◆「PINK」 (柴田よしき) 双葉社
最初から謎めいた展開で入りこみ易い本でした。
次から次へと提示される謎を追っているうちに、あっという間に読み終わってしまいます。
主人公メイは阪神大震災で婚約者を失い、失意にうちにありましたが、婚約者とそっくりな男性と出会い、その男性と結婚します。
事件が起こったのは結婚3年目。5日間の里帰りから戻ったメイは夫がまったくの別人になっている事に気が付きます。姿形は変わっていないのに、中身は別人になっていた。いったい彼は何者なのか? 何が目的で入れ替わったのか?
謎のメール、予知能力を持った信仰宗教の教祖などが出て来るので、ちょっと胡散くさい雰囲気はあるのですが、壮大な愛のドラマでした。2時間ドラマで見たいですね。
◆「崇徳伝説殺人事件」(内田康夫) 角川春樹事務所
主な舞台は京都。前半は老人ホームの不正に関する事件なので社会派です。
怨霊の取材で京都を訪れた浅見光彦は取材先の崇道神社で、人違いから老人ホームの不正に関係した証拠写真を渡される。やがて本来なら情報を受け取るはずだったライターと、情報を渡した女性が殺されて発見された。そしてホームの経営者までも・・・。後半の事件にちょっと崇徳上皇が絡んできます。
話は逸れますが、崇徳上皇の母・待賢門院璋子という人は興味深い人です。
知ってる人は知ってるでしょうが、白河法王の養女で鳥羽天皇の皇后になったにもかかわらず、白河法王の子を産んでしまったという人です。ちなみに、白河法王と鳥羽天皇は祖父と孫という関係です。生まれた子が崇徳天皇。
白河法王は崇徳天皇を即位させる為に鳥羽天皇を強引に退位させるわけですが、
この退位後がまたすごい。上皇となった鳥羽と璋子は1つの御殿で暮らし始めるのですが、そこに白河上皇まで同居してたんですね。
寝殿作りの寝殿に璋子、西の対に白河、東の対に鳥羽が暮らしていたと言われています。逆妻妾同居です。しかも3人は仲が良くて、特に鳥羽と璋子はLOVE×2。次々に子供が生まれます。その1人が後白河天皇になります。
しかし、白河上皇が亡くなるとこの関係も終わり、鳥羽上皇は17歳の美福門院得子という女性に夢中になります。この得子がなかなかの政治家で、鳥羽と璋子の間を裂き、崇徳と後白河を対立させ、時代は保元の乱へとなだれ込んでいきます。
待賢門院璋子は平安貴族文化の最期の大輪の花といえるでしょうね。
京都の法金剛院は璋子が再興した寺院です。
とても美しいお寺なので、機会があったら行ってみてくださいね。
◆「凶笑面」(北森鴻)新潮社
美貌の民俗学教授とその助手が探偵役のミステリー短編集。
民俗学とミステリーは、ちょっと考えると相性が良さそうですが、民俗学的仮説と現代の殺人事件を結びつけるのはなかなか難しいですね。
でも「不帰屋」などは民俗学的殺人で面白かったです。
「鬼封会」は修二会、「凶笑面」は祭面、「不帰屋」は"女の家"、「双死神」はたたら製鉄・だいだらぼっち、「邪宗仏」は景教と秦氏を扱っています。
この分野に興味のある方なら面白いと思います。
◆「QED百人一首の呪」(高田祟史) 講談社ノベルズ
メフィスト賞受賞作。
貿易会社の社長が自宅で殺された。その時、家にいたのは息子2人と娘2人、ハウスキーパーと秘書の6人。この中に犯人がいるはずなのだが、犯行時間に現場に行く事が出来た人間はいなかった。また、この社長は百人一首のコレクターで倒れた社長の手には1枚の絵札が握られていた。このダイイングメッセージは誰を指しているのか?
