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お気に入りミステリー国内編

砂の城」  鮎川哲也

鳥取砂丘で女性の絞殺死体が発見された。犯人は下りの急行出雲でやって来たと思われるが、その時間、容疑者は別の列車に乗っていて出雲に乗る事は不可能だった。

アリバイトリックです。
時刻表がメインになるので、好き嫌いがはっきりするかもしれません。しかし、次々に明らかになる事実がやがて1つの結論に近づいていく過程はぞくぞくする興奮です。そしてあの最後のシーン!!特急に愛情を感じてしまいました(^o^) 
わざわざ乗りにいった私(^^;)


りら荘事件  鮎川哲也

山奥の別荘で起こる連続殺人。
最初に読んだのは12〜3歳の頃なのですが、見事に眠れなくなりました。
けっこう色彩的な描写が多くて、想像すると恐いです。

1つのトリックは素晴らしいですが、あとの2つは「???」かもしれません。
最近読み返そうとして途中で投げ出しました。昔読んでおいてよかった。


本陣殺人事件  横溝正史

例によって"お屋敷もの"です。ブームの絶頂期に読みました。
鮎川哲也の後、日本のミステリーはすべて"松本清張派&社会派"だと思っていたので、
これを読んだ時はびっくりしました。

日本では密室ものは成り立たないと言われていたのに、挑戦しただけでも素晴らしいです。そしてさらに、お屋敷もの! 
日本のミステリーを見直した1作です。


高層の死角」  森村誠一                      角川文庫

第15回江戸川乱歩賞受賞作。

高層ホテルのオーナーが、自分の経営するホテルの最上階の社長専用室で殺されて発見される。専用室はロックされていて、鍵は室内に残されていた。

さらに殺されたオーナーの秘書が福岡のホテルで殺された。犯人と思われる人物は東京のホテルに滞在中で、姿を見られていない時間は11時間半しかない。東京と殺人現場の福岡を11時間半で往復できるのか? しかも当日、東京福岡間を往復する飛行機の乗客はすべて確認が取れ、犯人が乗った形跡はなかった。どうやって東京福岡間を移動したのか?

前半は密室もの、後半はアリバイトリックになっています。

このトリックが解けてもさらに、もう1つの謎が立ちふさがります。著者自身が「蓄積しておいたトリックを惜しまず投げ込んだ。この作品は、1つの謎が解けて1個の解決に至ると、さらにその奥に謎があり別の解決が用意されているという2段階構造になっている」と書いていますが、まさにその通り。次から次へと謎が現れて、厚みのある謎解きになっています。

難点は動機が弱いところですが、そんなことは気にならないくらい密度の高い内容になってます。


猿丸幻視行」   井沢元彦

1980年第26回江戸川乱歩賞受賞作品。
梅原猛氏の『水底の歌』を元にして、柿本人麻呂と猿丸太夫が同一人物であることを謎解きの中心に置いた小説です。

『水底の歌』については、小説の中に詳しい説明と反論が書いてありますが、「柿本人麻呂は時の権力者によって刑死させられた」「人麻呂と猿丸太夫は同一人物である」という事を論証した内容。

『水底の歌』の柿本人麻呂刑死説、猿丸太夫同一人物説には1つ難点があるのですが、それを見事にクリアしてるところが衝撃的です。ミステリ的な逆想の視点なんですが、けっこう納得させられます。

小説の内容は民俗学専攻の大学生が、過去の人物の脳に同化できるという新薬を使って折口信夫の脳に同化し、猿丸額の暗号を解くというもの。前半の暗号解読は個人的にはちょっと退屈。飛ばし読みしました。

殺人事件が起こるのは2/3も過ぎたところから。猿丸ゆかりの古社の謎めいた祭りで、暗闇の中で猿丸の扮装をした宗家の後継者が塔から飛び降り首吊りをするという絵画的なもの。このあたりから一気に謎解きも進んで、ラストまで急展開。ここまで読んできたよかったと思う瞬間^^
歴史嫌いの人には薦められませんが、純粋に謎解き的発想を楽しみたい方には面白いと思います。

ところで、うちにあるのは初版なんですが、謎解きをこんな大きなイラストで入れていいのか?と疑問でした。パラパラ見たらわかってしまうと思う。

また、巻末の選評ですが、この本のネタばれが書いてあるのは仕方ないにしても、『占星術』のネタばれまで書くことないよね。その後刊行されるとは思わなかったのかな? 最近の版ではどうなっているのだろう?


