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最近読んだ本
2006年・
その1



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 震度0   横山秀夫

読み終えて一番感じたことは、タイトルへの違和感。

阪神大震災のあった当日にN県の警察官僚が姿を消した…
失踪なのか、事件に巻き込まれたのか?
いずれにしても読者が想像(期待)することは似たようなこと。
それなのに内容は肩透かしなんですよね。

もちろん作者が書きたかったことはわかるんですよ。
遠くの災害より自らの保身が大事な警察官たち。
彼らの人としても小ささや俗物性を描きたいという意味は。
でもそれならタイトルは変えるべきでしょう。

横山ファンの方たちの間でも評価は高くない作品らしいですが、
ただ、最近の世の中の人々の自分勝手さに嫌気がさしてる人には
露悪的に楽しめるかもしれません。
「所詮みんなアホばかり。こんなものよ」と諦められる(笑)

横山さんも世の中に嫌気さしてるのかな?
だからこそタイトルが惜しい…



◆ チーム・バチスタの栄光 海堂尊

第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

本当に新人とは思えない大人の文章と人物描写、
なにより自己完結の文章でないところがいい。
他人に読んでもらうための文章を書きなれた人なんだろうと思ったら、作者は本当にキャリア18年の医師だそうで、だから説明することに慣れてるんですね。
若い作家さんが白鳥圭輔のようなキャラを書いたら、
たぶん恥ずかしくて読めない(^^;)

探偵役となるのは厚生労働省技官の白鳥圭輔と、神経内科の医師田口公平。
この田口公平が、なんとなく伊良部先生を思い出すキャラクターなんですよ。
(伊良部先生は奥田英朗さんの「空中ブランコ」「インザプール」に登場する精神科の医師)
奥田作品とこの本をを読まれた方なら、わかっていただけると思う。
癒しの部分を田口先生、変人部分を白鳥が受け持っているイメージかな。

しかし、ここで起こる事件は伊良部シリーズよりずっと深刻。
高度な心臓外科手術の失敗と、その原因を探るものだから。
医学専門用語も多いし、手術室の中の事件なので、
原因を推理することは読者にはほとんど不可能でしょう。

かといって難しい言葉ばかりが並ぶ退屈な内容ということはまったくありません!
謎解きの過程はむしろ心理ミステリー。
対話によって人の本音を探り出す方法です。
人と人との関係から本人が隠している心の奥の不安などを引き出す。
そういう方法で推理は進んでいきます。

白鳥の理論が現実的なものかどうかわかりませんが、私たちは自分の意思で言葉を話しているつもりでも、意外に操られている部分も多いのかもしれないですね。

でも、こんな小説を書くとは、お医者さんは患者やその家族を通して、普段は隠している人間の裏の性格みたいなものを見てしまうんでしょうね。

とにかく新しいタイプのミステリーとしてお薦め。
続編も執筆中だそうです。

この作品とは直接関係ないことですが、
記者会見をする人はもう少し戦術を練ってから会見した方がいい。
自分の考えや思いをそのまま口に出したのでは逆効果になることもある。
時には反対のことを言った方が聞いている人間の心理を動かせる場合もある。




◆ ゼロの蜜月  (高木彬光) blog版

実は霧島三郎シリーズはあまり読んでない。
たぶん1〜2作。
この作品も記憶にないから、はじめて読むのだと思う。

ストーリーは新婚の夫には隠された過去があったという、過去探し。
結婚式の夜、新婚の夫が突然電話で呼び出され、出かけたまま帰らなかった。
そして翌日、彼は死体になって発見される。

いつも書いてますが、過去の謎を探すのは好きなパターン。
ただ、この夫にはきちんとした職業があり兄弟も友達もいる。
謎はあるけど暗黒的なものではなく、言ってみれば社会派。
そこは霧島シリーズです。

けっこう長い作品ですが、殺された夫の生前の謎めいた行動や、
よりによってなぜ新婚の夜に犯行が行われたのか?、など、
興味を引く謎がバランスがよく配置されているので一気に読めました。
最後の解決は唐突な感じもありますけど、サスペンスと考えれば盛り上がるところかもしれませんね。

あとがきによると、これは作者が「新本格」に挑戦した作品だそうです。
「新本格」という用語は60年代の初め笹沢左保が提唱したもので、
当時は現在とは違う意味で使われていたらしい。
そんな前から使われていた言葉だったんですね〜
でもその頃の「新本格」とは、謎解きパズルにのみ終始する「本格」に対して、
トリックの他に社会的趣向を加えたものを、そう呼んだとか。
今と意味が逆だったんですね。




