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最近読んだ本

2002年・
その5


「青空の卵」
「風紋」
「準急ながら」
坂木司
乃南アサ
鮎川哲也
「モナリザが盗まれた日」
「T.R.Y.」
「マレー鉄道の謎」
セイモア・V・ライト
井上尚登
有栖川有栖

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


準急ながら      鮎川哲也         角川文庫

みやげ物店の主人・鈴木武造が殺された。調べを進めるうちに、彼は他人の名を騙っていたことがわかる。さらに殺された武造の過去に関係すると思われる女性が浮かび上がったが、その女性も殺されていた。しかし犯人と思われる人物には強力なアリバイがあった。

写真と列車を使ったトリック。わかってみればなんと言うこともないんですが、見事な盲点。解決のヒントもちゃんと書いてあるんですが、普通に読んだら気が付かないでしょう。中篇ですが、アリバイトリックは一級。


青空の卵    坂木司           東京創元社

創元クライムクラブの1冊。
趣味のサイト(?)で話題になっていたので読んでみました。

主人公坂木司は外資系の保険外交マン。そして彼の中学時代からの友人鳥井真一は、引きこもりの青年。この二人が、日常生活で出会う謎を解いていく連作集。引きこもりといっても、一応プログラマーの仕事はしているし、買い物にも出かける。初対面の人とも話せるんだから、重大なものではないし、前半ではけっこう明るい性格に思えるくらいです。

ボーイスラブ系に詳しい方なら、不破慎理さんの「優しい関係」を連想するでしょう。
なにしろ「優しい関係」の主人公の1人の名前は“印南 司”なんですから・・・

全体的には、性犯罪や障害者の問題を扱っているわりには踏みこみが甘いような気がします。
いろいろなメディアで取り上げられた意見や主張をまとめただけなんですよね。問題の解決も安易。人間の描き方も一面的で、登場人物全員がどこかで読んだようなキャラクターに思えました。

でも、ボーイスラブ系と思えば、こんなものでしょう(^-^;)
読んでいる間に、鳥井真一は見事に三木眞一郎さんの声になっていたし(笑)

・「夏の終わりの三重奏」・・・男性ばかりをつけ狙うストーカー事件が起る。それもどうやら犯人は1人のよう。浮気性のストーカーかと思われた事件の裏にはある女性の悲劇があった。
・「秋の足音」・・・坂木司はラッシュ時の駅で盲目の美青年・塚田基と出会う。しかし彼は双子の尾行者に悩まされていた。
・「冬の贈り物」・・・若手歌舞伎俳優のもとに送られてきた謎めいたプレゼントの謎。
・「春の子供」・・・坂木は駅で偶然声をかけた言葉の不自由な迷子を預かることになる。なにも話さないこの子は、どこから来たのか?


 風紋・上下      乃南アサ    双葉文庫 

乃南アサの代表作といえば直木賞受賞の「凍える牙」なんでしょうけど、私としては、この「風紋」を挙げたいです。内容は犯人探しではなくて、前半は心理ドラマ、後半は一部法廷推理になっています。

被害者高浜則子は46歳の主婦。家族は夫と、二浪の長女、高2の次女の4人家族。そのどこにでもいそうな主婦が、次女の父兄会に出席したあとに他殺体で発見される。しかも犯人は長女の元担任だった。そこに起ってくる残された家族の悲劇が中心に描かれています。

突然母親を奪われた一家、突然夫が逮捕された妻と子供。「犯人意外のすべてが被害者」と言う作者の言葉が重く捉えられます。

被害者になる主婦が父兄会に出かけるまでの日常と、帰って来ない母を待つ次女の、徐々に緊迫する感情。その、不安に陥っていく過程で日常が変化していく対比が圧倒的で、一気に読ませます。

6年ぶりくらいの再読なんですが、当時は普通の主婦が殺される事件は、まだまだ珍しかったころ。だからそれだけ衝撃的な内容だったんですよね。最近は主婦が被害者になる殺人事件も増えてますが、主婦の生活範囲が変わってるんでしょうか?  それとも人間関係が濃密になりやすいのか?
サラリーマンが職場の人間関係で悩んでも、めったなことでは殺人事件にはならないですよね。


モナリザが盗まれた日  セイモア・V・ライト著 金塚貞文訳  中公文庫

米国推理作家協会賞受賞。
「現在ルーブルにあるモナリザはダヴィンチの本物か、それとも偽物なのか?」

1〜5章は、1911年に起ったモナリザ盗難事件の顛末を描き、6章ではモナリザに関する謎解きを展開しています。

特に6章の「謎」は読み応えあり。「同年代資料に書かれているモナリザには、現在ルーブルに展示されているモナリザと明らかな違いがある。それはなぜか?」「現在残されている優秀な模写・贋作、また、本物と主張されているモナリザは、ルーブルのものよりモデルが若い。贋作なら、まったく同じ物を作らなければ意味がないはず。これらの贋作は何をもとに描かれたのか?」「なぜフランスにあるのか?」などなど。

これらすべての謎を解く著者の推理は、なかなか意表を付いていて見事。ミステリー以上に興奮する内容でした。


T.R.Y.      (井上尚登)     角川書店

第19回横溝正史賞受賞作品。

----舞台は1911年の上海。日本人詐欺師の伊沢修は、ある事件に関わったことにから暗殺集団「赤眉」から命を狙われることになってしまった。その暗殺集団から逃れるために中国革命同盟会の仕事を引き受けることになるのだが、その仕事とは革命同盟会のために日本で武器を調達することで、方法は日本軍に武器を納入している商社から騙し取ることだった。----

誰が味方で誰が敵か、最後までわからない。綿密に考えられた計画も、とんでもない偶然から危機にさらされる。キャラクターも魅力的で面白かったです。特に柴犬の“武丸”がかわいいんですよ。いい味を出していて気に入ってます♪ 

欲を言えば、もう少しキャラ同志の絡みがあると面白かったでしょうね。それぞれのキャラクターが魅力的なだけにちょっと残念でした。まあ、応募作だし、この長さでは無理かとも思いますが。



マレー鉄道の謎  (有栖川有栖)   講談社ノベルス

マレー半島をを旅行中の有栖川有栖と火村英夫が遭遇した密室殺人。内側から窓やドアがガムテープで目張りされたトレーラーハウスの中で男が刺殺されていたというものですが、実にオーソドックスな謎解きです。

動機や犯人はだいたい見当がつくので、あとはトリックの解明なんですが、これがいかにも新本格というトリック。この点で評価が分かれる作品でしょうね。


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