火車」   宮部みゆき

休職中の刑事のもとに親類からの依頼があった。それは親類の青年の失踪した婚約者・関根彰子を探して欲しいというものだった。彰子は過去に自己破産していた事が発覚して姿を消したのだったが、その手続きをした弁護士のもとを訪れてみると、失踪した婚約者と関根彰子は別人であった事がわかる。

婚約者は本当は何者なのか? 本物の彰子の行方は? 調査を進めていくうちに本物の彰子と、彼女に成りすまそうとした女性の悲劇が明らかになる。

次々と現れる謎と判明する意外な事実に、ぐいぐいと惹きこまれる濃密な作品です。狂乱の80年代、みんなが無いものをあると思い込んで踊り狂っていた時代。その隙間に落ちてしまった2人の若い女性の見た、ある地獄のお話です。本当にあの時代って何だったんだろう?  あそこからすべてが狂っていった気がします。

この本の303ページ上段に、「これからの社会では自分の不満を犯罪という狂暴な形で清算する人間が増えてくるだろう。そのなかでどうやって生きていけばよいのか?」という予測が書かれています。「火車」の出版が1992年、「模倣犯」の連載開始が95年ということだから、この文章から「模倣犯」に続いているのかなと思いました。


十角館の殺人」  綾辻行人                   講談社文庫

孤島もの。これも「そして誰もいなくなった」に挑戦した作品の1つ。

大学の推理小説研究会のメンバー7人が、孤島に建つ十角館で1週間の休みを過ごすことになった。翌日の朝、目覚めるとテーブルの上に連続殺人を予告するプレートが置かれていた。そして3日目から、その予告は現実になってしまった。

いきなり登場人物が、エラリイとかカーとか呼び合っているので、脱力しそうになりますが、ここでめげてはいけません(^^;) 作者を信じて、最初から最後まできちんと読みましょう(^^)

このトリックが成り立つかどうか、ギリギリのところですが、プロローグに「杜撰な計画」と書かれてしまっては、文句も言えない(笑)  "孤島もの"というのは、ミステリファンの遊びみたいなものだから、これくらいは認められると思います。


99%の誘拐」  岡嶋二人                     徳間書店

1988年の作品。

イコマ電子工業社長、生駒洋一郎の長男である5歳の慎吾が誘拐された。身代金5千万円は犯人に渡り、慎吾は開放された。慎吾は無事戻ったが、身代金に使われた5千万円はイコマ電子工業の再建資金であり、資金を失った会社は大手カメラメーカーのリカードに吸収されてしまう。それから19年後、リカードの社長の息子が誘拐される事件が起こった。

2つの誘拐事件が起こるのですが、どちらも身代金受け取りの方法がスリリング。一気読みしてしまう息詰まる展開です。
後半の誘拐事件では、パソコンが重要な要素として使われています。14年も前の前の作品なのに、今でも通用する内容なのはすごいです。
やっと現実が追いついてきた感じですか・・・

ネタばれ→【配送便をプールする籠が受付カウンターの裏にあることまで、きっちり書いてるのはフェアですね! 驚きました】

 点と線  (松本清張)

時刻表を使ったトリック「4分間の空白」で有名になった古典的名作。
博多の海岸で発見された男女の遺体は、当初単純な心中事件と思われたが、男性の方が汚職事件の渦中にある人物であったことから、殺人事件の様相を帯びる。しかし容疑者として浮かんだ人物には、事件当日北海道にいたという鉄壁のアリバイがあった。

再読しての感想は「あれこんな話だっけ?」(笑)
もちろん基本のラインは覚えていたものと同じなのですが、細部がかなり違う。特にトリック。学生時代に読んだ時は、次から次へと繰り出されるトリックに感動し、さらに感激した記さえあるですが、再読した今は疑問のほうが大きかった。時刻表から空白の時間を見つけたことはすごいと思いますが、たしかにこれなら他の推理作家さんが、トリックのタブーに兆戦したくなるのもわかりますね。

【  なんと言っても、現在ではダイアグラムを使ったアリバイトリックに飛行機の利用と共犯者の存在は使わないのが暗黙の了解でしょう。飛行機を使えば列車に追いつくのは簡単ですからね。使っても追いつかない、そこからさらに複雑なトリックがあるというのはありですが。
他にも、女性二人とフルコースの食事をして、その後タクシーで駅へ向かい、わずか4分間の合わせるのも神業的に難しいことですよね。捜査陣が顔写真を持って確認していないのも、不自然な気がしました。


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