◆ 扉は閉ざされたまま  (石持浅海) blog版

舞台劇を見ているような緊張感が味わえる作品。
これだけ謎解きパズルに終始した作品は最近あまりなかったような気がする。
ミステリーを読む時にメモを取るタイプの人には楽しめるのではないかな。
そのため、動機については目をつぶろうという気持ちにさえなるのである(笑)
あの動機は誰でも弱いと思うでしょう。でもパズルの場合は許されるのです(^^)

内容は倒叙物。
冒頭の殺人シーンから始まり、犯人が自分以外の5人を如何に自分の目的に合わせて都合よく誘導していくかが主眼になる。

登場人物は被害者を含めて7人のみ。
ほとんどのシーンが豪邸の1室で繰り広げられ、一晩のうちに終わる。
一般的にはこのような展開の場合、閉ざされた空間での犯人探しとなるのだけど、
ここではその事件そのものが発覚しない。
つまり死体のある部屋の「扉は閉ざされたまま」。
そして、その扉を開けさせないようにするのが犯人の目的。

しかしそこで登場人物の一人の女性が探偵役となり、
扉が閉ざされていることの矛盾を1つ1つ指摘する。
それに対して犯人は反論。
この二人の、緊張感のあるやり取りが面白い。

とにかく読んでいるうちはすっかりのめり込みました。
ただ読み終わってから考えると、犯人の犯したミスはどれも決定的なものではないのに気付くのですが。この続きはネタバレで。

ここからネタバレ。 ネタバレ掲示板はこちら

【  眠くなったらベッドが奥でも手前でも気にしないだろう。
手前に倒れこむのが自然だとしても、習慣的に、あるいは瞬間的に奥の方が落ち着くと判断するかもしれない。
奥のベッドといっても10mも離れているわけじゃないから。
どっちにしても証拠となるようなことではないよね。

眼鏡が枕元に置いてあったことでも決定的な証拠にはならないと思う。
私もメガネ派だけど、入浴する時にホテルの洗面所に置いたりしない。
なにしろ最近のレンズは湿気に弱い。
その上、はじめての場所では洗面所のほうが壊したりしやすい。
旅先で壊れると不便だから、むしろ大事をとってサイドテーブルに置く。
目が悪いといっても、湯船が見えないわけじゃないから。
大浴場や露天なら不自然かもしれないけど、部屋のバスルームなら
眼鏡なしで入浴するのはありえると思う。
とにかく、これも習慣の問題でしょう。
 】




◆ 時計を忘れて森へ行こう (光原百合)  blog版

日本人はやっぱり言葉を信用していないのかな?
自分の感情や考えを言葉で説明することを省略することが多いし、
また他人の行動や言葉に説明を求めることもしない。
ここに登場する人たちもそう。
1話に出てくるのは、突然女生徒を殴った高校教師。
殴られた生徒は明るくてまじめなクラスの人気者。
殴った教師も生徒に信頼されている優秀な教師。
ではなぜ殴ったのかということが謎となる。
つまり、この教師が殴った理由をすぐに説明していれば、この小説は書かれる必要がない(笑)

2話目は結婚式の直前に婚約者を交通事故で亡くした青年の話。
青年は悲しみにくれるが、それと同時に自分に内緒で旅に出て事故に遭った婚約者の行動に不審を持ち苦しむ。
これも、婚約者が事前に旅に出る理由を話していれば、事故の悲劇はあっても
ミステリーにはならない。

3話目は突然食べ物を受け付けなくなった女性の話。
彼女もまた自分の心をだましながら暮らしていた。

3つの謎はすべて人の心の奥に隠された謎。
こういうものを溜め込んでしまうから、人間関係がややこしくなりやすいのよね〜(^^;)

人がもっとしゃべってしゃべってしゃべりまくれば、森へ行かなくても癒されるようになるのかもしれない。

ところで、この中に出てくるシークという森林保護団体は、清里にあるキープという実在の団体がモデルだそうですが、行ったことあるような気もする。
キープのサイトには、キャンプのゲストとして「やまね工房」さんのリンクもありました。




◆ ロズウェルなんか知らない (篠田節子) )  blog版

UFOで村おこしをする話。

最近、旅館再生という番組をよく見かける。
つぶれかけてる旅館をリニューアルして、客を呼べる宿に変えるという内容だが、そこで一番大きな障害となるのが、古いサービスの固定観念から逃れられないご主人。
私が見た、ある宿のご主人は、部屋数を減らして個室露天風呂付の広い客室に変えるというプランに最後まで同意しなかった。
この本に出てくる地方の民宿の主人たちも同じ。

舞台は駒木野という過疎に悩む小さな町。
20〜30年前までは首都圏から一番近いスキー場としてにぎわっていたが、
交通機関の発達とともに、新幹線からも高速道路からも遠い駒木野は見捨てられていった。町では去っていった客を呼び戻そうと、行政主導でありきたりの村おこしを計画するが、ことごとく失敗。いよいよ危機感を感じた青年クラブの面々は、オカルトによる村おこしを考える。UFO、古代遺跡、不可思議現象・・・。役場や老人たちの批判にさらされながらも、徐々に客は集まり始めていた。

