怖かったですね。
真面目で堅気のふつうの人の、己でさえ気がつかない邪悪。
それが垣間見えてしまうところがおそろしい。
悪人の悪より善人の悪の方が救われない気がしてしまいます。

最後の解決は、宮部さんらしい優しいラストです。
それがなぜか救いに思えない私は、やっぱりひねくれものなのかな〜

そういえば最近読んだ篠田節子の「聖域」。
あの最後で語られる荒涼のほうが私は救われる気がしますね。




 「スタイルズ荘の怪事件」 アガサ・クリスティ

古き良き探偵小説ですね。
久しぶりの再読ですが、メインのストーリーはほとんど覚えていませんでした。

枝葉末節だけ覚えてるんですけどね(^^;)
例えば・・・
お屋敷に滞在するという休暇の過ごし方。
晩餐の前に自宅のテニスコートで楽しむ軽い運動のテニス。
正装に着替えての晩餐。
執事とか召使いという人たちがいる生活。
毒殺といえばストリキニーネ。

日本のミステリーとはまったく違う世界で起こる事件。
当時、こんなの推理できないよ〜と思って読んでました。
ということで学生時代はマイベストでは10位くらいの作家だったんですよね。

あらためて今読んで思うのは、やっぱりクリスティの描く人間関係は
中高生向きではないということ。
少し人生を経験してから読んだ方が味わい深いです。

以下はネタバレです。反転させて読んでください。


暖炉の火がヒントだったとは。
さすがイギリス真夏でも夜は冷えるのねと思って読み流しました(^^;)

ジョンとメアリーの夫婦がお互いの感情を隠すから、
ややこしいことになってしまったのよね。

よく騎士道精神にあふれた若者が推理を混乱させるけど、
ローレンスはその典型だったのね。

犯人が手紙を書いて
それを夫婦の書斎の引き出しに入れたままというのはかなり間抜け。
いくら鍵付きでもね。

でも沈殿するストリキニーネなんて、わからないよね〜


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