百人一首暗号説は多いですが、ここでは並び替えの新説。なかなか魅力的で面白かったです。ただ、殺人のトリックはフェアとは言えないでしょうね・・・
まあ、"本格"と銘打ってないからいいのですが(^^;)
◆「日本語の乱れ」(清水義範) 集英社
言葉に関する短編12編を収録。
タイトルになっている「日本語の乱れ」は、
あるラジオ番組で日本語の乱れについての投書を募集したところ、
年配の男性からの投書が殺到した。現代人の言葉使いについては、ひとこと言いたい人が多いのだな〜という話。
投書の内容は、ほとんどは言い尽くされてる事ですが、「負けず嫌い」は二重否定だから負けるのが好きという意味になってしまう、という指摘は納得してしまいました。「負け嫌い」になるはずですよね。
「目の言葉 耳の言葉」は、
サンデー毎日」が行った実験「音声入力ソフトは方言を認識できるか」に関する1編。
方言がとんでもない文章に変換されるのが笑えます。福岡弁が軍事的文章になったり、津軽弁がなまめかしくなるのはなんとなく判る気がするなあ・・・
「絵のない絵本」は、最近の犯罪を連想するミステリーです。
◆「月の裏側」(恩田陸)幻冬社
掘割が縦横に走る町箭納倉・その町で3人の人間が行方不明になった。
しかしその3人は、しばらくすると何事も無かったように戻って来た。
ただ行方不明になっていた間の記憶だけが無かった。数日間行方不明になっていた人間が帰ってくる…、しかし彼らは元の彼らではないのかもしれない…。イメージ的には不気味ですが、割りと王道のホラーです。
ただ読み終わった後が恐いです!!
このイメージ解ってもらえるかな・・・あれが恐いんです。あれが!
でも、文学しりとりは難しい〜!
◆「超能力株式会社の未来 新発作的座談会」
(椎名誠 沢野ひとし 木村晋介 目黒孝二)本の雑誌社
知ってる人は知っている「発作的座談会」の新刊。
本の雑誌に不定期に掲載されている4人の座談会をまとめたものです。
雑誌掲載時と違うのは脚注がついてること。
で、この脚注が面白いんですよ!
面白い本が読みたい人にはお薦めです。
◆「騙し絵の檻」(ジル・マゴ―ン)創元推理文庫
謎解き中心の本格ミステリーが好きな方には、絶対お薦めです!!
ビル・ホルトは幼なじみの女性と彼女を監視していた私立探偵を殺した罪で16年間服役していた。しかし彼は無実だった。仮釈放されたビルは、当時の関係者1人1人から新たに証言を引き出し、事件の真相を解明しようとする。
全編が伏線と言って良いほどの複雑な構成になっているので、どの1行もうっかり読み流せません。すべてのデータは読者に公開されていますが、真相を推理するのは難しいです。
でも、解決した後に「あそこのあれがこれだったのか〜」と判るのは快感です(^o^)
特に解決編のあの1文を読んだ時は衝撃的。驚きますよ〜!
◆「京都発見―地霊鎮魂」「京都発見―路地遊行」(梅原 猛)新潮社
京都の古寺に住みついている怨霊を紹介した本。20年も日本史ファンやっていて何度も京都は訪れましたけど、まだまだ知らないお寺があるのですね。
それにしても阿保親王を祭るお寺が多いのに驚きました。
ご利益も多いそうで、京都の生活に根付いているんですね。他に地域では見られない信仰ですね。小野氏についても謎が多いので、興味持っています。小野篁は霊界に通っていたと言うし、小野小町も不気味な伝説が多いし、謎の一族です。
◆「佐助の牡丹 御宿かわせみ25」(平岩弓枝)文芸春秋
「江戸の植木市」「梅屋の兄弟」「佐助の牡丹」「江戸の蚊帳売り」
「三日月紋の印籠」「水売り文三」「あちゃという娘」「冬の桜」の八編。
事情があって別れた親子・兄弟。時が経って巡り会った時には、お互いの生活や立場が出来ていて、「ああ嬉しいいっしょに暮らそう」という訳にはいかなくなっている。
兄弟の情を描いた「三日月紋の印籠」「水売り文三」が良かったです。
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