しかし、そんなも青年クラブのメンバーも観光やイベントについて、よくわかっているわけではない。計画を実行するたびに、予想もしない結果が出てしまう。それでも彼らは人を集めることの裏側を学び、開き直っていく。

・イベントとは盛り上がるための場であって、テーマが問題なのではない。
・他のところと同じものがないからダメなのではなくて、他と違うから人が集まる。
・すべてのことに説明が必要なわけではない。説明できないことに魅力がある。
・人は隠されたものを知りたがる。
・テンションの高さというものは演出である。
・バッシングという名の宣伝。

お客さんを集めるということは、高度な発想の転換が必要なんですね。
見せたい人と見たい人、売りたい人と買いたい人、ふつう私たちは両方の立場を交互に体験している。それでも立場が変わると、相手の求めるものが見えにくくなる。
たとえば、自分が客である時は、人の入らない店の欠点がすぐわかる。
ところが、店側の人間になってしまうと、その欠点が見えなくなる。
性別や年齢、職業によって求めるものも違うものね。それだけ、相手の立場になって考えるということが難しいということなんだろう。そう考えると、客がそれを求めていることに気づかないことまで求めさせてしまプロはすごい。

ここまで書いていて思ったけど、これはネット初心者がいきなりサイトを始めて、
トラブルに巻き込まれてしまった時の騒動記とおなじ展開かもしれない(笑)

ちょっと前には、なにげなく書いた文章を巨大掲示板にさらされて、荒らされてネットをやめる人がいた。でも今は故意に煽るような文を書いて、自分であちこちの掲示板に晒し、人を集めて広告収入を得るという時代なんだものね。発想の転換だよね。

ところで、あのUFOは??




◆ 死亡推定時刻  (朔立木)  blog版

shortさんのサイトで知って興味を持って読んでみました。

まさにドキュメンタリーのような緊張感のある作品。
全体の筋書きは架空のものだが細部は現実にあったことらしい(あとがきより)。

資産家の娘が誘拐され身代金1億円が要求される。母親が現金を持って受け渡しに向かうが、警察の判断ミスで失敗。その後犯人からの要求は途絶え、娘の遺体が発見される。警察の捜査で遺体発見現場にいたと思われる地元のチンピラ、小林昭二が逮捕された。

誘拐ドラマかと思って読み始めたのですが、テーマは冤罪。
それも冤罪を如何に晴らすかではなく、冤罪が如何に発生するかを描いている。

しかし、あえて言ってしまえば悪人は出てこない。
小林昭二の悲劇は、この事件に関係した人間がすべて凡人であったということかもしれない。刑事も裁判官も、弁護士ですら彼らにとって大切なのは真実の追求ではなく、組織、保身、プライドを守ること。彼らにとっては捜査も裁判も事務的に進む日常の仕事でしかない。

その他の関係者も先入観にしばられて身動きできない。
娘を誘拐された母親でさえ、自分を守るために嘘をついてしまう。
そんな人々の自分を守ろうとする視野の狭さで犯人が作り上げられる。

大きな事故は小さなミスや故障が重なって起こるということが言われる。
だからどんな小さなミスや故障も見過ごしてはいけないと。
冤罪も、一人の人間の悪意などで発生するのではなく、
単に簡単に仕事を済ませたいふつうの人達の怠惰で起こるのかもしれないですね。




◆ 茶々と信長  (秋山香乃)  blog版

信長という人物を姪である茶々の目から描いた作品。
そういう意味でも新しい信長像を読むことが出来ます。

歴史上の人物で信長ほど数多く多彩に描かれている人物はいないと思いますが、
なぜかそれらは信望者の視点から描いたものしかない。
この小説の信長は、批判とまではいかないけれど崇拝者とは違う視点で描かれている。そういう意味で、とても新鮮でした。

それにしても日本人にとって、信長の呪縛は大きい。
日本人には苦手なこと、たとえば自己主張の強さや強力なリーダーシップ、NOをはっきりと伝えること、カリスマ性、そんな日本人には欠けていると思われる性質を信長に託して満足しているような気さえします。

そういう人たちにはここで描かれる信長像、正常な人間関係が築けない、オタク的であって、さらには男の征服欲までそそってしまう信長は受け入れがたいものかもしれません。

実際のところはなかなかわかりにくい人物、それぞれのイメージで捕らえればいいと思いますが、信長のマイナス面がよく描かれている作品と言えるのではないでしょうか。

この本はラムさんにお借りしました(^^)


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